3 / 29
第3話 天使、日本に降臨す。
しおりを挟む
天使長ラファから辞令を受けたミカエルとリィンはさっそく、シロとクロが混沌渦巻く人間界へと降臨していた。
2人が最初にやってきたのは、高層ビルが建ち並ぶ日本の首都である東京。
多くの人が行き交う渋谷の交差点に、誰にも気付かれることなくポンと現れた。
「んー! 娑婆の空気はやっぱり格別ですねーシショー!!」
アスファルトの道路の上でググーっと背伸びをしながら、受刑者みたいなセリフを発するリィン。
やっと与えられた任務で初めて人間界にやってこれたという喜びに、彼女のテンションはいきなり最高潮のようだ。
しかし、それだけ大声ではしゃげば当然、周りの人の視界に彼女は入るワケで……。
「ねぇ、あの子。見て見て!! すっごい綺麗……」
「わぁっ、すごい! 何かの撮影かなぁ?」
彼女は今、真っ白なワンピースを着て人間に紛れていた。
傍目から見れば、人間離れしたような整った顔をしている美少女モデルのようだろう。
だが彼女の頭髪は左右で綺麗に黒と白に別れているので、一般の人にはいっそう奇異に映っている。
その証拠に街行く人たちの視線は次第に集まってゆき、どの人も彼女の事を珍しいものを見る目で眺めていた。
「あんまり目立つような行為は避けてよ、リィン。それにボクたち天使は呼吸をしないんだから空気の違いなんて分からないだろ?」
そう答えるミカエルだったが、彼自身もここでは相当浮いていた。
なにしろ彼は上から下まで真っ白な姿をしているからだ。
髪が白いのはまぁ、そういうファッションなのだとしても。
彼が来ている純白のワイシャツにスラックス、そして白磁のような靴はかなり目立っている。
「シショー、やっぱり私たち……変じゃないです?」
「……分かってる。ちょっと待ってて」
ミカエルは同じく真っ白な肩掛け鞄から天秤の描かれている端末を取り出した。
天秤の上には槍と盾が乗っている変わったデザインだが、パッと見では人間界でもありふれたスマートフォンにも思える。
「あっ、それって十二天使様だけが支給される黙示録最新版シリーズ! いいなぁ……私たち見習い天使にとっては、いつか手に入れたい憧れのアイテムですよ!?」
天界に棲む天使には階級があり、上から天使長、大天使、天使、見習いと続いていく。
そのランクによって持てる天使用アイテムも変わってくるのである。
通常の人間が善性であるシロに一定値まで染まって死んだとき、まずは見習い天使となって天界にやってくる。
そこから数年かけて天界で修行したり、人間界に降りて善行を行う。
そうして自身を更にシロに染め上げていくことで、段々とランクアップをしていくわけなのだが……。
「私、クロの因子があるからいつまで経っても見習いのままなんですよね。見習いだと人間界に降りる許可も出ないから、全然シロも集められないし……」
彼女の見た目通り、リィンは何故かクロの因子を持って生まれてきてしまった。
通常、彼女ほどのクロの因子を持っていると、まず天使として天界に呼ばれないはずなのだが――。
「神が何故キミをそんな中途半端な天使にしたのかは分からない。だけど、そうなってしまったことをいつまでも悩んでいても仕方がないだろう?」
「シショー……」
クロを嫌悪する天使。そして彼らが棲まう天界では、リィンは迫害に近い扱いを受けていた。
なにしろ、彼女みたいなマガイモノは他に存在していなかったからだ。
だから彼女のクロが周りにどんな影響を及ぼすかも分からないし、階級の低く不安定な天使なんかは生理的に彼女を受け付けなかった。
そんな彼女を見かねた天使長ラファが大天使であったミカエルに相談したのだ。
マガイモノ同士、どうにかならないか、と。
「キミにはキミにしかない特別な能力がある。だから自分を恥じる必要はないよ。何より、ボクが君を必要としているんだからね」
「うっ、シショー。それって口説き文句ですかぁ? あんまりそういうことをホイホイと女の子に言うべきじゃないですよー!」
