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◆アクテリア王国編
第23話 プリュネ酒で乾杯
しおりを挟む「それって、食べられないって言われたプリュネでしょ? 小樽一つ分も買っちゃって、いったいどうするのよ?」
買い出しを終えた俺たち三人は宿に戻り、食堂でのんびりとお茶を飲んでいた。
食べられない果物を買ってしまった俺に、女性陣は不満タラタラだ。
「確かにこのままじゃあ食べられないし、食べられるようにしてもフルーツのようにはならないよ」
「ロロルさん、やっぱりこの人頭おかしいです。女神様にお願いして勇者チェンジしてもらいません?」
リス耳をピコピコさせながら、リタは笑顔でそんな事をのたまう。神官らしい慈悲や優しさなんて欠片もない。
まったく、そんなひどい事を言うんじゃないよ。しかもそれ、本人を前にして言うことじゃねーだろ。
「別に俺だって無駄に買ったわけじゃないさ。このプリュネは塩漬けにしたり、酒に漬けたりすると美味しくなるんだよ」
「お酒ですって!? なによ、そうならそうと言いなさいってば!」
「やっぱり女神様の人選は間違ってなかったです」
「……女神様だって別に、料理の知識で選んではいないと思うよ?」
梅と言えば、ウナギとの食べ合わせが古くから言われていた。だが実際の食べ合わせについてだが、医学的根拠はそこまで無いと思われる。
梅の食欲増進作用で"贅沢なウナギを食べ過ぎないように"だとか、"夏の暑さで腐って酸っぱくなったウナギを梅が誤魔化さないように"など、諸説あるみたいだけどね。
「そういう食べ合わせって言えば、犬肉とニンニクってのがあってね。俺がいた国のお隣さんは、そういう格言みたいなのが昔あったんだよ」
どちらも滋養があるものとされていて、両方を摂りすぎると体に良くないってされていたみたいだ。
「くぅー!? くぅくくぅー!!!」
「ははは、アンさんは食べないから大丈夫だよ。君は俺の、大事な家族だしね」
某国では、土用の丑の日ならぬ、三伏の庚の日って言って、夏に狗肉を食べる習慣があった。
羊頭狗肉って言葉がある通り、一部の国では当たり前に食べているし、国が正式に食用肉と認めた所さえあったのだ。
「狩猟犬やペットとして飼ってる国や人は、大事なパートナーだと思っているから忌避して食べないみたいだけど。まぁ俺がいた国では犬はダメでも馬肉は食べたりするし、気分の問題なんだと思うけどね」
そんなウンチクを話しながら、俺は机の上にポンポンと材料を並べていく。
プリュネ、それと同量の砂糖を大きめのビンに入れ、それらの材料が浸るくらいまでブランデーを入れる。
ワインがあるので今回はブランデーを使ったが、本来はクセの少ないホワイトリカーを使うことが多い。ホワイトリカーは廃蜜糖からできるエタノールを抽出・加水すれば作れるが……まぁ見付けることができなかったので、仕方がない。ブランデーで作るのも風味があって大変美味しいから良いのだ。
本来ならアルコール度数が三十五度以上の酒が梅酒作りに適している。
まぁアルコール度数を測る器具なんてこの世界には無いので、今回使うブランデーの度数が高いかは正直分からないけれど。
ちなみに日本では、アルコール度数二十度未満でお酒を作ってしまうと、酒税法違反だ。でも、ここは異世界だから気にしない!
「あとは一年近く漬ければ完成だ」
一年掛かると言った瞬間、目の前の女性達に殺気の込められた目を向けられた。
「……けど、今すぐ呑みたい、よね?」
「「(コクコクッ)」」
ロロルやリタの顔を見ると二人は揃ったように首を縦に振った。
「じゃあ、今回も……アンさん、お願い!」
女性陣を敵に回したくはないので、ここは我が家の救世主アンさんに縋ろう。
アンさんはトコトコとやって来ると、いつもの犬フォームを解除し、巨大なグルメスライムの形状となると……瓶の梅酒を一気に飲み干した。
「なんだか、どんどん便利な存在になっていくわね……」
「可愛いし、強いし、誰かさんとは大違いです」
「おいソコの毒舌リス娘!! 俺の悪口って分かってるからな!」
「ぇー? ボク、そんなつもりはないでーす。勇者って自意識過剰なんですねぇ。ぷーくすくす」
「この、クソリスがぁぁああ!!」
机の周りをグルグル追いかけ逃げ回る俺たち二人をよそに、アンさんが「完成したよ~」と合図したかのように輝いた。
「早いな」
「さすがはアンさんね」
「試飲、してみるです?」
いったいどんな出来上がりになったのかワクワクしながら、俺たち三人はそれぞれのコップに梅酒を注いでいく。そして仕上げに、俺が水魔法で作ったロックアイスをみんなのコップにそっと落とす。
丸く透明な氷が琥珀色の海でカランコロンと泳ぐ度に、梅の芳醇な甘い匂いが立ち上がる。
宝石の芸術品のような見た目に一同に感動しながら、それぞれが口をつけていくと……
「「「はぁぁぁあぁあ~」」」
全員が同時に、恍惚としたた溜め息を吐いた。
「ゴクゴクとイケるエールも好きだけど、このじっくりと呑みたくなるような深いコクも堪らないわね! プリュネだっけ? コレの甘酸っぱさが甘くしたブランデーと絶妙に調和して、スッキリとした後味になっているわ」
どこかのレビューサイトみたいな感想を述べながら、呑む手は止めないロロル。
「な? 買ってよかっただろ~!! そうだ。船旅の間は暇だろうし、梅干しも作ろうっと。……ってリタ! 今、お前の懐にしまったその小瓶はなんだ?」
「えへ? えへへへ? いくら勇者様でも乙女の胸元を覗き込むのは、どうかと思うですよ? あっ! やめて! ごめんなさいぃ耳触らないで!! やっ、ひゃっ!」
バツとして俺はリタの小さく尖った、ふわふわの可愛い耳をサワサワしてやった。すると彼女は涙目で俺の手をペシペシと叩いて抗議してくる。
「……まったく。そういう事は、あと十年は女を磨いてから言うんだな!」
「ひどいですぅ……乙女にセクハラなんてサイテーの勇者様ですぅ」
梅酒の入った小瓶を取り返すと、リタは涙目で訴えてくる。
その背後では、ロロルがこっそり自分のコップに梅酒を注ぎ足して飲んでいた。
「まったく。作ろうと思えばまだ作るからゆっくり楽しもうぜ?」
「「はーい!」」
賑やかながらも、側から見れば微笑ましい雰囲気の中で、俺たち三人はトリメア最後の日をマッタリと過ごすのであった。
「あー!! 我が居ない間に酒盛りしておる!! 除け者にしおったなぁ!!!!」
「「「あっ、(レジーナさんのこと)忘れてた……!」」」
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