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第8話 ギャル忍者と、密室で。
しおりを挟むタカヒロ殺人事件から数日が過ぎたある日の放課後。
俺と莉子は、教室の隅にある掃除用ロッカーの中にいた。
「そういうわけで、俺は昨日からトワりんと交際することになった」
「それはおめでたいにゃ。……ところで、どうして拙たちはこんなところに隠れているんだにゃん?」
薄暗い中、ギャル忍者の莉子は俺の肩に顎を乗せながら、不思議そうな表情を浮かべていた。
お互いに密着しているせいで、莉子の薄い胸が俺に押し付けられており、なんとも言えない感触が伝わってくる。そして下を覗けば、セーラー服の合間からピンク色の突起が……。
(ふぅむ、これがリアルJKの生おっぱいか……)
「……御主人様、どこを見てるんだにゃ?」
「ここに隠れているのには、深い理由があってだな」
「あ、誤魔化したにゃ。やっぱり御主人様はむっつりなんだにゃ」
やっぱりってなんだよ。そもそも俺は、トワりん以外の胸には興味ないんだ。訂正と謝罪をしてくれないか。
「なんだか失礼にゃことを考えている気がするけど……まぁいいにゃ。それで深い理由って何にゃ?」
莉子は若干呆れた顔を浮かべつつも、話の先を催促してきた。さすがはプロの暗殺者というべきか、切り替えが早い。
彼女の言葉に小さく肯いて、話を続けることにした。
「実はお前に相談があったんだ。だけどちょっと人目に付くわけにもいかなくてな」
俺たちはタカヒロの一件もあり、教室ではあまり接触しないようにしている。いつどこでタカヒロを殺した犯人が見ているか、分からないからだ。
だがここまでしているのには、他にも危険な人物が俺を狙っているからであって……。
―――ガラッ!!
「マコトく~ん? どこにいったの~?? 私と一緒に補習授業をしようよ~」
突然、俺たちがいる教室の扉が開かれた。まずい、見つかったか!?
ロッカーの隙間から外を覗くと、そこには目をギラギラとさせたトワりんの姿があった。
アレは完全に獲物を狩るハンターの形相である。そしてその獲物とは俺である。どうやら彼女は補習という名目で、俺を拘束するつもりらしい。
「……」
「……」
俺と莉子の間に、一瞬にして緊張が走る。
まずい、まさかトワりんがここまで追ってくるとは思わなかった。この狭い空間では逃げ場は無いし、いくらギャル忍者の莉子でも分が悪い。
「クンクン……マコトくんの匂いはするのに、姿が見つからない……まさか他の女と隠れているんじゃ……駄目よ、そんなの許せない……ゼッタイ、ユルサナイ……」
不吉なことを言いながら、闇のオーラを身にまとったトワりんがゆっくりとこちらに近づいてくる。
おいおい、嘘だろ。俺の居場所がバレてるのか!?
ヤバい、こんな状況を見つかったら殺される。早くどうにかしないと……!!
だが焦りで思考が定まらない。そんな中、隣にいる莉子は冷静な口調でこう言った。
「御主人様、こういう時こそアイテムを使うんだにゃ」
「そ、そうか!……よし、何かアイテムを出してみよう」
「あっん……ちょっと、拙の下半身に手が当たってるにゃあっっ……」
おい、変な声を出すんじゃない。こっちは命懸けなんだぞ。
…………ふぅ、落ち着け俺。とりあえず今は、この状況を切り抜けることが最優先事項だ。
俺は一度深呼吸をして、意識を集中させる。
(そうだ、よく考えろ。トワりんが求めているのは俺自身。なら、あのアイテムでイケるはずだ)
そうして俺は、自分のガサゴソとポケットの中に手を突っ込み、目当てのアイテムを探し出す。
「行け、ペロペロドッペル!」
俺の言葉に反応して、手に持ったペロペロキャンディーが光を放つ。
すると教室の中に、もう一人の俺が現れた。
身長170センチ、体重60キロ、黒髪、黒目。
それはまさしく、俺と同じ姿形をした影のような存在だった。
俺のダミーは無言のまま廊下に向かって歩き出し、そのままどこかへ走り抜けていった。
「あっ、マコトくん!? 待って!! 行かないで!!」
俺(偽物)を追いかけようと、トワりんは教室を飛び出していく。
