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8 起死回生の種(前編)
しおりを挟むあれから数日が経ち、馬車が魔境の村へと到着した。
初めての長旅をずっと馬車に乗っていたせいで、身体のアチコチが痛い。
私のお尻がこれ以上に大きくなったらどうしてくれる。
「それにしても驚きました……皆さん、本当にお強いんですね……」
「ガハハハ!! そうだろう!! なんつったって伝説の竜騎士サマだからな!!」
私の本心からの褒め言葉に、ブルーノートさんは気分良さそうに大笑いをする。
相変わらずお酒をグビグビと飲んでは、下品なゲップを繰り返している。
このブルーノートという名の酔いどれオジサンは、なんと最前線で魔王と戦う竜騎士だった。
最初に竜騎士と聞いた時は、てっきり酔っ払いの戯言なのかと思ったんだけど。
途中で出くわしたモンスターを三人があっという間に討伐してしまったので、どうやらそれは本当だったようだ。
「竜騎士にかかれば、雑魚モンスターなんて鼻毛一本でぶっ飛ばせるんだぜ?」
「それは倒されるモンスターも嫌でしょうね。なんだか瘴気も増しそうです」
鼻毛はともかくとして、この竜騎士という肩書きはダテじゃないみたい。
元々は国の軍を率いていた伝説の騎士団長で、実力もピカイチ。
魔法と剣技を合わせてモンスターたちをなぎ倒す、人類最強の男なんだそうな。
なんでも街を襲ったドラゴンを、少数の部下を率いてほぼ単独で討ち取ったらしい。
その偉業から竜騎士という名誉を王様から直々に貰った、とても凄い人。
ちなみにここには、そのドラゴンを討伐した時のメンバーが他にも居る。
剣士のバンズさんと、魔法使いであるラパティさんの二人だ。
そして何とビックリ。
寡黙そうな銀鎧のヴェイルさんは、ブルーノートさんの息子らしい。
確かに一人だけ若いなーと思っていたけど。
聞けば彼は数年前から、父親のブルーノートさんたちと一緒に傭兵家業をしているんだって。
もはや彼にとっては他の二人も家族みたいなもので、名前も呼び捨てにするほど仲良しさんみたい。
しかも彼は私と同じ十八歳だと言うではありませんか。
同年代の男の子ってあんまり話したことが無かったから、とても新鮮に思える。
じぃっと見つめて観察していたら、視線に気づいたクロードが私に向かって口を開いた。
「なに? 俺に何か言いたいことでもある?」
「いや、親の顔が見てみたいなぁって」
「……目の前にいるじゃない」
「うん、そっちじゃなくて」
さらにはこのクロードという少年。
よくよく見たら、結構なイケメンなのだ。
ブルーノートさんと同じ銀髪だけど、顔立ちはぜんっぜん違った。
きっとお母様がとてつもなく美人なのだろう。
「そもそも、なんで一度も戦わなかった親父が一番得意げなんだよ?」
注意しても私が視線を外さないのが恥ずかしかったのか、クロードは頬を染めて唐突に話題を反らしにかかった。ふふふ、可愛い奴め。
「そうですよ。戦闘は僕らに任せっきりで、ずっと馬車に引き篭もっていたじゃないですか」
「ガハハハハ!! いいじゃねぇか。こまけぇことは気にすんなって!」
「……あまり気にしないでくれ、ジュリア嬢。コイツはいつもこうなんだよ……」
「あぁ、もう。恥ずかしい……」
三対の白けた目が、一人の酔っ払いへと集まる。
だけどブルーノートさんは気にした様子もなく、ヘラヘラと笑っていた。
この人、本当に英雄なの……?
実はモンスターが化けた偽物とかじゃないよね?
こっそりお酒にヨダレを混ぜて、試しに浄化してみれば良かったかしら。
「さぁって、と……俺はそろそろ、村で飲み直してくるわ」
「えっ、もう行っちゃうんですか?」
「なんだ、寂しいのか? ガハハ、俺はどっかの酒場に居るだろうからよ。なんかあったらいつでも気軽に言ってくれや」
それじゃあな、と言って村の中へフラフラと消えていってしまった。
こっちの挨拶もロクに聞かず、仲間である三人も放ったらかしだ。
最後まで自由人というか、英雄らしさの欠片も無かったなぁ。
どうみても草臥れたオジサンの背中を、私は小さくため息をついて見送るのであった。
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