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第1章 悪役令嬢、日本へ
1-4 悪役令嬢のMake up.
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レイカ=グランデ=ファスティアは公爵令嬢という身分を捨て、ただの日南 玲華として生きていくことになった。
奇しくも同じレイカという名前だったのは運命か、はたまた偶然か。
とにもかくにも、レイカはこの未知の世界に一刻も早く馴染まなくてはならない。
なにしろこの日本という島国には、彼女の味方など一人も居ないのだから。
「あーあー、あいうえお。んんっ、こんな感じで合っているのかしら? この日本語っていう言語はちょっと複雑ね。平仮名にカタカナ、漢字に英数字? 記憶力の良い私はともかく、良くこの国の一般市民はこんなに多種多様の文字を覚えているわね。そうとう優秀な人種なのかしら?」
玲華の記憶を引き継いでいるおかげで、言語の習得に困ることは無いようだ。
とはいえ彼女は元々記憶力にはかなりの自信があったので、もしイチから覚えるということになってもそれほど苦労はしなかったであろう。
前の世界に居た時から王妃として、また優秀な魔法使いとして書物や呪文、人名や法律など多岐にわたる膨大な知識を詰め込んできたのだ。
「んー、魔法の方はイマイチみたいね。これは身体が変わった影響かしら? 上手く魔力が練れないわ。うぅん、さすがにこればっかりは仕方がないわね」
記憶の中の日南玲華はもちろん、この世界の人間は魔法なんて使わない。いちおう魔力は空気中にも漂っているようだが、本来の玲華の身体は魔法を使えるようにできてはいないのだ。
「そんなことより、私が見たことも聞いたことも無い世界が広がっているのよね。ふふふっ、早く見てみたいわ!」
カレンダーで確認してみると、今日は仕事の無い土曜日だった。
さっそくこの世界を堪能してみるには、まさにうってつけの日であろう。
「――その前に、だわ。まったく何なのよ、このボロッボロな身体は!? いくら仕事がハードだったからって、自分の身体なんだからメンテナンスぐらいしっかりしなさいよ。もうっ、こんなに体中がやつれちゃって……」
まだ朝なのに空腹感は凄いし、肌や髪は夏の暑さでベッタベタ。何となく、自分の身体から饐えた臭いがしている気がする。
元貴族令嬢であった身としては身なりが恥ずかしすぎて、このまま他人が居る外へ出ることなど出来ない。
彼女は先ず手始めに、身だしなみを整えることにした。
といっても、公爵家に居た時とはまるで環境が違う。
こういう時に玲華はどうしていたのか、もう一人の自分の記憶を辿ってみる。
「ふぅん? シャワーっていう魔道具……いえ、こちらの世界の技術があるのね」
玲華が独り暮らしをしていたのは、ちょっとボロがきている安アパートだ。
さすがに屋敷にあったような大浴場は無いが、清潔なユニットバスがあった。
「……そっか。今の私って、独りぼっちなのよね」
いざお風呂に入ろうとしたレイカだが、ここでいつもはいたお付きの侍女が居ないことに気付く。主と従者という間柄だったが、幼い頃から共に育った仲の良い友人。その彼女が居ないという寂しさがここに来てレイカを襲ってきた。
そして日本の一般人、しかも貧乏だった玲華に侍女など居るはずがない。
色々と異なる勝手に戸惑いつつも、仕方なくレイカは一人で慣れない衣装を脱いでいく。
そして一糸まとわぬ姿となった。
「ふんふん。これを回すのね……こうかしら? ……きゃあっ!?」
水道のバルブを捻ると、蛇口からは当然のようにドバっと流れ出す。
慌てて逆に回すと、今度はシャワーヘッドから飛び出した冷水が彼女を襲った。
「な、なんなのよ……危険すぎるわ、この世界っ!」
どれもこれもが初めての経験することばかり。だけどこの日本で生活していくためにも、一刻も早く覚えなければ。
しかしここは彼女の本来の素質がそうさせたのか、スポンジのように玲華の知識を吸収して自分のものにしていく。
最初はあれだけ戸惑っていたアレコレをあっという間に使いこなし、30分後にはホカホカ綺麗になったレイカは、こなれた様子で優雅にドライヤーをかけていた。
「ふふふん~♪ このシャンプーは凄いわね! あんなにギットギトだった髪がもうサラッサラよ。ボディーソープも香りが良いし、お肌もスベスベになったわ」
ちなみに貧乏生活を送っていた玲華は、高級なソープ類など揃えてなどいなかった。
しかしそこは公爵令嬢もビックリの日本製化粧品である。
ドラッグストアの特売品ですら、王家への献上品にも勝るクォリティだったのだ。
ツヤツヤになった自分の身体に、すっかりご満悦な様子のレイカ。
――ぐぅううぅ。
「……あっ。やだ、まったくもう。ご飯ぐらいしっかりとりなさいよ、玲華!」
玲華の記憶によれば、なんと昨日の朝から何も食べていなかったようだ。
貴族の嗜みとして規則正しい生活を心掛けていた彼女は、玲華の信じられないような生活環境に改めて絶句してしまう。
「な、なにか食べなくっちゃ。このままじゃまた死んじゃうわよっ!?」
しかし冷蔵庫にもキッチンの戸棚にも、何一つロクな食料が無い。