そして再び教室に静寂が訪れた。
(ふぅ……なんとか助かったぜ)
危機一髪、もう少しで見つかるかと思った。
無事に乗り越えたことを確認し、安堵のため息をつく。
「な、なんなのにゃアレは……本当にあの磯崎先生なのかにゃ?」
「……事件の記憶を色々と弄っているうちに、俺への依存度がどんどん増しちゃってさ」
驚きに目を丸くする莉子の隣で、俺はハァと重たい溜め息をつく。
あの日、俺はトワりんに記憶を改ざんするアイテムを使った。そのおかげで、タカヒロが死んだことを誤魔化せたまでは良かったのだが……。
「だけどそれで死んだタカヒロが帰ってくるわけじゃないだろ?」
「学校に来たら、否が応でもその事実に直面してしまうにゃ」
「そう。だから違和感で記憶が戻らないように、毎朝アイテムを使うことにしたんだけど……」
「今度は御主人様に執着し始めた、ということかにゃ」
そうなんだよ、と頭を抱える。
確かに当初からトワりんは俺に対して好意的だったけど、あそこまでじゃなかったのに。
理性のストッパーが壊れたトワりんはもはや、ヤンデレ女と化してしまった。さすがの俺も、あれほどまでに病的な愛を向けられるようになると戸惑ってしまう。
彼女とどう接するべきか悩む俺に対し、莉子はなぜかニヤァと笑みを浮かべた。
「御主人様が拙を呼んだのは、その報告をするためなのかにゃん? 拙に見せつけプレイとは、中々やるだにゃん」
「違うわ。俺は次の暗殺者について相談したかったの!!」
なにしろ、最初の暗殺イベントの直後から予定が崩れてしまったのだ。もうメインのシナリオからは完全に外れてしまったとみていいだろう。
だが莉子は俺が心配する理由が分からないのか、不思議そうに首を傾げる。
「そこまで気にしにゃくとも、拙は御主人様を殺すような依頼はされていなかったにゃん。そのハイクラというゲームでマコトが襲われたのは、タカヒロ殿と行動を共にしていたからじゃないのかにゃ?」
「それは……そうなんだけど」
莉子の言うように、マコトはアイテムを使って暗殺を防ぐ手伝いをしていた。黒幕からしたら邪魔な存在だっただろう。ってことはタカヒロがいない今、俺が狙われる理由は無くなったのか……?
「でも俺はトワりんの冤罪を証明したいんだ。彼女を苦しみから解放してやりたい」
自分が助かったからといって、彼女を放ってはおけない。
黒幕を突き止めない限り、トワりんはタカヒロ殺しの容疑者のままになってしまう。
彼女がこのまま自分自身を責め続けたら、いつか心が壊れてしまうかもしれない。そんな未来なんて、絶対に嫌なんだ。
すると莉子は再び笑顔を見せ、ポンッと肩に手を置いた。
彼女は優しい声で語りかけてくる。……しかしその内容は、とても優しくはなかった。
「御主人様も、中々にイカれてるんだにゃん」
「うるせぇ。そんなことは自分でも分かってるんだよ」
とにかく、俺のゲーム知識がまだ活かせるうちに犯人を突き止めたい。
悪いが、俺はもうやるって覚悟を決めたんだ。莉子はそんな俺を見て、仕方なさそうに笑った。
「なら拙がご主人様の代わりに、他の暗殺者に接触してみても良いにゃん」
「莉子が?」
「拙みたいな搦め手を使う相手とは違って、他の暗殺者たちは武闘派で危険だにゃん。戦闘能力が皆無なご主人様が正面からノコノコと近付いたら、あっさり殺されて終わりだにゃん」
つまり莉子は他の暗殺者に会いに行って、情報を集めてきてくれるらしい。
なるほど、それはありがたい話だ。
「拙は同業者だから、怪しまれるリスクは下げられるにゃん。少なくとも即殺されることはないにゃん」
それに莉子の持つ隠密スキルを使えば、接近しなくても情報を探れるしな。
うん、これはありがたい申し出だ。俺はすぐに彼女の提案を受け入れることにした。
「じゃあ明日からさっそく――」
――ガラガラッ!
「やっぱりマコト君の匂いがここからするわね」
「……」
「……」
取り合えず、この場から脱出する方法を最初に考えようか。
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