上 下
8 / 47

8 起死回生の種(前編)

しおりを挟む
 
 あれから数日が経ち、馬車が魔境の村へと到着した。

 初めての長旅をずっと馬車に乗っていたせいで、身体のアチコチが痛い。
 私のお尻がこれ以上に大きくなったらどうしてくれる。


「それにしても驚きました……皆さん、本当にお強いんですね……」
「ガハハハ!! そうだろう!! なんつったって伝説の竜騎士サマだからな!!」

 私の本心からの褒め言葉に、ブルーノートさんは気分良さそうに大笑いをする。
 相変わらずお酒をグビグビと飲んでは、下品なゲップを繰り返している。

 このブルーノートという名の酔いどれオジサンは、なんと最前線で魔王と戦う竜騎士ドラゴンスレイヤーだった。

 最初に竜騎士と聞いた時は、てっきり酔っ払いの戯言ざれごとなのかと思ったんだけど。
 途中で出くわしたモンスターをあっという間に討伐してしまったので、どうやらそれは本当だったようだ。


「竜騎士にかかれば、雑魚モンスターなんて鼻毛一本でぶっ飛ばせるんだぜ?」
「それは倒されるモンスターも嫌でしょうね。なんだか瘴気も増しそうです」

 鼻毛はともかくとして、この竜騎士という肩書きはダテじゃないみたい。
 元々は国の軍を率いていた伝説の騎士団長で、実力もピカイチ。
 魔法と剣技を合わせてモンスターたちをなぎ倒す、人類最強の男なんだそうな。

 なんでも街を襲ったドラゴンを、少数の部下を率いてほぼ単独で討ち取ったらしい。
 その偉業から竜騎士という名誉を王様から直々に貰った、とても凄い人。

 ちなみにここには、そのドラゴンを討伐した時のメンバーが他にも居る。
 剣士のバンズさんと、魔法使いであるラパティさんの二人だ。

 そして何とビックリ。
 寡黙そうな銀鎧のヴェイルさんは、ブルーノートさんの息子らしい。
 確かに一人だけ若いなーと思っていたけど。

 聞けば彼は数年前から、父親のブルーノートさんたちと一緒に傭兵家業をしているんだって。
 もはや彼にとっては他の二人も家族みたいなもので、名前も呼び捨てにするほど仲良しさんみたい。

 しかも彼は私と同じ十八歳だと言うではありませんか。
 同年代の男の子ってあんまり話したことが無かったから、とても新鮮に思える。


 じぃっと見つめて観察していたら、視線に気づいたクロードが私に向かって口を開いた。

「なに? 俺に何か言いたいことでもある?」
「いや、親の顔が見てみたいなぁって」
「……目の前にいるじゃない」
「うん、そっちじゃなくて」

 さらにはこのクロードという少年。
 よくよく見たら、結構なイケメンなのだ。

 ブルーノートさんと同じ銀髪だけど、顔立ちはぜんっぜん違った。
 きっとお母様がとてつもなく美人なのだろう。

「そもそも、なんで一度も戦わなかった親父が一番得意げなんだよ?」

 注意しても私が視線を外さないのが恥ずかしかったのか、クロードは頬を染めて唐突に話題を反らしにかかった。ふふふ、可愛い奴め。

「そうですよ。戦闘は僕らに任せっきりで、ずっと馬車に引き篭もっていたじゃないですか」
「ガハハハハ!! いいじゃねぇか。こまけぇことは気にすんなって!」
「……あまり気にしないでくれ、ジュリア嬢。コイツはいつもこうなんだよ……」
「あぁ、もう。恥ずかしい……」

 三対の白けた目が、一人の酔っ払いへと集まる。
 だけどブルーノートさんは気にした様子もなく、ヘラヘラと笑っていた。

 この人、本当に英雄なの……?
 実はモンスターが化けた偽物とかじゃないよね?
 こっそりお酒にヨダレを混ぜて、試しに浄化してみれば良かったかしら。

「さぁって、と……俺はそろそろ、村で飲み直してくるわ」
「えっ、もう行っちゃうんですか?」
「なんだ、寂しいのか? ガハハ、俺はどっかの酒場に居るだろうからよ。なんかあったらいつでも気軽に言ってくれや」

 それじゃあな、と言って村の中へフラフラと消えていってしまった。
 こっちの挨拶もロクに聞かず、仲間である三人も放ったらかしだ。
 最後まで自由人というか、英雄らしさの欠片も無かったなぁ。

 
 どうみても草臥れたオジサンの背中を、私は小さくため息をついて見送るのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。

藍生蕗
恋愛
 かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。  そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……  偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。 ※ 設定は甘めです ※ 他のサイトにも投稿しています

処理中です...