「うん? こんなこと、長いこと生きてきて言うのは初めてだよ?」
当然でしょ、といった顔でそう答えるミカエル。
ちょっと顔を赤らめながら、リィンは「違うの、そうじゃないの……」と頭を抱える。
立場も年齢も天界では上から数えた方が圧倒的に早い、ミカエルはまさに天上人であるはずなのに……。師匠は偶にこうやって普通とはズレたことを言う。
そんな弟子の悩む様子を気にすることも無く、ミカエルは端末をその細く長い指でスイスイとスワイプしていく。
「ん、コレでいいかな。なんか考えるのも面倒臭いし。リィンも適当でいいよね?」
「はい、もう何でもいいですから……私、早くどこか此処じゃないところに移動したいです……!」
ここに来たときは嬉しさでいっぱいだったのに、すでに疲れた顔で帰りたそうだ。
「分かった。じゃあコレで。頼むよ、釣り合う矛盾」
『オーダーを承りました。少々お待ちください』
ミカエルが依頼を告げると、リーブラと呼んだ端末から承認の機械音声が流れた。
そして1分も経たないうちに、2人の衣装が一変した。
2人が最初にやってきたのは、高層ビルが建ち並ぶ日本の首都である東京。
多くの人が行き交う渋谷の交差点に、誰にも気付かれることなくポンと現れた。
「んー! 娑婆の空気はやっぱり格別ですねーシショー!!」
アスファルトの道路の上でググーっと背伸びをしながら、受刑者みたいなセリフを発するリィン。
やっと与えられた任務で初めて人間界にやってこれたという喜びに、彼女のテンションはいきなり最高潮のようだ。
しかし、それだけ大声ではしゃげば当然、周りの人の視界に彼女は入るワケで……。
「ねぇ、あの子。見て見て!! すっごい綺麗……」
「わぁっ、すごい! 何かの撮影かなぁ?」
彼女は今、真っ白なワンピースを着て人間に紛れていた。
傍目から見れば、人間離れしたような整った顔をしている美少女モデルのようだろう。
だが彼女の頭髪は左右で綺麗に黒と白に別れているので、一般の人にはいっそう奇異に映っている。
その証拠に街行く人たちの視線は次第に集まってゆき、どの人も彼女の事を珍しいものを見る目で眺めていた。
「あんまり目立つような行為は避けてよ、リィン。それにボクたち天使は呼吸をしないんだから空気の違いなんて分からないだろ?」
そう答えるミカエルだったが、彼自身もここでは相当浮いていた。
なにしろ彼は上から下まで真っ白な姿をしているからだ。
髪が白いのはまぁ、そういうファッションなのだとしても。
彼が来ている純白のワイシャツにスラックス、そして白磁のような靴はかなり目立っている。
「シショー、やっぱり私たち……変じゃないです?」
「……分かってる。ちょっと待ってて」
ミカエルは同じく真っ白な肩掛け鞄から天秤の描かれている端末を取り出した。
天秤の上には槍と盾が乗っている変わったデザインだが、パッと見では人間界でもありふれたスマートフォンにも思える。
「あっ、それって十二天使様だけが支給される黙示録最新版シリーズ! いいなぁ……私たち見習い天使にとっては、いつか手に入れたい憧れのアイテムですよ!?」
天界に棲む天使には階級があり、上から天使長、大天使、天使、見習いと続いていく。
そのランクによって持てる天使用アイテムも変わってくるのである。
通常の人間が善性であるシロに一定値まで染まって死んだとき、まずは見習い天使となって天界にやってくる。
そこから数年かけて天界で修行したり、人間界に降りて善行を行う。
そうして自身を更にシロに染め上げていくことで、段々とランクアップをしていくわけなのだが……。
「私、クロの因子があるからいつまで経っても見習いのままなんですよね。見習いだと人間界に降りる許可も出ないから、全然シロも集められないし……」
彼女の見た目通り、リィンは何故かクロの因子を持って生まれてきてしまった。
