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第4話 辺境での生活
しおりを挟む辺境の地、プルア村での日々は、予想外の連続だった。
まず、勇者の人柄が思っていたものと違った。
噂とはまるで違って、彼は心優しい人物……のように見えた。
行き場を失っていた獣人の子たちを助け、村での暮らしに溶け込めるよう身を粉にしていた。
それだけじゃない。勇者は私に隠れて、魔物の被害に苦しむ辺境の村々を“救済”していたのだ。
魔物に襲われている村や街に単身で乗り込み、解放する。同時にそこで住む人々に牽制も行っているらしい。
プルア村は、オーガのように強い勇者が守護している。復興の邪魔をしようと悪い気を起こしたら、魔物のように完膚なきまで叩き潰される――と。
今では魔族領にまで、勇者活動の手を伸ばしている。畑を荒らしに来ていた魔物を出張退治してくれたと、近くの村に住む人たちが教えてくれた。
彼のおかげで、この辺境における魔物の被害がかなり減ったみたい。
でも私が一番驚いたのは、勇者が“人助け”に見返りを求めないことだった。
魔物の討伐や村を救っている報酬として、彼は一度も“お金”を要求することはなかったのだ。
それどころか、街の復興のために魔物の素材を売ったお金を寄付してしまう。助けられた人たちも、それで恐縮してしまって……。
彼は「困っている人を放っておけないだけだ」と言うけれど……。
あの悪逆非道で肥え太った豚勇者が、今はそんな善行をしているなんて誰が思うだろう? いっそ誰か別の人と中身が入れ替わった、という方がしっくりくるかもしれない。
私は彼のことを知ればするほど、どんどん分からなくなっていく。
ただ、悪い人ではないことは分かった。
本当に、良い人なのだと思う。
……魔王様を殺めたことは、今でも殺したいほど憎くて堪らないけれど。でもそんな勇者が、私と一緒に居ると楽しいって言ってくれた。
「俺はリディカ姫が笑ってくれるなら、それだけで嬉しいよ」
そんな恥ずかしい台詞を平気で言えるのは……ちょっと、どうかと思うけど。
私も……彼を見ていると、この辺境での生活が楽しいと思えるようになってきた。
まだこの辺境に来て、まだひと月も経たないけれど。畑仕事や牛の世話もやりがいがあるし、みんな同じテーブルで一緒にとる食事も賑やかで好き。
そんな日々を支えてくれるのは、やっぱり勇者の存在が大きいと思う。
今までずっと、誰にも認めてもらえなかった私の頑張りを……彼は認めてくれた。家族でさえ無視する私を、勇者だけは真っすぐに見てくれた。
だから私も、もっと頑張ろうって思えるようになったんだ。私自身が、ありのままの自分を受け入れられるようになった。
結局のところ。これまでの私は、拗ねてばかりの子供だったんだ。悲劇のヒロインぶって、誰かが助けてくれるのを、ただただ待っているだけだった。
笑っちゃうわよね。それでいて、魔王様みたいなヒーローになりたいなんて思っていたんだから。
「日記、書いてみようかな」
灰色だった日々は終わりを告げ、私の人生に色が付き始めた。お母様が言っていた“楽しいこと”も、今なら書ける気がする。
だったら最初に書くのはやっぱり、ちょっとおデブなあの人だ――。
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