上 下
15 / 56
第2章 とあるメイドの入学

第10話 そのメイド、屈さない。②

しおりを挟む
「誰……?」

 机の上にあるランプの明かりに照らされたその人影は、ゆっくりとこちらを向いた。


「あぁ、びっくりした……貴女がルーシー? もう、いるなら返事してよ」
「どうして貴方はわたくしの名前を知っているの? というより、勝手に人の部屋に入って来ないでくださる?」

 私は事務であらかじめ聞いていた名前で確認するも、彼女はツンとした態度を取ってくる。


 だが彼女がルーシーで合っていたらしい。

 ルーシーは夜空のような綺麗な濃い青の髪に、とても整った顔をしていた。

 ちょっと釣り目がちで怖い印象だけど、アイスブルーの瞳は凄く綺麗だと思った。


「いつまでそんなところに突っ立っているんですの?」
「いや、あの。私はここの……」
「見れば同居人になる人だってことぐらい、わたくしにも分かりますわよ。さっさと自己紹介してくださる?」


 ……この子、性格悪い!!

 部屋を見渡してみれば、何故か二段ベッドは上も下も占領されている。

 さらには部屋にそなえてある二つの机も、勝手にくっつけて独占している状態だった。

 私が新しい同居人だって分かっているのに、配慮する気は微塵もないみたい。


 ぐぬぬ、耐えるのよ私。ここでは私は新入りだ。とりあえず言われた通りに挨拶しなくっちゃ。


「アカーシャです。今日からこの学校にお世話になることになりました。これからよろしくお願いします」
「そう、よろしくね」
「……」
「……」

 ……えっ、それだけ?


「あの、貴方は「適当に私の物はよけて使ってくださる? 私、こう見えてとっても忙しいの」そ、そうなの……?」

 キッパリと言われてしまった私は、部屋の中に入るといそいそとベッドの上の荷物を片付け始めた。

 ……っていうか私は挨拶したのに、そっちはしないんかいっ!!


 もう用は済んだとばかりに、ルーシーは机に向かって作業を再開している。

 それも私にも聞こえるような「はぁ、疲れたわ……」という大きな溜め息付きで。


「(こっちが仲良くしようとしているのだから、少しぐらい歩み寄りを見せたらどうなのよ……!!)」

 事務の人が大げさに言っていたのかと思っていたけど、どうやらそうでもなかったみたいね。


『ルーシーさんは元々、それなりに有名な貴族のご令嬢だったのよ。だけど事情で家が没落しちゃって……彼女、貴族に戻ることを諦めきれないのか高飛車で、他の子と衝突しちゃうことが多いの。それで同室だった子も、みんな他の部屋に移動を希望してね……』

 彼女は日常的に問題を起こしていたみたいね。

 詳しくは教えてもらえなかったけれど、同級生と口論になった挙句に、魔法で攻撃しようとしたことまであったとか。


「ふふふ……生憎だけど素行の悪いお子ちゃまの扱いなんて、こっちは孤児院で散々鍛えられているのよ」


 私はベッドの上段によじ登ると、そこにあったルーシーの私物をドサドサと落としていく。


「ちょ、ちょっと? どうしてわたくしの荷物を落とすのよ! あっ、その人形に触らないで!! やめてってば!!」
「ふふん。自分のモノも管理できない程にお忙しいのでしょう? だから私が代わりに掃除してあげているだけよ?」

 私はルーシーの悲鳴を無視して、ベッドにあったウサギのぬいぐるみを掴んだ。

 ……いや、ぬいぐるみに罪は無いね。そっと布団の上に置いておこう。


「わ、分かりましたわ! ちゃんと片付けますから止めてください!!」
「まったく、最初っから素直にそう言えばいいのよ」

 こういう子って、自分よりも傍若無人で自由奔放な人間に弱いのよね。嫌でもしっかりしないと、自分が嫌な目にあうから。

 だからルーシーには申し訳ないけど、ここは私の好きにやらせてもらうわよ!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

処理中です...