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第2話 元嫁、襲来
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「それじゃあ、家のことは頼んだ」
クロードは私たちにそう告げると、飛翔魔法を自分に掛けて空を飛んでいった。
嫌味なほど澄み切った青空へと消えていく旦那の姿。今だけ急な雨雲がやってきて、あの人に雷を落としてやってくれないかしら。
グッと拳を握りながら、隣の女性を見やる。
艶やかなブロンドのショートヘアを風に揺らし、手の甲を額に当てて空を見上げている。上等な布を使った緑のワンピースは汚れひとつない。
まるで太陽の光を真っすぐに浴びる、大輪の花のような人だ。
(それに比べて……)
長さしか取り柄のない、ありふれた茶髪を後ろで縛っただけの芋臭い私。
服だって中古のウール生地だし、柄なんてない無地のものだ。でもそれだってヘソクリを貯めてようやく買えた代物だったりする。
くそぅ、芋だって綺麗な花を咲かせるんだけどな。
「えっと、それでサシャさんは……」
「サシャで良いわよ。アタシは居候する身なんだし、そんなに気を使わないでくれる?」
「は、はぁ……」
うわぁ、気の強そうな人だ。ハキハキとした物言いもそうだけど、勝気な切れ長の目を向けられただけで、気弱な人間は思わず従ってしまいそう。ぶっちゃけ、私の一番苦手なタイプ。
外に立ちっぱなしもなんなので、ひとまず我が家へ上がってもらう。
我が家と言っても、小さな石造りの賃貸アパートだ。二人だけでも手狭だけど、少し我慢してもらうしかない。
サシャさん……サシャは大きな革鞄を両手に抱えて、私のあとをついてきた。細腕なのに力持ちだ。
「急にお邪魔してすまないね! ……え~っと」
「あ、エミリーです」
「エミリーね、よろしく頼むよ」
取り敢えず、キッチンにあるテーブルと椅子で休んでもらうことに。
自分は対面の席に座り、簡単な自己紹介を済ませた。
「いやぁ、クロードの奴……おっと、奥さんにその言い方は失礼か。ともかく、アイツのおかげで助かったよ! 宿から追い出されて困っていたんだ」
差し入れた自家製ハーブティーをゴクゴクと飲み干したあと、サシャさんは豪快に笑いながらそう語る。
うーん。どこから突っ込めば良いのだろう。そんなことを思いつつ、私は空いたカップにお代わりを注いであげた。
「お、悪いね。喉がカラッカラに渇いていたんだ。……うん、美味い!」
「えっと、サシャさ……サシャが宿から追い出されたというのは……」
「商談で調子に乗って、品物の仕入れに有り金を全部はたいちゃってさ。宿代も払えないほどの一文無しだったんだよ。いやー、参った参った」
床に置いた大荷物を横目で見下ろしながら、サシャは「たはは……」と頬を掻いた。
そのあとも話を聞いたところ、彼女は個人で商人をしているらしい。大きな取引きに釣られて、財布の中身を全てつぎ込んでしまった。昨夜もクロードに一晩の宿泊賃を借りて、どうにかやり過ごしたのだとか。
なんというか、とても豪快な人だ。そんな一か八かの賭けで騙されでもしたら、あっという間に人生が詰んでしまいそう。
「心配しなくとも、人の善悪を見極めることには自信があるんだ。そう簡単には騙されないよ」
「それで泊まる宿も無くしていたら、世話ないですけどね」
「お、エミリーも言うねぇ! でもアタシはそれぐらい軽口を叩かれる方が好きだよ!」
テーブルに両肘をついて、ニヤリと笑みを浮かべるサシャ。
(美人はどんな笑い方をしてもサマになるんだなぁ)
そんなことを思いつつ、自分のお茶に口をつけた。
するとサシャは、ベッドルーム(ベッドが置いてあるだけの簡素な部屋)に視線を向け、片手を頬に添えながらヒソヒソと話しかけてきた。
「それで? クロードとの生活はどうなんだい。アイツのブツは立派だから、夜は大変だろう?」
