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婚姻破棄をするなら私を追放してください!
しおりを挟む「燦爛の魔女、カレン! 今この場で、貴様との婚姻を破棄させてもらおう!!」
「な、なんですって……!?」
荘厳な雰囲気が漂う、白亜の大聖堂。
今日の婚姻の儀を見るために、多くの民衆が駆け付けていた。
だが今の状況は祝福ムードとは程遠い。
汚れひとつ無かった美しい大理石の床には真っ赤な血の海が広がり、その中央には人間だったナニカが無残にも転がされている。
この惨劇を引き起こした犯人も凶器も、ここに居る全員が知っている。
何故ならば花婿が右手に持っているのは、血に塗れた宝剣。
それもたった今使われたばかりだと分かるような、生温かい液体が滴っていたからである。
突然の凶行に騒めいている中、この物語の主人公であるカレンは果敢にもその犯人に立ち向かっていた。
何を隠そう、この犯人こそカレンの婚姻者、ジェイドだったのだ。
この国で最も権威のある深緑の軍服姿で、堂々と婚姻破棄を言い放った。
対するカレンが着ているのは、町娘が着るようなみすぼらしいワンピース。
大陸の覇者とも言えるリグド皇国の次期皇帝の伴侶となるには、確かに彼女は釣り合わないかもしれない。
だがそれとこれとは話が別だ。
突然こんな場所で、婚姻を解消なんてされても困る。
「色んな理不尽に耐えて耐えて、ここまでやって来たのに……!」
(そもそも夫婦になるつもりが無かったのなら、婚約の時点で破棄しなさいよ……!!)
この国にやってきてから受けた仕打ちが、一気にフラッシュバックする。
来て早々に形だけの妻にされ、新人のメイドにすら邪魔者にされた。
城を追い出された後は、農民としてボロ家でひもじい生活を送る毎日。
今日だって、農作業をしてからここへ来た。
「残念ながら、貴様よりも我が妃に相応しい魔女がいるのでな」
「悪いわねぇ~、薄汚れたドブネズミちゃん。アンタは田舎にでも帰って、芋でも齧っていなさい」
ジェイドの隣りには深紅のドレスを身に纏った妖艶な美女。
たしかに、女としての魅力は彼女に軍配が上がるだろう。
カレンとは違って、胸もお尻も大きい。
だけどそんな事で引き下がるわけにはいかない……!!
「貴方たちは、魔女の名前が目当てで嫁に引き入れたというのですか!!」
「当然だろうが。我が最強のリグドに、弱者は要らん。まさか魔女協定でやって来たのが、貴様のようなカス魔力しか持たない女だったとはな。まぁ心配するな。貴様の国も直ぐに、我がリグド皇国の領土としてやる。クハハハッ!!」
魔女協定。
戦争を繰り返すこの国と和平をするために、王族の魔導士である魔女を交換する協定。
この男はカレンが人生を懸けてやってきたことを、笑いながら無かったことにすると言った。
「分かりました。そこまで言うのなら、私のことをこの国から追放してください!!」
――この日より皇国は、燦爛の魔女と呼ばれる本当の所以を身をもって知ることとなる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シトリン(太陽石):シトラス(柑橘)に名前を由来する宝石。明るさと元気をもたらしてくれる効果があるとされている。ちなみに日光には弱いので長時間晒さないことをオススメする。石言葉「親愛、希望」 ※別の宝石、サンストーンも太陽石と呼ばれている。
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