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1-6 悶える魔王
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「取り引き、ですって……??」
魔王ウルが提案したのは、聖女との取り引きだった。
「そう、取り引きだよ。もしくは、契約とも言うかな?」
「……ふざけないでよ。誰が貴方みたいな悪党と契約だなんて……!!」
なにしろ、自分は魔王だと名乗った相手だ。
誰が好き好んで騙されると分かっている相手と取り引きや契約など交わすものか。
「ならこの勇者クンの身体は俺が貰ったままでも良いってことかい? コイツは俺を殺すために共に背中を預け合った大事な仲間であり、特にモナ。キミにとっては――」
「それ以上、レオの顔で余計なことを口走ったら貴方の言う契約は絶対にしないわよ」
キッ、と音がしそうなほどの鋭い目つきでウルを睨みつけるモナ。
長い間、魔王を斃す旅が終わるまではと誰にも明かさずに大切に温めてきた想いなのだ。
中身は違うとはいえ、よりによって本人の口から自分の秘密を聞きたくは無かった。
「それに私のことを名前で呼ぶ許可を出した覚えはないわよ」
「ふふふ……それは失礼、お嬢さん。とはいえ俺の出した提案……取り引きは、キミにとっても良い話だと思うよ?」
「……そこまで言うのなら、内容を言ってみなさいよ」
仇敵の思い通りになるのが余程悔しいのか、不服そうな顔をしながらも渋々話に乗ってきたモナを見て、ウルはニッコリと微笑んだ。
そのウルのいう提案とは以下の五つだった。
1、契約相手を殺害、及び身体を傷付けるような攻撃をしない。
2、お互いに嘘をつかない。
3、契約の内容を他人に教えない。
4、契約した後にどちらかがこれらを破った場合、その度に相手が望むものを捧げること。
5、期間はひと月とし、お互いに契約破棄を了承した場合のみ期間満了前に無効となる。契約終了後、サルバトーレ=ウルティムはレオナルドに身体を返却すること。
モナが想像していたよりも、その契約は随分と常識的な範疇の内容だった。
そしてこの取り引きを受ければレオが無傷で帰ってくるというのなら、彼女は応じないわけにもいかない。
その場で考えた末に、仕方なくモナは受け入れることにした。
さっそく、モナが杖を使って空に文字を描く。
文章はさっきウルが言った契約の内容だ。
これで最後に互いにサインをすれば契約が成立する。
魔力が誰にも宿るこの世界では一般的な方法であるが、自分で魔力を込めた契約内容を破れば相応のペナルティが降ってくる仕組みになっている。
「本当にこれさえ守れば、レオを返してくれるのね?」
契約の証に羽のようなタトゥーをお臍の辺りに刻まれてしまったモナが、最後の確認としてそう問いかける。
「契約の通りさ。一ヶ月もあれば俺も自分の身体を手に入れることが出来ると思うんだ。そうすれば俺も勇者の身体に居る必要はなくなるからね。ただ……」
「ただ、なによ。後になって条件を付け加えようたって、そうはいかないわよ!?」
すでに契約は成されたのだ。
後出しで不利な条件を出したりなんて行為は許されない。
「女神の祝福を受けたこの容れ物に、魔王である俺の魂が入ったことが原因なのかもしれないんだけど……」
「けど、なに? まさかレオの身体に何か悪いことが……!?」
それまで余裕たっぷりの態度だった魔王は急にダラダラと汗をかき始めている。
もともと全く性質の違う二人なのだ。
なにか不具合が起きてしまっても不思議ではない。
「う、ぐうぅ……ゆ、勇者と魔王の魔力が混ざって……さっきから、とんでもない量の力が溢れ出ているんだ……」
「混ざって……力が? ちょっと、それがどうしたっていうのよ!!」
「……だ」
「はい? なによ、ハッキリと言いなさい!!」
歯切れ悪く震えた声でボソボソと何かを呟いている魔王ウル。
気のせいか息も荒く、目も泳いでいるようだ。
じれったくなったモナは相手を傷付けてはいけないという契約内容も忘れ、彼に掴みかかって問いただす。
「性欲が……抑えきれないんだ……!!」
「――え? せいよ、く??」
魔王ウルが提案したのは、聖女との取り引きだった。
「そう、取り引きだよ。もしくは、契約とも言うかな?」
「……ふざけないでよ。誰が貴方みたいな悪党と契約だなんて……!!」
なにしろ、自分は魔王だと名乗った相手だ。
誰が好き好んで騙されると分かっている相手と取り引きや契約など交わすものか。
「ならこの勇者クンの身体は俺が貰ったままでも良いってことかい? コイツは俺を殺すために共に背中を預け合った大事な仲間であり、特にモナ。キミにとっては――」
「それ以上、レオの顔で余計なことを口走ったら貴方の言う契約は絶対にしないわよ」
キッ、と音がしそうなほどの鋭い目つきでウルを睨みつけるモナ。
長い間、魔王を斃す旅が終わるまではと誰にも明かさずに大切に温めてきた想いなのだ。
中身は違うとはいえ、よりによって本人の口から自分の秘密を聞きたくは無かった。
「それに私のことを名前で呼ぶ許可を出した覚えはないわよ」
「ふふふ……それは失礼、お嬢さん。とはいえ俺の出した提案……取り引きは、キミにとっても良い話だと思うよ?」
「……そこまで言うのなら、内容を言ってみなさいよ」
仇敵の思い通りになるのが余程悔しいのか、不服そうな顔をしながらも渋々話に乗ってきたモナを見て、ウルはニッコリと微笑んだ。
そのウルのいう提案とは以下の五つだった。
1、契約相手を殺害、及び身体を傷付けるような攻撃をしない。
2、お互いに嘘をつかない。
3、契約の内容を他人に教えない。
4、契約した後にどちらかがこれらを破った場合、その度に相手が望むものを捧げること。
5、期間はひと月とし、お互いに契約破棄を了承した場合のみ期間満了前に無効となる。契約終了後、サルバトーレ=ウルティムはレオナルドに身体を返却すること。
モナが想像していたよりも、その契約は随分と常識的な範疇の内容だった。
そしてこの取り引きを受ければレオが無傷で帰ってくるというのなら、彼女は応じないわけにもいかない。
その場で考えた末に、仕方なくモナは受け入れることにした。
さっそく、モナが杖を使って空に文字を描く。
文章はさっきウルが言った契約の内容だ。
これで最後に互いにサインをすれば契約が成立する。
魔力が誰にも宿るこの世界では一般的な方法であるが、自分で魔力を込めた契約内容を破れば相応のペナルティが降ってくる仕組みになっている。
「本当にこれさえ守れば、レオを返してくれるのね?」
契約の証に羽のようなタトゥーをお臍の辺りに刻まれてしまったモナが、最後の確認としてそう問いかける。
「契約の通りさ。一ヶ月もあれば俺も自分の身体を手に入れることが出来ると思うんだ。そうすれば俺も勇者の身体に居る必要はなくなるからね。ただ……」
「ただ、なによ。後になって条件を付け加えようたって、そうはいかないわよ!?」
すでに契約は成されたのだ。
後出しで不利な条件を出したりなんて行為は許されない。
「女神の祝福を受けたこの容れ物に、魔王である俺の魂が入ったことが原因なのかもしれないんだけど……」
「けど、なに? まさかレオの身体に何か悪いことが……!?」
それまで余裕たっぷりの態度だった魔王は急にダラダラと汗をかき始めている。
もともと全く性質の違う二人なのだ。
なにか不具合が起きてしまっても不思議ではない。
「う、ぐうぅ……ゆ、勇者と魔王の魔力が混ざって……さっきから、とんでもない量の力が溢れ出ているんだ……」
「混ざって……力が? ちょっと、それがどうしたっていうのよ!!」
「……だ」
「はい? なによ、ハッキリと言いなさい!!」
歯切れ悪く震えた声でボソボソと何かを呟いている魔王ウル。
気のせいか息も荒く、目も泳いでいるようだ。
じれったくなったモナは相手を傷付けてはいけないという契約内容も忘れ、彼に掴みかかって問いただす。
「性欲が……抑えきれないんだ……!!」
「――え? せいよ、く??」
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