「仕方がないわね……こうなったら外へ食事に参りましょう。むしろこれは日本のフードを食べるチャンスよ!」
こうして異世界からやってきた悪役令嬢の、日本で初めてのお出掛けが決定した。
奇しくも同じレイカという名前だったのは運命か、はたまた偶然か。
とにもかくにも、レイカはこの未知の世界に一刻も早く馴染まなくてはならない。
なにしろこの日本という島国には、彼女の味方など一人も居ないのだから。
「あーあー、あいうえお。んんっ、こんな感じで合っているのかしら? この日本語っていう言語はちょっと複雑ね。平仮名にカタカナ、漢字に英数字? 記憶力の良い私はともかく、良くこの国の一般市民はこんなに多種多様の文字を覚えているわね。そうとう優秀な人種なのかしら?」
玲華の記憶を引き継いでいるおかげで、言語の習得に困ることは無いようだ。
とはいえ彼女は元々記憶力にはかなりの自信があったので、もしイチから覚えるということになってもそれほど苦労はしなかったであろう。
前の世界に居た時から王妃として、また優秀な魔法使いとして書物や呪文、人名や法律など多岐にわたる膨大な知識を詰め込んできたのだ。
「んー、魔法の方はイマイチみたいね。これは身体が変わった影響かしら? 上手く魔力が練れないわ。うぅん、さすがにこればっかりは仕方がないわね」
記憶の中の日南玲華はもちろん、この世界の人間は魔法なんて使わない。いちおう魔力は空気中にも漂っているようだが、本来の玲華の身体は魔法を使えるようにできてはいないのだ。
「そんなことより、私が見たことも聞いたことも無い世界が広がっているのよね。ふふふっ、早く見てみたいわ!」
カレンダーで確認してみると、今日は仕事の無い土曜日だった。
さっそくこの世界を堪能してみるには、まさにうってつけの日であろう。
「――その前に、だわ。まったく何なのよ、このボロッボロな身体は!? いくら仕事がハードだったからって、自分の身体なんだからメンテナンスぐらいしっかりしなさいよ。もうっ、こんなに体中がやつれちゃって……」
まだ朝なのに空腹感は凄いし、肌や髪は夏の暑さでベッタベタ。何となく、自分の身体から饐えた臭いがしている気がする。
元貴族令嬢であった身としては身なりが恥ずかしすぎて、このまま他人が居る外へ出ることなど出来ない。
彼女は先ず手始めに、身だしなみを整えることにした。
といっても、公爵家に居た時とはまるで環境が違う。
こういう時に玲華はどうしていたのか、もう一人の自分の記憶を辿ってみる。
「ふぅん? シャワーっていう魔道具……いえ、こちらの世界の技術があるのね」
玲華が独り暮らしをしていたのは、ちょっとボロがきている安アパートだ。
さすがに屋敷にあったような大浴場は無いが、清潔なユニットバスがあった。
「……そっか。今の私って、独りぼっちなのよね」
いざお風呂に入ろうとしたレイカだが、ここでいつもはいたお付きの侍女が居ないことに気付く。主と従者という間柄だったが、幼い頃から共に育った仲の良い友人。その彼女が居ないという寂しさがここに来てレイカを襲ってきた。
そして日本の一般人、しかも貧乏だった玲華に侍女など居るはずがない。
色々と異なる勝手に戸惑いつつも、仕方なくレイカは一人で慣れない衣装を脱いでいく。
そして一糸まとわぬ姿となった。
「ふんふん。これを回すのね……こうかしら? ……きゃあっ!?」
水道のバルブを捻ると、蛇口からは当然のようにドバっと流れ出す。
慌てて逆に回すと、今度はシャワーヘッドから飛び出した冷水が彼女を襲った。
「な、なんなのよ……危険すぎるわ、この世界っ!」
どれもこれもが初めての経験することばかり。だけどこの日本で生活していくためにも、一刻も早く覚えなければ。
しかしここは彼女の本来の素質がそうさせたのか、スポンジのように玲華の知識を吸収して自分のものにしていく。
最初はあれだけ戸惑っていたアレコレをあっという間に使いこなし、30分後にはホカホカ綺麗になったレイカは、こなれた様子で優雅にドライヤーをかけていた。
「ふふふん~♪ このシャンプーは凄いわね! あんなにギットギトだった髪がもうサラッサラよ。ボディーソープも香りが良いし、お肌もスベスベになったわ」
ちなみに貧乏生活を送っていた玲華は、高級なソープ類など揃えてなどいなかった。
しかしそこは公爵令嬢もビックリの日本製化粧品である。
ドラッグストアの特売品ですら、王家への献上品にも勝るクォリティだったのだ。
ツヤツヤになった自分の身体に、すっかりご満悦な様子のレイカ。
――ぐぅううぅ。
「……あっ。やだ、まったくもう。ご飯ぐらいしっかりとりなさいよ、玲華!」
玲華の記憶によれば、なんと昨日の朝から何も食べていなかったようだ。
貴族の嗜みとして規則正しい生活を心掛けていた彼女は、玲華の信じられないような生活環境に改めて絶句してしまう。
「な、なにか食べなくっちゃ。このままじゃまた死んじゃうわよっ!?」
しかし冷蔵庫にもキッチンの戸棚にも、何一つロクな食料が無い。
「仕方がないわね……こうなったら外へ食事に参りましょう。むしろこれは日本のフードを食べるチャンスよ!」
こうして異世界からやってきた悪役令嬢の、日本で初めてのお出掛けが決定した。
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