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新進気鋭な男爵様のオモテとウラ①
しおりを挟む「――というわけで私が今抽出したギンゲロールには、炎症を抑える作用があります。……あの、シャーレ様?」
「うん? どうしたんだい?」
朝食とは思えない豪華な食事のあと。
旦那様であるシャーレ様は、お屋敷の中に用意させたという魔法薬の研究室へと私を案内してくれた。そこで魔法薬の調合を実演してみせていたんだけど……。
「どうして私なんかのために、こんなに立派な部屋を?」
私たちが居るこの部屋には、立派な研究設備が整っていた。
最新式の魔導分離器に、大きな素材も保存できる冷凍庫。そして希少で高価な試薬の数々。国家予算が注ぎ込まれた王立魔法薬研究所レベルとまではいかずとも、個人で揃えられる機材としては破格のラインナップである。
それらを私のために用意したと聞いて、驚きを隠せなかった。そんな私の反応が嬉しかったのか、シャーレ様はにっこりと微笑んだ。
「私は君の魔法薬師としての腕に興味があってね。実は結婚を申し込んだのも、研究への熱心な姿勢に惚れ込んでしまったんだ」
……あれ? 聞き間違いかしら?
「あのー……すみません、もう一度言ってもらえますか?」
「おっと、君は男性に二度も告白させる気かい?」
「えっ? あ、いや。その……」
「ははは、冗談だよ。ともかくキミには思う存分、魔法薬の研究をしてもらいたい」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。研究バカな私にとって、こんなに嬉しいことは無いけれど……。
「何故、そこまでしてくださるのでしょうか?」
私がそう尋ねると、シャーレ様は少し考える素振りを見せた。
「本音を言うと、キミには私の身内を助けてほしいんだ」
「身内……ですか?」
シャーレ様の言葉に首を傾げていると、彼はこう続けた。
「そうだ。その人は魔力硬化症に罹ってしまってね。命の危機が迫っている。私はその人を救いたくて、あらゆる医療団体を支援していたんだが……どうにも上手くいかなくてね。そんな時にキミの存在を知って……是非とも助けになってほしいと思ったんだ」
「魔力硬化症の治療に……ですか?」
魔力硬化症とは、その名前の通り身体を変質させてしまう病気のことだ。症状は人それぞれで、四肢の筋肉が石のように固まったり、髪の毛が針金みたいになったりする人も居るという。
発症自体が珍しく、感染性もないのでそこまで話題にはならないんだけど。シャーレ様の身内が病気にかかったということは、初耳だった。
「それは大変ですね……でもどうして私にそこまで頼むんですか? お医者様なら他にいっぱい居るでしょう?」
「この病気に医者は無力だ。優秀な魔法薬師でないと治すことができないんだよ」
つまりシャーレ様は、魔力硬化症を専門とした人物を探していたいうことだ。
私の持っている月光狼の牙で治すことができるだろうけど……それをどこかで知ったのかしら。それにその素材もローグ君のお母様に使ったから、残り一つしか残っていないのよね。
……でも。夫の家族を助けるためなら、出し渋っている場合じゃないわ。
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