29 / 33
第29話 捨てた男、そして神になった男。
しおりを挟む「ふぅ~。ガチガチに拘束されていたおかげで、体が痛いぜ……」
「さすがはマコっちゃん。やっぱり何かを仕込んでいたんだね?」
俺の手首から解放されたロープを手に取って、タカヒロは感心したように言った。
使用したアイテムの名前は"テールネイル君"。
爪に貼るシールタイプのシロモノでテールは尻尾、ネイルは爪という意味だ。……なんとも安直なネーミングである。
この"テールネイル君"を使うと、指先が触手のように伸びて操れるようになる。ご想像の通り、本来はヒロインに対して拘束プレイをする用のアイテムだ。形状も自由自在に変えられるので、細くして狭い穴の中を移動させたり、薄く広げて覆ったりすることもできる。
「ただのおふざけアイテムであるテールネイル君を、こんな風に使うなんてね。これのアイデアを出した僕も、ちょっとビックリだよ」
「お前が考えたアイテムだったのかよ! ネーミングセンスなさすぎんだろ!」
「でも分かりやすくて使い勝手も良いでしょう? だけど女の子相手に悪用しちゃダメだよ? トワりんが知ったら泣いちゃうかも」
「お前にだけは言われたくねぇよ! それにトワりんには使ってない。今回だって何かあったときの保険に備えておいただけだ」
……本音を言えばトワりんを相手に使ってみたかったけど。だがそんな馬鹿正直に自分の性癖を語るつもりはない。仮にもこの世界での実姉が目の前にいるわけだし。
ともあれ俺は改めてタカヒロと向き合った。そして彼に問う。
「で、お前は何を知っているんだ? トワりんが危険だとか、死を偽装する必要があったとか言ってたが、それは本当なのか?」
「僕がこのゲームの開発者だったことまでは言ったよね。それじゃあ今度は、僕がこの世界でしてきたことを少し話しておこうか」
タカヒロは真剣な顔になって語り始めた。
「この世界に飛ばされて、僕はすぐに転生したことに気付いた。そしてそれは、ある人物が僕を殺そうと仕組んだということも」
「ある人物……?」
「そう。ソイツは僕よりも先にこの世界に飛び込み、恨みを持つ僕を殺すための準備を着々と進めていたんだ」
タカヒロの話によると、その人物はゲームを開発した中核メンバーのひとりだったらしい。それも元の世界では天才的な頭脳を持つ男だった。
しかしある日突然、彼は自ら命を絶ってしまった。その原因は不明だという。
だが彼が遺していったメモの中に『俺はこんなクソな現実を捨てて、新しい世界で神になる』という一文があったそうだ。
「その男は生前から常々言っていたんだよ。自分は特別な存在であり、いずれ世界を支配する神様になれるはずだってね。事実、ハイクラの創造主である彼はここで神になったというわけさ」
つまり俺たち転生者を含め、この世界の住人は彼の駒にすぎないというわけか。
「それで、そいつは今どこに……?」
「いやぁ、僕も彼を探し出すのに苦労したんだよ。なにせ誰に転生したのか、さっぱり分かんなかったんだもの」
「おい、それじゃどうしようもないじゃないか!」
思わず声を荒げてしまう俺だったが、タカヒロは涼しい顔をしている。そしてこともなげにこう答えた。
「だって、名前も見た目も変わってしまっているんだよ? 僕も君も、そうだっただろう?」
「う、ぐ……それは……」
たしかにタカヒロの言う通りだ。というか、俺は前世で自分がどんな名前でどんな姿をしていたかなんて、ほぼ覚えていないが。
「でも安心して。マコっちゃんたちのおかげで、その正体を掴めたんだ」
「本当か!? ……って、そうならそうと早く言えよ!」
「ごめんごめん。だけどマコっちゃんが次から次へと質問攻めにするから」
それを言われると返す言葉がない。
「まあ、それはさておき。今回マコっちゃん達は、僕を殺すためにヒロイン達をけしかけた人物をスパイダーという情報屋から聞き出そうとしたでしょ?」
「……あぁ。結局は先に殺されちまって、失敗に終わったけどな」
莉子と宇志川が情報屋のアジトに到着した時にはもう、何者かの手によって皆殺しにされてしまっていた。俺たちが向かうことが何故か事前にバレて……ん?
「おい、まさか」
「あははは……。実は僕たち、マコっちゃんたちよりも先にその情報屋を狙っていてね。沙月ちゃんのアイテムを使って、襲撃者たちを追跡していたんだ。当然だけど、マコっちゃんたちのことも監視させてもらっていたよ」
「つまり俺たちの情報を流していたのは、お前だったのかよ……」
なるほど。コイツは俺たちを撒き餌にして、黒幕の正体を暴いたっていうことらしい。
それにしても、味方を利用するとは侮れないヤツだ。
「やっぱりお前、性格が悪いよ……」
「自覚はしてるから、褒め言葉として受け取っておくよ」
タカヒロはヘラヘラ笑いながら受け流す。
まったく、調子の良い奴め。まぁそのおかげで黒幕の正体が判明したようだし、今回は許してやるとするか……。
だがタカヒロが告げたその黒幕の正体に、俺は強い衝撃を受けた。
「彼の世界での名前は磯崎玄間。……そう、トワちゃんのお父さんだったんだ」
0
お気に入りに追加
371
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
【R18 】必ずイカせる! 異世界性活
飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。
偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。
ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。
NTRもののゲームの世界に転生した私の生存戦略
クラッベ
ファンタジー
突如前世の記憶が蘇ったソフィア・グランデール。
彼女は前世でプレイしたことあるゲームの世界に転生したと知り…絶叫した。
何故なら自分が転生した世界が寝取られもののエロゲの世界で、しかも自分がエンディングで雑な感じに間男に肉便器にされてしまうモブキャラであったからだ。
美人な貴族の娘に生まれ変わったってのにこんなのあんまりよ!
ソフィアはそんな悲惨な運命を変えるべく、行動を開始するのであった。
(当連載には、センシティブな表現が含まれています。)
(ちょこちょことですが、文章の細かい所を修正中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる