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10 口淫

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 寝台の上で膝立ちになったウォルフの前にぺたりと座り込む。ウォルフが下穿きをずらすと、すでに緩く隆起した男性器がエアネストの前に姿を現した。
 エアネストにも同じ機能を持つ器官が備わっている。しかし大きさと形が異なっているように思えて、ついまじまじと見つめてしまう。エアネストのものとは違って、質量を感じさせるどっしりとした太さがあり、先端はえらが大きく張っている。
 今まで性器について深く考えた事などなかった。生殖の機能と排泄の用が足りれば問題ない。それでもウォルフと比べると、自分は男として不全なのではないかと思えてしまう。

「……できそうか?」

 不作法にウォルフの性器に見入ってしまっていたエアネストは、頭上から降ってきた声にはっと我に返った。

「あ、ああ、大丈夫だ。できる」

 ――口で性器を刺激して、射精を促す。
 あまりに不道徳で眩暈がするが、魔獣の首を取れと言われるよりはよほど簡単に思える。
 エアネストは覚悟を決めてウォルフの性器に顔を寄せた。湯を浴びたばかりらしく、わずかに石鹸のにおいがする。熱を持つ粘膜に、そっと唇を寄せる。先ほどウォルフに口づけされたように、何度か優しく唇で触れてから、おずおずと舌先を伸ばして舐めてみる。

「これで、合っているか……?」

 顔を上げてウォルフの指示を仰ぐ。

「ああ……もっと舌全体で、飴を舐めるみたいにしてみてくれ」

 言われた通り、エアネストはウォルフの様子を窺いながら性器に舌を這わせた。何度か繰り返すと、元々大きかったウォルフの性器はさらに育ち、硬く張り詰めていく。
 もう刻印は消えたのではないだろうか。そう期待して舌をウォルフによく見えるようにするが、ウォルフは何も言わない。という事は、まだ消えていないのだろう。エアネストは刻印が早く消えるよう祈りながら、熱心に舌を動かした。

「く……」

 ウォルフがほんのわずかに声をもらす。不安になって唇を離すと、ウォルフはかすれた声で「続けてくれ」と囁いた。
 今舐めている場所は人体の急所である。何か間違いがあっては困ると思い、上目遣いでウォルフの様子を窺いながら舌での奉仕を続ける。ウォルフはエアネストから目を逸らし、苦し気に息を吐いていた。
 性器は反応しているが、やはり本心では嫌なのだろう。性行為というものは、本来なら気持ちの通い合った相手と愛情をもってする行為だ。それなのに、自分なんかと――。エアネストは目を伏せ、申し訳ないと思いながらも舐め続ける。ウォルフの性器がエアネストの唾液で濡れ、てらてらと光る。

「ああ……くそっ、こんなの耐えられるかよ……!」

 ウォルフは唸るような声でそう吐き捨て、ぐっと腰を押し進めた。

「……ッ!」

 太く節くれだった先端がエアネストの口の中に押し込められる。反射的に顎を引こうとしたエアネストの後頭部を、ウォルフの手ががしりと抑えた。

「……っ、ん、うぅ……!」

 ウォルフはエアネストの舌に先端を押し付けながら、空いた方の手で竿を扱き始めた。舌の上に、先端からにじみ出た体液の味が広がる。
 口での奉仕が下手だったから、怒らせてしまったのだろうか。潤んだ瞳で見上げると、ぎらりと獰猛に光るウォルフの視線とぶつかった。

「口の中に、出すから……受け止めてくれ……」

 出す、とは。まさか。口の中に射精するというのか。
 待って欲しいと伝えたいが、口を塞がれていてはそれもかなわない。混乱している間に、舌の上に熱い精液が叩きつけられた。

「っ……ぅ……!」

 青臭い、どろりとした精液は、エアネストの口に収まりきらずに、あふれて顎を伝った。
 吐き出していいのか、わからない。エアネストは精液をこぼさないように上を向き、口を開け、助けを求めるようにウォルフを見上げた。

「……ろぅふ……」

 名前を呼んだつもりが、言葉にならない。
 ウォルフはエアネストの顎をつかみ、精液にまみれた口元をじっと見降ろしている。うろたえるばかりで対処できない姿を蔑まれているのだろうか。ウォルフは一言も発しないまま、エアネストの口の中に指を突っ込み、精液を塗り込むように舌を撫でた。

「ふぁ……う……ッ」

 鼻で呼吸をするたびに雄の味が口いっぱいに広がる。あふれる唾液と精液を舌の上でかき回されると、ぞわぞわと背中に震えが走った。それは嫌悪感に似てはいたが、全く別の感覚のように思えた。

「そのまま、飲めるか……?」

 飲む、など。信じ難いが、ウォルフがそう言うならそれが口淫の作法なのだろう。エアネストは口の中の体液を素直に嚥下した。
 その様子を見届けたウォルフは、指をエアネストの唇に触れさせる。意図を読んだエアネストは再び口を開けて空になった口腔内をウォルフに見せた。
 舌の上の六芒星は、消えているだろうか。消えていなければ困る。だがウォルフは押し黙ったままだった。

「消えなかったのか……?」

 まさか、ここまでして消えなかったのだろうか。

「――あ。いや、消えた」
「ほっ、本当か!」

 エアネストは弾かれたように寝台から飛び降り、壁に掛けられた姿見に駆け寄った。べっと舌を出してみれば、そこにあった呪いの刻印は初めからなかったかのように消えていた。

「ああ、よかった! ありがとうウォルフ!」

 死の淵が遠ざかり、エアネストは破顔してウォルフの手を両手で握りしめた。だが、気まずそうに顔を逸らせるウォルフを見て慌てて手を離した。多大な迷惑をかけているというのに、子供のようにはしゃいでいる場合ではない。
 それに、呪いの刻印はまだもう一つ残っている。
 ウォルフは次の獲物を見定めるようにエアネストの下腹に視線を這わせ、指先で触れた。

「次は、こっちだな」
「ああ! 手間をかけるが、こちらもどうかよろしく頼む!」
「……これから何をするのか、わかってますか?」
「もちろんだ」

 エアネストは胸を張って答えた。閨事について実践的な知識を持たないが、ウォルフの助けにより障害をひとつ乗り越えることができたのだ。この調子で解決できるはずだと確信を持った。

 結論から言うと、エアネストは何ひとつわかっていなかった。
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