上 下
16 / 45
◆アクテリア王国編

第16話 港町トリメアへ

しおりを挟む
 香辛鳥の大宴会があった翌日。
 部屋から宿の食堂へ向かうと、朝食を摂っているロロルと会った。

「おはよう、ロロル」
「ん、おはよう……」

 昨日の酒が残っているのか、眠そうにトロンとした目で優しく微笑むロロル。
 うーん、こういう時は可愛いんだけどなぁ……。

 声に出すと怒られそうなので、俺は大人しく朝食を注文する。このあとは聖都から出発する予定なので、今ここで余計な口論はしたくないし。

「なぁ、さっきから気になってたんだが……あの隅っこの席で朝からエールを飲みながら、山盛りの唐揚げを喰らっている女性は誰かな……」

「はむっ! はむはむはむ! はむぅ!」

 俺の見間違いじゃなければ、レイナさんに見えるんだが……。

「……なぁ、ロロル。彼女、アレでも王の妹なんだよな?」

「それにマーニ教の枢機卿でもあるわね。面白くて良い人じゃないの。それより、今日は次の街に行くんでしょ? きっと彼女もお別れを言いに来てくれたのよ」

 うーん、そうだろうか。
 俺の目にはここのご飯を食べに来たようにしか見えないんだが。

 そんなことを考えている間に、レイナさんのテーブルの上にあった料理がすっかり空になっていた。そして彼女はナプキンで口元の汚れを綺麗にすると、俺たちのテーブルへツカツカと足音を立ててやってきた。

「もう! こんな美味しい料理を作ったんなら、わたくしも呼んでよ!」
「いや、レイナさんは仕事でお忙しいかと思って……」
「こんなに美味しい食事のためなら、仕事なんてサボってでも来るわよ! それに今日出発って、ちょっと急すぎるんじゃない? 色んな料理を知ってるなら、もっと作ってほしかったわ!」

 ちょっと拗ねたような口調でそんなことを言うレイナさん。だけどその表情は笑顔で満足そうだ。

「旅から戻ったらご馳走しますよ。何かリクエストあります?」

「あら、いいの? そうねー。肉料理も良いけど、わたくしは魚料理も好きなの。次の街のトリメアは港街だし、珍しい魚料理を思い付いたらわたくしに作ってくださる?」

「そうですね、なにか良いネタがあったら考えておきますよ。 ちなみにそのトリメアって、何かオススメとかあります?」

 特産品とか、観光名所とかあれば是非とも教えてほしい。

「そうねぇ、食べ物じゃないんだけど、マーレ族っていう亜人種が居るわ。水中でも陸でも生活ができる珍しい種族で有名よ」

「に、人魚キター! やったぁぁ! 俄然楽しみになってきた! よし、行こう! いざ、麗しのマーレ族に会いに!!」

 亜人といえばファンタジーの醍醐味!
 モフモフの獣人も良いけど、そういうおとぎ話に出てくるような種族にも会ってみたかったんだよね!!


「ねぇレイナ? そのマーレ族ってたしか……」

「ふふふ。彼を驚かせたいから、どんな見た目なのかは内緒にしておきましょう」

 なにかロロルたちがコソコソと話しているが、俺は美人な人魚の妄想で忙しい。

「ちょっと、忘れないでよね? トリメアから出ている船で海を渡って、太陽の国ヘリオスにある次の神器を手に入れるのが目的なんだからね?」

「ふははは! 愛は人種を越えることを証明してみせようではないかぁ! えへえへえへへへ」

「「この勇者、もうダメかもしれないわ」」


 ◆◆◇◇

「ヒドイです! なんてボクの事起こしてくれなかったんですか! 朝カラアゲ定食を食べ損ねたです!」

「おいおい。リタは昨晩、一人で五人前も食べたじゃないか……」

「昨日は昨日です! そんな古いこと言ってると、また加齢臭が漂ってくるですよ!」

「俺まだ二十代だよ? さすがに傷つくよ!?」


 言い争う俺とリタ、そして運転手のロロルを魔導機に乗せ、俺たちは聖都ジークを出発する。今日の天気は快晴で、絶好の旅日和だ。

「いやー、こう天気が良いのは俺の普段の行いが良いからだな! 港街に着いたら海水浴でもしたいぜ」

「それを言うなら、私の行いが良いからよ。なにせ善行しかしないもの」

「ボクのお祈りが女神様に通じたです!」

 ロロルの発言にはツッコミどころしかないが、神官であるリタの祈りはもしかしたら効果があったのかも?

「女神様も俺のこと見てくれてるのかなー。そういえば、この世界で知られてる女神様ってどんな神様なんだ?」
「美人よ!」
「美人ですぅ!」

 なんだ? 二人とも即答したけど……。
 でもまぁ神様が美人なのは良くある話だよな、うん。


 ワイワイと会話をしながら、俺たちは街道を進む。
 途中飛び出してくる雑魚ゴブリン達は、ロロルのMD砲で街道の肥料となった。

 そうして快調に進むこと、約二日。


「うーーっはぁぁあ!! うーーみーーだーーー!」

「あいっかわらず広いわねー! 真っ青で綺麗だわ!!」

「うにゅ? もう昼ごはんです?」

 小高い丘を抜けると、そこには地平線の先まで広がるブルーの絨毯があった。

「ちょっとだけ心配していたけど、この世界も青い海で良かったよ。真っ赤な血の海だったらどうしようかと」

「教典では青い血の海と言われてるですよ? 創世の時代に海神が魔神と戦ったときに流れた血が、そのまま海になったってお話ですぅ」

「うはぁ。でもまぁ想像のお話だしな、気にしない気にしない」

「それでその戦いで落とした片腕が肉片となり、海の生物になったとか」

 やめて!? これから海の幸楽しもうとしてるんだから、生々しい話やめようぜ!?

「盛り上がっているところ悪いんだけど、トリメアの街に着いたから降りる準備をしてくれる?」

「ん? おぉ、着いたか! この街もいい具合に賑わってるな~」

 街の奥にある港に、ヨットみたいな帆船がずらっと並んでいるのが遠目に見えた。カラフルな帆が多く、見てるだけで面白い。まるでヨーロッパの絵画のようだ。

「ハハハ。色とりどりで綺麗だろ? 今見えてるベレーロっつう帆船で漁をやってるんだぜ」

 街の入り口で騒いでいると、ふいに話しかけられた。その人物を見れば、簡単な木製鎧と槍を持ったお兄さんだった。

「……おっと、トリメアの街へようこそ! この街は初めてかい?」

「ロロル! ロロルさんや! ホンモノの門番さん!!」

 彼女から「やめてよ恥ずかしい!!」というツッコミを受けながら、俺は初めて見る門番さんに興奮しまくっていた。

「ん? もしや王都から来たのか? 王都や聖都は結界で守られてるから門番が居ないもんな」

 え、そういう理由だったんだ。王都には一か月近くいたけれど、知らなかったな。

「この港街は半分海に囲まれてるし、隣国から商人や冒険者がやって来る。結界魔法では覆いきれないし、コストが合わないからね。だから俺たち門番が人の目でチェックしてるってワケだ」

「へぇ~。そういや思い返してみれば、王都にゃ外壁も門も無かったわ。もしかすると町に門も壁もない日本に住んでいたから、違和感が無かったのかもしれないな」

「ニホン? 異国の人かい? まぁどこの出身でも問題を起こさなきゃ、このトリメアは大歓迎だ。特にこの街はいろんな種族が居るから、仲良くしてくれよな!」

「(問題を起こすな、かぁ……なんとなく起きる気しかしないなぁ)」

 嫌な予感を頭からふるい落とすようにして、俺たちは潮の香る港街トリメアへと入って行った。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

エッケハルトのザマァ海賊団 〜金と仲間を求めてゆっくり成り上がる〜

スィグトーネ
ファンタジー
 一人の青年が、一角獣に戦いを挑もうとしていた。  青年の名はエッケハルト。数時間前にガンスーンチームをクビになった青年だった。  彼は何の特殊能力も生まれつき持たないノーアビリティと言われる冒険者で、仲間内からも無能扱いされていた。だから起死回生の一手を打つためには、どうしてもユニコーンに実力を認められて、パーティーに入ってもらうしかない。  当然のことながら、一角獣にも一角獣の都合があるため、両者はやがて戦いをすることになった。 ※この物語に登場するイラストは、AIイラストさんで作成したモノを使っています。

勇者をしている者なんですけど、キモデブ装甲のモブAにチェンジ魔法を使われて、身体が入れ替わった!? ありがとうモブA!やっと解放された!

くらげさん
ファンタジー
 雑草のように湧いてくる魔王の討伐を1000年のあいだ勇者としてこなしてきたら、キモデブ装甲のモブAに身体を取られてしまった。  モブAは「チェンジ魔法」のユニークスキル持ちだった。  勇者は勇者を辞めたかったから丁度良かったと、モブAに変わり、この姿でのんびり平和に暮らして行こうと思った。  さっそく家に帰り、妹に理由を話すと、あっさりと信じて、勇者は妹が見たかった景色を見せてやりたいと、1000年を取り戻すような旅に出掛けた。  勇者は勇者の名前を捨てて、モブオと名乗った。  最初の街で、一人のエルフに出会う。  そしてモブオはエルフが街の人たちを殺そうとしていると気付いた。  もう勇者じゃないモブオは気付いても、止めはしなかった。  モブオは自分たちに関係がないならどうでもいいと言って、エルフの魔王から二週間の猶予を貰った。  モブオは妹以外には興味なかったのである。  それから妹はエルフの魔王と仲良くなり、エルフと別れる夜には泣き止むのに一晩かかった。  魔王は勇者に殺される。それは確定している。

小雪が行く!

