上 下
9 / 19

新進気鋭な男爵様のオモテとウラ①

しおりを挟む

「――というわけで私が今抽出したギンゲロールには、炎症を抑える作用があります。……あの、シャーレ様?」
「うん? どうしたんだい?」

 朝食とは思えない豪華な食事のあと。
 旦那様であるシャーレ様は、お屋敷の中に用意させたという魔法薬の研究室へと私を案内してくれた。そこで魔法薬の調合を実演してみせていたんだけど……。


「どうして私なんかのために、こんなに立派な部屋を?」

 私たちが居るこの部屋には、立派な研究設備が整っていた。

 最新式の魔導分離器に、大きな素材も保存できる冷凍庫。そして希少で高価な試薬の数々。国家予算が注ぎ込まれた王立魔法薬研究所レベルとまではいかずとも、個人で揃えられる機材としては破格のラインナップである。

 それらを私のために用意したと聞いて、驚きを隠せなかった。そんな私の反応が嬉しかったのか、シャーレ様はにっこりと微笑んだ。


「私は君の魔法薬師としての腕に興味があってね。実は結婚を申し込んだのも、研究への熱心な姿勢に惚れ込んでしまったんだ」

 ……あれ? 聞き間違いかしら?

「あのー……すみません、もう一度言ってもらえますか?」
「おっと、君は男性に二度も告白させる気かい?」
「えっ? あ、いや。その……」
「ははは、冗談だよ。ともかくキミには思う存分、魔法薬の研究をしてもらいたい」

 どうやら聞き間違いではなかったらしい。研究バカな私にとって、こんなに嬉しいことは無いけれど……。


「何故、そこまでしてくださるのでしょうか?」

 私がそう尋ねると、シャーレ様は少し考える素振りを見せた。

「本音を言うと、キミには私の身内を助けてほしいんだ」
「身内……ですか?」

 シャーレ様の言葉に首を傾げていると、彼はこう続けた。

「そうだ。その人は魔力硬化症にかかってしまってね。命の危機が迫っている。私はその人を救いたくて、あらゆる医療団体を支援していたんだが……どうにも上手くいかなくてね。そんな時にキミの存在を知って……是非とも助けになってほしいと思ったんだ」

「魔力硬化症の治療に……ですか?」

 魔力硬化症とは、その名前の通り身体を変質させてしまう病気のことだ。症状は人それぞれで、四肢の筋肉が石のように固まったり、髪の毛が針金みたいになったりする人も居るという。

 発症自体が珍しく、感染性もないのでそこまで話題にはならないんだけど。シャーレ様の身内が病気にかかったということは、初耳だった。


「それは大変ですね……でもどうして私にそこまで頼むんですか? お医者様なら他にいっぱい居るでしょう?」
「この病気に医者は無力だ。優秀な魔法薬師でないと治すことができないんだよ」

 つまりシャーレ様は、魔力硬化症を専門とした人物を探していたいうことだ。

 私の持っている月光狼の牙で治すことができるだろうけど……それをどこかで知ったのかしら。それにその素材もローグ君のお母様に使ったから、残り一つしか残っていないのよね。

 ……でも。夫の家族を助けるためなら、出し渋っている場合じゃないわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子様、あなたの不貞を私は隠します

岡暁舟
恋愛
アンソニーとソーニャの交わり。それを許すはずだったクレアだったが、アンソニーはクレアの事を心から愛しているようだった。そして、偽りの愛に気がついたアンソニーはソーニャを痛ぶることを決意した…。 「王子様、あなたの不貞を私は知っております」の続編になります。 本編完結しました。今後続編を書いていきます。「王子様、あなたの不貞を私は糧にします」の予定になります。

仲良く政略結婚いたしましょう!

スズキアカネ
恋愛
養女として子爵令嬢になったレイアに宛がわれた婚約者は生粋の貴族子息様だった。 彼が婿入りする形で、成り立つこの政略結婚。 きっと親の命令で婚約させられたのね、私もかわいそうだけど、この方もかわいそう! うまく行くように色々と提案してみたけど、彼に冷たく突き放される。 どうしてなの!? 貴族の不倫は文化だし、私は愛人歓迎派なのにオリバー様はそれらを全て突っぱねる。 私たちの政略結婚は一体どうなるの!? ◇◆◇ 「冷たい彼に溺愛されたい5題」台詞でお題形式短編・全5話。 お題配布サイト「確かに恋だった」様よりお借りしています。 DO NOT REPOST.

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

【完結】最初からあなたは婚約対象外です

横居花琉
恋愛
王立学園へ通うことになった伯爵令嬢グレースに与えられた使命は良い婚約者を作ること。 それは貴族の子女として当然の考えであり、グレースは素直に受け入れた。 学園に入学したグレースは恋愛とは無関係に勉学に励んだ。 グレースには狙いがあったのだ。

おしどり夫婦を演じていたら、いつの間にか本当に溺愛されていました。

木山楽斗
恋愛
ラフィティアは夫であるアルフェルグとおしどり夫婦を演じていた。 あくまで割り切った関係である二人は、自分達の評価を上げるためにも、対外的にはいい夫婦として過ごしていたのである。 実際の二人は、仲が悪いという訳ではないが、いい夫婦というものではなかった。 食事も別なくらいだったし、話すことと言えば口裏を合わせる時くらいだ。 しかしともに過ごしていく内に、二人の心境も徐々に変化していっていた。 二人はお互いのことを、少なからず意識していたのである。 そんな二人に、転機が訪れる。 ラフィティアがとある友人と出掛けることになったのだ。 アルフェルグは、その友人とラフィティアが特別な関係にあるのではないかと考えた。 そこから二人の関係は、一気に変わっていくのだった。

なんでも報告してくる婚約者様

雀40
恋愛
政略結婚を命じられた貴族の子どもは、婚約中にどういうふうに関係を築いていくかを考えた。 そうしてふたりで話し合って決めたのは「報告すること」。 お互いの感情と情報のすれ違いによるトラブルの防止を目的とした決め事だが、何でもオープンにすることに慣れてしまうと、それはそれで問題に……? ―――――――――――――――――――――――――――――――――― 真面目女子✕真面目男子。 双方真面目が過ぎて若干ポンコツ気味なカップルのゆるい話。

【完結】あなたのいない世界、うふふ。

やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。 しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。 とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。 =========== 感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。 4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。

第十王子との人違い一夜により、へっぽこ近衛兵は十夜目で王妃になりました。

KUMANOMORI(くまのもり)
恋愛
軍司令官ライオネルとの婚約を強制された近衛兵のミリアは、片思い相手の兵長ヴィルヘルムに手紙を書き、望まぬ婚姻の前に純潔を捧げようと画策した。 しかし手紙はなぜか継承権第十位の王子、ウィリエールの元に届いていたようで―――― ミリアは王子と一夜を共にしてしまう!? 陰謀渦巻く王宮では、ウィリエールの兄であるベアラルの死を皮切りに、謎の不審死が続き、とうとうミリアにも危険が迫るが――――

処理中です...