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新王国の王子様
しおりを挟む「とまぁ、そんな訳で私はあのズキア王国を追放されたのです……その上で私を城に招きたい、と?」
「うん。尚のこと、僕は君に興味が湧いたよ」
「はぁ……」
屋外に置かれた丸テーブル。その上には芳醇な香りが立つハーブティー。
スッとダンディな老執事がやってきて、手馴れた手つきで焼き菓子を提供してくれた。
向かいの席では緑色の髪をした爽やかな貴公子が、キラキラとした笑顔を私に向けている。
周りの景色は一面の畑だけれど、ここだけ貴族のお茶会の様相をしていた。
……どうしてこうなった。
私は今、メマラン聖王国へと出戻り……ではなく。
どういうわけか、ズキア王国の隣りにあるピスタ新王国に居た。
しかも目の前にはピスタの王子である、テオ王子が座っている。
もう王子なんてモノ、一生関わるものかと決意した挙句がコレである。
いったい何の因果なのか……どうやら私は、変な王子様に再び捕まってしまったようだ。
「いやぁ、君が偶然ピスタに来てくれて助かったよ。ある意味では、モーンド君に感謝をしなくてはならないだろうね」
「私は、さっさと母国へと帰りたかったのですが」
あの一幕があった後、追放の身となった私は早々に国を出た。
もちろん、送迎なんてものは無い。
商人に対価を払い、交易に使っている馬車のスペースを借りてメマランへと帰ろうとしていた。
それなのにどうして全く別の国に来たかと言えば、『ピスタの辺境にある農村で瘴気が出た』という噂が流れたから。
私も最初は、メマランへ向かう商隊の馬車に乗っていたはずだった。
だけど噂を聞いた商隊長が急遽、進路を変えてしまったのだ。
普通は危ないから近寄らないんじゃないのかと思ったけど、彼らにとっては違うらしい。
『瘴気の影響で農作物に被害が出れば、商品である小麦が売れるから』
そんなわけで、商機に敏感な商人たちはみんな飛び付いた。聖王国へ行く流れの馬車は軒並み行き先が変わってしまい、仕方なく私もそこに乗っかったってワケ。
定期の輸送便を待てば良かったんだけど、最大の目的は一刻もあの国から出ることだったし。
まぁピスタ新王国を経由してでも、帰れればそれで良いかなって思ったんだけど……。
計算外だったのは、商隊が向かった村にこのテオ王子が居たこと。
彼は自国に現れた瘴気の影響を、視察として見に来ていたらしい。
修道服を着ている女なんて普通はこんなところに居ない。一目見ただけで、私が聖女であるとバレてしまった。
「で、どうかな。僕が君を守る代わりに、君の力で僕を助けて欲しい」
「しかし……」
「もちろん、どこかの国と違って、ちゃんと手厚く歓迎するからさ」
ちょっとだけ意地の悪い顔で、私にそんな提案をしてくるテオ王子。髪と同じ碧色の瞳が、私ならやってくれると期待しているようにも見える。
モーンド王子とは違い、言葉遣いは優しいけれど……この私がそう簡単に騙されるものですか。
それに私が浄化を渋っているのには、他に理由がある。説明してあげても良いけれど、この王子が理解してくれるかなんて保証はない。
逆上なんてされたら、今度こそ生きて母国へ帰れないかもしれないし。
「殿下、聖女様を試すような真似は……」
「分かっているよ、ディズ。だが僕は聖女としてではなく、アイラ嬢の意見が聞きたいんだ」
「……それは、失礼いたしました」
――おっと。
さっきお茶の準備をしてくれていた老執事さんが、王子に苦言を呈してくれた。
けれど王子の態度が変わらなければ、私だって考えを変えるつもりはない。
「……私の意見、ですか?」
「浄化の力は疑ってなどいない。むしろ信用しているからこそ、なぜ君がそう言ったのかを知りたいんだ」
うーん、適当に誤魔化しても良いけれど……それはそれで、聖女としての信条に反する。
ここまで知りたいというのであれば、ハッキリと言わせてもらおう。
「……私には、この村を襲っている災害を浄化することは出来ません」
「ほう、それは何故だ? 君の浄化の力では救えない、と?」
ほうら、やっぱりそう来た。
言葉ではあんなことを言っていたのに、心の中では私の力を疑っていたのかしら?
そしてこうも思っているんでしょう?
私たち聖女が、ただ浄化の力を持って生まれただけの女たちだと。
大した努力もせず、自惚れと自尊心だけで大言壮語を言っているのだ、と。
……いいでしょう。
そうやって私たちを舐めているのなら。
私は言いたいことだけ言って、さっさとこの国から出ていってやる。
「この村の凶作は、植物を襲う病によるものです。瘴気ではありません」
「……その根拠は」
ふーん、聞く気があるの?
ならもう少し話してみようかしら。
「この病気は虫を媒介として伝染します。この村へ来る途中で、その虫と病気になりかけの小麦を見ました。……手遅れになる前に小麦を刈り取り、倉庫へ隔離する必要があります」
「だがそれでは、未熟な小麦しか収穫できないな。更に農民は困窮するだろう」
「えぇ。ですからこうして、王子である貴方に話しているのです」
これで理由は示した。
あのモーンド王子だったら、話の途中でキレて私を殴っていただろう。
私が言ったことは本当だ。
だけど何故急ぐのか、なぜ農民の反感を買ってまでや必要があるのか。そこまでは敢えて教えてあげない。
さて、このテオ王子はどうするのかしら?
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