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第6話 無事に、セイコウしました。

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「うみゅ……」

 悪夢のような土曜日が過ぎ去り、日曜日の朝となった。部屋の窓からキラキラとした朝陽が差し込んでくる。

 ベッドでスヤスヤと寝ていたトワりんは眩しさに顔を歪めると、ゆっくりと起き上がった。そして眠そうに目蓋まぶたを擦りながら辺りを見回す。


「……あれ? 私いつの間に寝ちゃったんだっけ?」

 ベッドの上で布団を被りながらモゾモゾと身じろぎをする。

 まだ眠気で頭がボーっとしているようだ。


「あ、起きた? おはよう先生」
「……マコトくん? おひゃ、よう」

 ベッドに腰掛けていた俺はなるべく自然に見えるように、優しく微笑んでおはようの挨拶をする。

 トワりんは寝起きの顔も可愛い。写真に撮って待ち受けにしたいぐらいだ。


「えーっと……。あれぇ?……なんだぁ、夢だったのかぁ~」
「夢? なにか怖い夢でも見たの?」
「うん……なんだか、私が私じゃないみたいな。でも夢で良かった~」

 どうやらタカヒロが殺されたのは夢だと思っているようだ。そして俺の姿を見て安心したのか、彼女は俺の胸に顔を埋めてきた。

 まるで子供のように甘えてくるトワりんの頭を撫でながら、俺はホッと胸をなでおろす。

(良かった、アイテムの効果がちゃんと出ているみたいだ)

 ここはトワりんが独り暮らしをしている、ワンルームマンションの部屋だ。
 普通に考えれば、本来俺はここにいるはずのない人間。だが今はこうして彼女と二人っきりで部屋にいる。

 それはなぜか? そう、それがアイテムの効果なのだ。

 使用したのは"強制催眠サプリ"。このサプリを飲ませると、対象者を自分の思い通りに操ることができるのだ。

 今回、俺はあの事件を『俺とトワりんは交際することになった』という大きな嘘で塗り替えた。

 理由? 並大抵の嘘では、彼女が受けたショックを打ち消せなかったからだ。あの事件が記憶にある限り、彼女の心に深い傷が残ってしまう。それならばいっそ、より大きな事件で上書きした方が都合が良いと考えたわけだ。

 もちろん、個人的な思惑……俺がトワりんを愛しているからっていうのもあるけどね。


 だから俺は、この部屋にやって来た時に”催眠サプリ”を飲ませてから彼女にこう言った。


 ―――今日から俺たちは恋人同士だよ。これからよろしくね、トワりん。


 すると最初は驚いていた彼女だったが、俺への好感度が高かったおかげもあって、すぐに笑顔で受け入れてくれた。

 それからというもの、彼女はずっと俺にべったりだ。俺を下の名前で呼ぶようにもなった。こんな甘々な姿、学校で真面目に教師をしている時の姿からは想像もできない。


 ただしこのアイテムは扱いに注意しなければならない。

 実際に起きた現実を改変するアイテムではないので、どうしても周囲との齟齬そごが生まれてしまう。そうすると使用された人間は次第に違和感を覚えて混乱したり、情緒が不安定になったりしてしまうのだ。

 対策としては、現実を嘘に近付けるか……繰り返し使用して催眠を掛けなおす必要がある。


「んっふふふ~♪ マコトく~ん!」
「んぉっ!?」

『磯崎兎羽の好感度が上がりました。(好感度:120%)』

 嬉しそうに笑いながら、俺の頬っぺにキスをするトワりん。もうすっかり俺の恋人気分のようだ。

 いや、俺がそうなるようにさせているんだけど……。

(どうしよう、こういう時はどう接すればいいんだ!?)

 一緒にいるだけなのにまた好感度が上がってしまった。……というより100%でカンストしなかったぞ?

 ゲームのハイクラでは、好感度100%がMAXだった。そうなるとヒロインとの交際がスタートしてクリアという設定だったので、それ以上の値になることはなかったのだ。


(ま、いいか。俺はトワりんに好かれればそれで良いし)

 さらに上がる余地があるのかと戸惑いながらも、とりあえず俺はトワりんを抱きしめておいた。


「ふふ、マコトくん好きぃ♡」

 トワりんからも抱きしめ返され、柔らかな身体が密着して気持ち良い。
 あと、おっぱいがデカくて最高です。これでメインヒロインじゃないっていうんだから驚きだよな。

 ふぅ、朝からテンションが高まるぜ。
 思わず股間まで盛り上がってしまいそうだ。


「ねぇ、マコトくぅん……私にはキスしてくれないの?」
「お、俺から!?」
「だって私からはしたのに」
「うっ……でもホッペだったじゃん」

 俺のことを上目遣いで見つめながら、甘えた声でキスをおねだりするトワりん。

 やばいなこの人。恋愛は奥手なんだと思っていたけど、付き合った途端に積極的に攻めてくるじゃん。


「……し、しないよ。だってほら、俺たちはまだ付き合ったばっかりだろ?」
「むうぅ~。もう、マコト君の意気地なし。……ならせめて、もっとギュってして?」
「う、うん……」

 こうやっておねだりされると断れない。俺は言われるままにトワりんを強く抱き締める。それで彼女は満足したのか、とても幸せそうな表情を浮かべていた。


 俺だって本当はトワりんとキスをしたい。

 だけどさすがに、アイテムで洗脳したトワりんとキスをするのは……何か違う。

(ここまでしておいて、って突っ込まれそうだけど……許せ、これは童貞ゆえのこだわりなんだ)


「えへへ。マコトくん、あったかい……」

 うん、あったかいね。トワりんの胸にある大きくて柔らかいものに包まれて、俺は今すごく温かい気持ちになっているよ。

 というより、幸せすぎて頭がおかしくなりそうだ。暗殺者を使うよりも、トワりんが隣にいるだけで俺は簡単に死ねる気がしてきた。


「先生、そろそろ起きないと……」
「もう……先生だなんて他人行儀だぞ? あ、でもその方がイケナイ関係って感じで興奮するかも♡」
「じゃあやっぱりトワりんって呼ぶわ」
「やーん、愛称呼び最高……ねぇ、今日は日曜日なんだしさ。このまま私とベッドで二度寝しちゃわない?」

 トスン、とベッドに倒れこみながら魅惑的なお誘いをするトワりん。

 何言ってんだ、この女教師。最高かよ。

『磯崎兎羽の好感度が上がりました。(好感度:140%) 実績解除:


 ……さすがにそれはマズいですよ先生!?!?

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