転生魔王

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15.夕陽

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鬱蒼と辺り一面に木々が散らばる森の中を何ともしれない探し物を捜索しながら歩き回る。

しかし前を向けば木。下を見れば草と落ち葉。一向にそれらしきものは見当たらない。

「くそ、日が暮れちまう」

メイルクリアスは焦燥に駆られる。
少女の2、3日と言われた命の灯火、そのかけがえのない1日が失われようとしているのだ。

医務室をとび出してからというもの、少女と遭遇した付近から更に範囲を拡大して『心臓』とやらを探してみた。
それでも対象の影すら見つからない。

だが、その代わりに神殿とおぼしきものを発見した。
巨大な樹木同士が重なり合い出来た幻想的な自然美とどこか神聖さをも感じさせる、建造物という人工的な手技とはかけ離れた場所が主を待つかのようにじっとその場へ構えていた。

メイルクリアスは恐る恐るといったていで侵入してみたが、当然目当てのものは見つけられることはなかった。
しかしあるべきものを戻す場所が知れたというのは収穫ものだろう。

神殿を後にしたメイルクリアスは再び森の捜索を開始することにした。

「神殿の魔力の集合体」とペイシェが証言していたことからその辺りに落ちていようものならそれなりに違和感のある代物だという考えの元に、レンズを通して対象の効果を知ることの出来るアイテム「鑑定ルーペ」を片手に探す。が、遂に森の中に該当しそうな物は一つとして確認することができずに今に至るのであった。

「もしかして実体が無いものなんだろうか?だとしたらそんなの探しようがないじゃないか。
………いや、『具現化したもの』だと言っていたな。確か。その可能性は心配ないのか?
だとすると考えられることは何者かの手によって神殿の中から盗られた、とか?そしてどこかへ持ち出された………?でも、神殿には守り人であるペイシェが居たはずだ。侵入者には反応して対処するだろう。その可能性もない………………ん?いや待て、よ………?」

思考を巡らせていたメイルクリアスは唐突に思い出す。
ため息を吐く少女と出会った時にこちらの「探していたのか」という問いに対して「チョウチョを追っていた」という旨の発言があったことを。

「………まさかあいつチョウチョか何かに気をとられて何処かに行っている間に侵入者が来たんじゃ………?」

あのそそっかしい少女のことである。十分にあり得る、と考えてしまうのも悲しいことだ。

「ペイシェが『無くなった』と言っていたから俺はその辺りを探していたわけだが、そもそもの話ずっと神殿にあった大事な『心臓』が独りでに無くなるわけがないな。浅はかだった」

いているからか単純なことさえ気付けない自分に苛立つ。

結果的にはそこまで辿り着いた所で事態は変わることはないのだが。
―――否、何者かに持ち去られたということは森に無い可能性の方が高いだろう。益々悪くなったと言える。

「どうする?森には無い。森の外へ探しに行くか?誰が盗ったかもわからないのに?
100歩譲って盗ったヤツが魔族やモンスターなら交渉の余地がある。だけどもし人族だったら?魔族の俺が彷徨うろついてたら問答無用で排除されかねないし、当てがないという点は変わらない。
果てしない。果てしないぞあまりにも………」

そう言うメイルクリアスだったが自身が一番わかっていた。自分が途方もないことをしているということは。
だけど、動かずにはいられなかったのだ。寝覚めの悪さというのは理由の一つに過ぎない。

「考えろ。考えるんだ。身体を動かしても埒があかなかった。今は最良の選択肢を考えて実行するんだ」
「何をぶつくさとほざいている?」
「は?」

突如として聞こえた自分以外からの言葉にメイルクリアスは驚き振り返ろうとする。



ドスッ



その瞬間、背後から正面にかけて衝撃を感じたかと思うのも束の間、それは激痛となり喉の奥から込み上げる紅い吐物と共に堪らず嘔吐えづく。

「かはっ!」
「じぁーな。憐れな名も知らぬ魔族」

メイルクリアスは力を振り絞りながら下方に目をやる。
胸には夕陽を反射してきらめく一本の刃が深々と、花弁が咲き誇ったかのような血飛沫ちしぶきと共に突き出していた。

細い目を更に細くした男性が嘲笑あざわらうように口元をつり上げながら刃を引き抜く。

重力に逆らえずに倒れていく視界の端で白蛇の絡む槍を捉えたメイルクリアスは、力無く地面へと叩きつけられた。




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