通常、彼女ほどのクロの因子を持っていると、まず天使として天界に呼ばれないはずなのだが――。
「神が何故キミをそんな中途半端な天使にしたのかは分からない。だけど、そうなってしまったことをいつまでも悩んでいても仕方がないだろう?」
「シショー……」
クロを嫌悪する天使。そして彼らが棲まう天界では、リィンは迫害に近い扱いを受けていた。
なにしろ、彼女みたいなマガイモノは他に存在していなかったからだ。
だから彼女のクロが周りにどんな影響を及ぼすかも分からないし、階級の低く不安定な天使なんかは生理的に彼女を受け付けなかった。
そんな彼女を見かねた天使長ラファが大天使であったミカエルに相談したのだ。
マガイモノ同士、どうにかならないか、と。
「キミにはキミにしかない特別な能力がある。だから自分を恥じる必要はないよ。何より、ボクが君を必要としているんだからね」
「うっ、シショー。それって口説き文句ですかぁ? あんまりそういうことをホイホイと女の子に言うべきじゃないですよー!」
「うん? こんなこと、長いこと生きてきて言うのは初めてだよ?」
当然でしょ、といった顔でそう答えるミカエル。
ちょっと顔を赤らめながら、リィンは「違うの、そうじゃないの……」と頭を抱える。
立場も年齢も天界では上から数えた方が圧倒的に早い、ミカエルはまさに天上人であるはずなのに……。師匠は偶にこうやって普通とはズレたことを言う。
そんな弟子の悩む様子を気にすることも無く、ミカエルは端末をその細く長い指でスイスイとスワイプしていく。
「ん、コレでいいかな。なんか考えるのも面倒臭いし。リィンも適当でいいよね?」
「はい、もう何でもいいですから……私、早くどこか此処じゃないところに移動したいです……!」
ここに来たときは嬉しさでいっぱいだったのに、すでに疲れた顔で帰りたそうだ。
「分かった。じゃあコレで。頼むよ、釣り合う矛盾」
『オーダーを承りました。少々お待ちください』
ミカエルが依頼を告げると、リーブラと呼んだ端末から承認の機械音声が流れた。
そして1分も経たないうちに、2人の衣装が一変した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
天使と悪魔
夜乃桜
恋愛
世界の生命の循環を管理する神々の『天界』には〈天使〉と呼ばれるモノがいた。死者の魂の循環を管理する神々の『冥界』には〈悪魔〉と呼ばれるモノがいた。別々の『世界』に存在する〈彼ら〉は与えられた役目のために、時に敵対、時には共闘する存在。
そんな〈彼ら〉が『天界』と『冥界』の狭間である『あわい』で十年に一度行われる会議で、縁を結ぶ。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
私と白い王子様
ふり
恋愛
大学の春休み中のある日、夕季(ゆき)のもとに幼なじみの彗(けい)から電話がかかってくる。内容は「旅行に行こう」というもの。夕季は答えを先送りにした電話を切った。ここ数年は別々の大学に進学していて、疎遠になっていたからだ
夕季
https://x.gd/u7rDe
慧
https://x.gd/gOgB5
「『私と白い王子様』について」
https://x.gd/aN6qk
スメルスケープ 〜幻想珈琲香〜
市瀬まち
ライト文芸
その喫茶店を運営するのは、匂いを失くした青年と透明人間。
コーヒーと香りにまつわる現代ファンタジー。
嗅覚を失った青年ミツ。店主代理として祖父の喫茶店〈喫珈琲カドー〉に立つ彼の前に、香りだけでコーヒーを淹れることのできる透明人間の少年ハナオが現れる。どこか奇妙な共同運営をはじめた二人。ハナオに対して苛立ちを隠せないミツだったが、ある出来事をきっかけに、コーヒーについて教えを請う。一方、ハナオも秘密を抱えていたーー。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる