上 下
26 / 33

第26話 居るはずのない、アイツ。

しおりを挟む

「……んっ」

 次に目が覚めた時、俺はベッドの上に寝転がっていた。視界は真っ暗で、辺りは何も見えない。


「あれ、なんでこんなところに……? 確かトワりんと話をしていて……」

 思い出そうとすると、頭がズキズキと痛む。酒なんて飲んでいないのに、前世で酒を飲み過ぎた時の感覚がよみがえる。

 どうしてこんなことに? そうだ、キスした直後にトワりんに謝られて、その後なぜか眠くなって……。

 そこまで考えてハッとする。


「トワりんはどこだ!?」

 彼女は無事だろうか。それに意識を失う前にトワりんが謝っていた理由も気になる。

 早く彼女を見付けなければ。しかし慌てて上半身を起こそうとするも、起き上がることができなかった。なぜか手首や足首が何かで縛られているみたいだ。


「おはよう、マコト君」
「トワりん!? ってどうしてここに莉子が!?」

 彼女の声と共に、部屋の電気がパッとついた。

 急に明るくなったことで眩む目を必死にこらすと、目の前にはロープでぐるぐる巻きにされた莉子の姿があった。まるで芋虫のような状態で床に転がらされていて、口元にはテープのような物で塞がれているのが見えた。


 そんな莉子の隣では、椅子に座ってこちらを眺めているトワりんがいた。

 トワりんは俺たちと違って拘束されておらず、さっきと同じピンクの部屋着姿をしている。
 だが手にはスタンガンらしきものを持っており、その表情はどこか冷たく、無感情だった。


「あの、トワりん。これはどういうことなのかな?」

 恐る恐る尋ねてみると、トワりんは無言のままスタスタと近付いてきた。そして手に持っていたスタンガンを俺の首筋に押し当ててきた。


「ひっ!」

 恐怖と冷たい感触に思わず悲鳴を上げる。


「暴れないでね、マコト君。さっきは薬で眠ってもらったけど、抵抗するようなら柳嶋さんみたいになっちゃうから」

 トワりんは隣で眠る莉子をチラッと視線を向けてから、ニッコリと微笑んだ。莉子はどうやら気絶しているだけらしい。とりあえずホッとしたが、トワりんの言葉を聞いて再び緊張が高まる。

 どんな理由があったかは知らないが、莉子をスタンガンで拘束したのは彼女らしい。

 俺はゴクリと唾を飲んだ後、彼女を刺激しないようになるべく優しい口調を意識して話しかけた。


「何かこうしなきゃいけない理由があったの? もしかして俺が何か気に障るようなことを――」
「そんなわけないじゃない。私はマコト君のことが大好きなんだよ?」

 トワりんはそう言うと、俺の頬を優しく撫でてくる。
 だけど相変わらず目だけは笑っていない。

 やっぱりおかしい。トワりんはこんなことはしないはずだ。
 一体何が起こっているのか分からないが、とにかく俺たちの拘束を解いてもらわなければ。


「だったら、今すぐこのロープを外してくれないかな? 何か困りごとが起きているのなら、俺が助けるからさ……?」

 するとトワりんは困ったように首を横に振った。


「ごめんなさい、それは無理なの」
「そんな、どうして……」
「マコト君を守るためには必要なことだったの。だから私あの人の言う通りに……あれ、どうして私はこんなものを持って……」
「トワりん……?」

 なんだか彼女の様子が変だ。急に会話にならなくなったかと思いきや、俺を無視して支離滅裂なことを言い始めた。


「い、いや……こんなこと、私は……わたしは!!」

 挙句の果てに頭を手で押さえると、イヤイヤと髪を振り乱しながら蹲ってしまった。よく見ると顔色も悪く、目が血走っている。

 なんだ? 何が起きている?


「はぁ、やっぱりこうなっちゃったか。やっぱりアイテムに頼り切るのは良くないね」
「だ、誰だ――!?」

 声のした方を見ると、誰もいなかったはずの空間にいつの間にか見知らぬ男が立っていた。

 見たところ、男は俺と同い年くらいだろうか。だが顔を見ても特徴があまりなく、なんだかぼんやりとしていて認識しにくい。

 彼が俺の知り合いでないことは明らか。だが不思議なことにその一方で、どこかで見たことがあるような気もする。なんなんだ、この不気味な男は――。


「あぁ、ごめんごめん。このままじゃ僕が誰だか分からないよね。――これでどうかな?」

 男は自分の顔を覆うように両手をかざすと、次の瞬間には彼の姿が変化していた。


「お、お前は――!!」

 さっきまでとは違い、今はモヤのかかったような顔がハッキリと分かる。

 そしてその顔は、俺が良く知っている顔だった。


「どうしてお前が生きているんだ、タカヒロ!!」

 そこにいたのは、生首にされて殺されたはずのタカヒロだった。


「そんな、バカな。お前は死んだはずだろう!!」
「えぇ~? それは随分と酷い言い方だなぁ、マコっちゃん」

 その口ぶりとは裏腹に、奴はケラケラと楽しげに笑う。
 首は体と繋がっているし、ちゃんと生きて立っている。俺は幻覚でも見せられているのか――?


「心配しなくても、幽霊なんかじゃないよ。とある人物のおかげで、僕の死を偽装できたんだ」
「偽装だって!? いったいどうやって……!?」

 あの日、間違いなくコイツは首だけの姿になって死んでいたはずだ。それは莉子も俺と一緒に確かめた。俺はともかく、死体の扱いに慣れている莉子が騙されるはずなんか無いのに……。

 俺が信じられないといった表情をしていると、タカヒロは同情するかのような目をこちらに向けた。


「あはは、さすがに可哀想になってきちゃった。そうだね、この機会にマコト君には僕の協力者を紹介しておくよ――さぁ入ってきて」

 すると部屋の扉が開かれ、そこから一人の人物が現れた。

 その姿を見て、思わず声が出そうになるほど驚いた。なぜなら、入ってきたのは――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた

砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。 彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。 そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。 死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。 その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。 しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、 主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。 自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、 寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。 結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、 自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……? 更新は昼頃になります。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。 ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。 身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。 そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。 フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。 一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。 天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが── 俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。 ──数年後 自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。 それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。 だけど、俺は強くなりたかった。 イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。 だから死にたくなっても踏ん張った。 俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。 ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。 ──更に数年後 師匠は死んだ。寿命だった。 結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。 師匠は最後に、こんな言葉を遺した。 「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」 俺はまだ、強くなれる! 外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる! ──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。 だけど、この時の俺は知らなかった。 まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。

処理中です...