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◆アクテリア王国編
第9話 神器と泉
しおりを挟む聖都グルメに後ろ髪を引かれつつ、俺たち勇者一行は大聖堂カシードラへとやってきた。
「そういえば神器の剣って、この大聖堂にあるんだろ? 大切に保管されてるようなものをあっさり貰えるのか?」
「あぁ、それは――」
「うふふふ。それにはご心配ありませんわ、勇者様」
大聖堂の奥から出てきたのは、ウェーブのかかった漆黒の髪をした妖艶な美女だった。薄暗い屋内にステンドグラスから差し込む光が彼女に陰影を作り、美しさを更に際立たせている。
そしてその彼女は、身体に白い布をまとっているのだが……。
「(め、目のやり場に困る……!)」
必要最低限の部分しか隠せていないので、首から下に視線をやることができない。(チラチラ見ているのだが)
――女神だ。
まちがいない、彼女がこの世界の女神に違いない。
「ようこそいらっしゃいました。私はここの枢機卿であるレイナと申します。ちなみに国王レクスは私の兄ですの」
「(う、うそだぁ!!)」
この世界にも遺伝子はあるのかな?
あるんだよな?
いや、確かに国王もイケメンだったよ?
だけど俺が知ってる王様って、ただのセクハラジジイだよ?
飲み屋のねーちゃんにセクハラしようとして、店主のおっちゃんに殴られていたし。
しかもそのあとに王妃様が店に突撃してきて、首根っこ掴まれてドナドナされているような人だよ?
そんなことを考えていると、レイナさんは俺の目の前にやってきた。
「あらあら? 旅でお疲れなのかしら? 大丈夫?」
この歳で頭撫でられたー!?
俺は男だけどナデポ(古い)しちゃう!
ていうか近い!
柔らかいのが当たってる!
いい匂いする!!
「ふふふ、いい子ね。そんなにナデナデがお好きなら、いくらでも撫でてあげるわよ?」
「アッ……」
唐突に俺の胸を指でツツーゥと撫でられ、俺の理性は強制起動終了した。
「あーレイナさん? 揶揄うのはその辺にしていただかないと、ウチの勇者(笑)が愚者に退化しそうなんですけど」
「あらあら、残念。まぁいいわ。私の部屋にいらして。お二人とも歓迎いたしますわ」
◇◇◆◆
「……思ってたより、中は質素なんだな」
外観と違い、内装は質実剛健な作りをしていた。レイナさんの私室……といっても執務室らしい机のある部屋は必要最低限の家具しかなく、豪華さとはかけ離れていた。
呆気に取られている俺を見ると、レイナさんはクスクスと笑いながらお茶を淹れてくれた。
「それで? この聖都には神器を回収しにきた、ということでよろしいのね?」
「えぇ、魔王討伐の旅には欠かせないとのことで。この大聖堂に保管されているんですよね?」
艶かしく生足を組み替えるレイナさんを見ないように、俺は視点を後ろの壁に固定しながら会話を続ける。下手すると椅子から立ち上がれなくなりそうだし……。
「いいえ。特に保管しているわけではないわ」
「えぇっ? まさか魔族に奪われたんじゃないですよね!? それとも何か試練が必要とかですか?」
「大丈夫、神器はこの大聖堂のどこかにある……ハズよ。そうね、口で説明するよりも、実際に取りに行ってもらったほうが早いかしら。アキラ君、一人で私に着いてきてくれる?」
なんだ?
すごく意味深な言い方をされた気がするが……。
「仕方ない、行ってくるか」
「アキラ、大丈夫なの?」
「……たぶん?」
不安しかないが、ここで行かない手は無いしね。
そうしてレイナさんの案内で、迷路のような聖堂内を歩かされることおよそ10分。俺の眼前には、巨大な青銅製の両開き扉があった。
「神器はこの扉の先にありますの。詳しいことは、中にある石碑に書かれておりますので。さぁ、いってらっしゃい」
「え? いやそんなニッコリ笑顔で言われても……わかりました。行けばわかるんですね」
扉を押すと、ギギギ……と音を立てて開いていく。
おそるおそる中に入ってみれば――なるほど、確かに石碑がある。
そしてその側には、小さな泉があった。
「えーっと、なになに? 『汝 魔ヲ払ウ心正シキ勇気ヲ持チ 力ヲ求メルナラバ 時ヲ捨テ 泉ニ命ノ欠片ヲ入レヨ』だって?」
うーん……意味わからん。
戻ってレイナさんに意味を尋ねたいが、こうして俺に一人で行かせたからには、何か理由があるハズだ。
「まず欠片ってなんだ?」
命の欠片ってちょっと不穏なんだよなぁ。
血とかだったらちょっと嫌だなぁ。
「まさか命そのものを入れろって意味じゃないだろうし……命のように大事なモノってことか?」
それでいて泉に入れられるモノ。
そういえば、泉に何かを落とすって何か昔話で聞いたな……
「――そうだ!」
あるアイデアを閃いた俺は、まだ新品同様の片手剣を腰から外し、勢いをつけて泉に投げ入れた。
「戦士にとって、武器は自分の命を預ける大事な相棒。つまり命の欠片とも言えるんじゃないのか!?」
俺が持つ唯一の武器は泉の中へと沈んでいく。思ったよりも深さがあるようで、すぐにその姿は見えなくなった。
だ、大丈夫だよな?
これで何も起こらなかったら、きっとロロルに馬鹿にされるだろうな……。
「……おっ!?」
そわそわしながら泉の水面を見つめていると、やがてブクブクと泡が立ってきた。
「おっ? 正解か? やはり俺は天才だったようだなぁ!! ふはははは! ……は?」
綺麗な弧を描いて、何かがこちらに飛んできた。
――ザシュッ!
そんな嫌な音を立て、俺の胸に何かが突き刺さる。
「え……?」
避ける間もなかった。
すぐに胸に焼ける痛みが走る。
ゆっくり自分の視界を下に向けると、俺の胸に銀色に輝く刃が生えていた。
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