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第2章 とあるメイドの入学

第18話 そのメイド、影で噂される。②

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「念のためもう少し確認したいのだけれど、その子とはどんなことがあったの?」
「あの子は僕のために、身銭を切ってまで助けてくれました。それも見返りなんて一切求めずに。あれほど優しい女性は、母上以外に出逢ったことがありません」

 あら、あらあらあらぁ? ジーク様ったら、さっきよりも増して顔が真っ赤っかじゃないの。単に恥ずかしがっているというよりは、まるで恋する乙女みたい。もしや運命的な出逢いで一目惚れをしちゃったのかしら?

 これはもしかして、ひょっとしちゃうのかしら?


「それで、ジーク様はその子のことをどう思って――」
「キーパー理事長、おたわむれはその辺にしておきましょう」
「あら、プリマ。貴方は気にならないのかしら?」

 もっと踏み込んだ部分を聞こうとしたところで、プリマ校長が私を制してきた。彼女はジト目で私を睨んでいる。ちょっと茶化し過ぎちゃったみたい。


「さすがにこれ以上は、殿下が可哀想ですよ」
「き、キーパー夫人!? それはどういうことですか!」
「あはは。怒らないで頂戴。事情の確認だけよ、それ以上の事には学校は踏み込まないわ」

 ジーク様は慌てて椅子から身を乗り出して抗議した。チッ、気付かれちゃったか。


「それじゃ話をまとめると、ジーク様はアカーシャちゃんに金貨を返したいってことね?」
「……はぁ。はい、そうなります」

 ジーク様は渋々ながらも素直に認めたので、私はウンウンと頷く。

 さて、どうしようかしら。学校としては不介入と言ったけれど、私個人としてはこんな面白いことを放っては置けないのよね。ここでアカーシャちゃん本人を連れてきて、直接会わせてみても面白そうだけれど……。


「なるべく早く訪ねようとは思ったのですが。こちらも中々時間を割くことができず、彼女には多大な迷惑を掛けてしまいました……これは遅れてしまった迷惑料として、彼女に受け取って欲しいのですが」

 そう言ってジーク様は、懐から出した金貨をテーブルの上に何枚も重ねていく。

 迷惑料や利子としては、あまりにも多すぎる。私とプリマがポカンと口を開けている間に、次々と金貨の塔が積み重なっていった。

 真面目そうな彼がここまでポンコツになるだなんて……これは本当に深刻かもしれないわね。


「ジーク様。私が彼女から立て替えておいた、入学金の金貨一枚はこの場で受け取りましょう。ですが、他のお礼は別のことでお願いしたいことがあるのです」
「……別のこと?」

 金貨のタワーから私が一枚だけ取ると、ジーク様は怪訝な表情で首を傾げた。

 今この国の情勢で第二王子が平民に熱を上げているとバレたら、王城は間違いなく大騒ぎになる。悪いけれど、今ここで本人たちを会せるわけにはいかなくなったわ。

 ここはお節介ババアが気を効かせて、もう少し穏便に二人の恋を応援してあげましょう。


「えぇ。金貨を直接受け取るよりも、よっぽどアカーシャちゃんにとってプラスになるアイデアがあるの。どうかしら、ジーク様も彼女が喜ぶ顔を見たくない?」


 私は少し悪戯っぽくそう訊いてみる。

 ジーク様は目をみはり、少し考える仕草をとる……だけど彼がどう決断するかは、私にはもう分かっていた。

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