ユウヤ
ファンタジー
1人娘が巣立った後、夫婦で余生を経営している剣道場で弟子を育てながらゆったりと過ごそうと話をしていた矢先に、癌で55歳という若さで夫を亡くした妻の狩屋小雪。早くに夫を亡くし、残りの人生を1人で懸命に生き、20年経ったある日、道場をたたむと娘夫婦に告げる。その1年後、孫の隆から宅配で少し大きめの物が入ったダンボールを受け取った。 ダンボールを開けると、ヘッドギアと呼ばれているらしい、ここ5年でニュースに度々挙げられている物と、取り扱い説明書と思われる、車のサービスマニュアルほどの厚みをもつ本と、孫の隆本人による直筆と思われる字体で『おばあちゃんへ』と銘打った封筒が入っていた。 ヘッドギアと説明書を横目に、封筒を開封すると、A4用紙にボールペンで、近況報告から小雪の息災を願う文章が書かれていた。とりあえずログインをしてと書かれていたのでログインすると、VRMMO、オールフィクションの紹介に入る。なんでも、今流行りのこのモノは、現実世界のようにヴァーチャルの世界を練り歩く事ができ、なおかつ、そのゲームには料理が様々とあり、色々な味を楽しむ事が出来るとの事だ。 美味しいものを食べることを今の生き甲斐としている小雪に、せめてもの援助をと、初給料をはたいて隆が小雪への娯楽道具をプレゼントしたという事を知り、小雪は感激のあまり少し涙する。 それが、伝説の老女誕生の瞬間だったーー。

【完結】ねこの国のサム

榊咲
ファンタジー
ねこのくにに住んでいるサムはお母さんと兄妹と一緒に暮らしています。サムと兄妹のブチ、ニセイ、チビの何げない日常。 初めての投稿です。ゆるゆるな設定です。 2021.5.19 登場人物を追加しました。 2021.5.26 登場人物を変更しました。 2021.5.31 まだ色々エピソードを入れたいので短編から長編に変更しました。 第14回ファンタジー大賞エントリーしました。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

じいちゃんから譲られた土地に店を開いた。そしたら限界集落だった店の周りが都会になっていた。

ゆうらしあ
ファンタジー
死ぬ間際、俺はじいちゃんからある土地を譲られた。 木に囲まれてるから陽当たりは悪いし、土地を管理するのにも金は掛かるし…此処だと売ったとしても買う者が居ない。 何より、世話になったじいちゃんから譲られたものだ。 そうだ。この雰囲気を利用してカフェを作ってみよう。 なんか、まぁ、ダラダラと。 で、お客さんは井戸端会議するお婆ちゃんばっかなんだけど……? 「おぉ〜っ!!? 腰が!! 腰が痛くないよ!?」 「あ、足が軽いよぉ〜っ!!」 「あの時みたいに頭が冴えるわ…!!」 あ、あのー…? その場所には何故か特別な事が起こり続けて…? これは後々、地球上で異世界の扉が開かれる前からのお話。 ※HOT男性向けランキング1位達成 ※ファンタジーランキング 24h 3位達成 ※ゆる〜く、思うがままに書いている作品です。読者様もゆる〜く呼んで頂ければ幸いです。カクヨムでも投稿中。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界ライフの楽しみ方

呑兵衛和尚
ファンタジー
 それはよくあるファンタジー小説みたいな出来事だった。  ラノベ好きの調理師である俺【水無瀬真央《ミナセ・マオ》】と、同じく友人の接骨医にしてボディビルダーの【三三矢善《サミヤ・ゼン》】は、この信じられない現実に戸惑っていた。  俺たち二人は、創造神とかいう神様に選ばれて異世界に転生することになってしまったのだが、神様が言うには、本当なら選ばれて転生するのは俺か善のどちらか一人だけだったらしい。  ちょっとした神様の手違いで、俺たち二人が同時に異世界に転生してしまった。  しかもだ、一人で転生するところが二人になったので、加護は半分ずつってどういうことだよ!!   神様との交渉の結果、それほど強くないチートスキルを俺たちは授かった。  ネットゲームで使っていた自分のキャラクターのデータを神様が読み取り、それを異世界でも使えるようにしてくれたらしい。 『オンラインゲームのアバターに変化する能力』 『どんな敵でも、そこそこなんとか勝てる能力』  アバター変更後のスキルとかも使えるので、それなりには異世界でも通用しそうではある。 ということで、俺達は神様から与えられた【魂の修練】というものを終わらせなくてはならない。  終わったら元の世界、元の時間に帰れるということだが。  それだけを告げて神様はスッと消えてしまった。 「神様、【魂の修練】って一体何?」  そう聞きたかったが、俺達の転生は開始された。  しかも一緒に落ちた相棒は、まったく別の場所に落ちてしまったらしい。  おいおい、これからどうなるんだ俺達。

処理中です...