「ぶふっ!?」
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クロードは私たちにそう告げると、飛翔魔法を自分に掛けて空を飛んでいった。
嫌味なほど澄み切った青空へと消えていく旦那の姿。今だけ急な雨雲がやってきて、あの人に雷を落としてやってくれないかしら。
グッと拳を握りながら、隣の女性を見やる。
艶やかなブロンドのショートヘアを風に揺らし、手の甲を額に当てて空を見上げている。上等な布を使った緑のワンピースは汚れひとつない。
まるで太陽の光を真っすぐに浴びる、大輪の花のような人だ。
(それに比べて……)
長さしか取り柄のない、ありふれた茶髪を後ろで縛っただけの芋臭い私。
服だって中古のウール生地だし、柄なんてない無地のものだ。でもそれだってヘソクリを貯めてようやく買えた代物だったりする。
くそぅ、芋だって綺麗な花を咲かせるんだけどな。
「えっと、それでサシャさんは……」
「サシャで良いわよ。アタシは居候する身なんだし、そんなに気を使わないでくれる?」
「は、はぁ……」
うわぁ、気の強そうな人だ。ハキハキとした物言いもそうだけど、勝気な切れ長の目を向けられただけで、気弱な人間は思わず従ってしまいそう。ぶっちゃけ、私の一番苦手なタイプ。
外に立ちっぱなしもなんなので、ひとまず我が家へ上がってもらう。
我が家と言っても、小さな石造りの賃貸アパートだ。二人だけでも手狭だけど、少し我慢してもらうしかない。
サシャさん……サシャは大きな革鞄を両手に抱えて、私のあとをついてきた。細腕なのに力持ちだ。
「急にお邪魔してすまないね! ……え~っと」
「あ、エミリーです」
「エミリーね、よろしく頼むよ」
取り敢えず、キッチンにあるテーブルと椅子で休んでもらうことに。
自分は対面の席に座り、簡単な自己紹介を済ませた。
「いやぁ、クロードの奴……おっと、奥さんにその言い方は失礼か。ともかく、アイツのおかげで助かったよ! 宿から追い出されて困っていたんだ」
差し入れた自家製ハーブティーをゴクゴクと飲み干したあと、サシャさんは豪快に笑いながらそう語る。
うーん。どこから突っ込めば良いのだろう。そんなことを思いつつ、私は空いたカップにお代わりを注いであげた。
「お、悪いね。喉がカラッカラに渇いていたんだ。……うん、美味い!」
「えっと、サシャさ……サシャが宿から追い出されたというのは……」
「商談で調子に乗って、品物の仕入れに有り金を全部はたいちゃってさ。宿代も払えないほどの一文無しだったんだよ。いやー、参った参った」
床に置いた大荷物を横目で見下ろしながら、サシャは「たはは……」と頬を掻いた。
そのあとも話を聞いたところ、彼女は個人で商人をしているらしい。大きな取引きに釣られて、財布の中身を全てつぎ込んでしまった。昨夜もクロードに一晩の宿泊賃を借りて、どうにかやり過ごしたのだとか。
なんというか、とても豪快な人だ。そんな一か八かの賭けで騙されでもしたら、あっという間に人生が詰んでしまいそう。
「心配しなくとも、人の善悪を見極めることには自信があるんだ。そう簡単には騙されないよ」
「それで泊まる宿も無くしていたら、世話ないですけどね」
「お、エミリーも言うねぇ! でもアタシはそれぐらい軽口を叩かれる方が好きだよ!」
テーブルに両肘をついて、ニヤリと笑みを浮かべるサシャ。
(美人はどんな笑い方をしてもサマになるんだなぁ)
そんなことを思いつつ、自分のお茶に口をつけた。
するとサシャは、ベッドルーム(ベッドが置いてあるだけの簡素な部屋)に視線を向け、片手を頬に添えながらヒソヒソと話しかけてきた。
「それで? クロードとの生活はどうなんだい。アイツのブツは立派だから、夜は大変だろう?」
「ぶふっ!?」
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