転生魔王

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7.新米共

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雲一つ無い青空の下。
立っているだけで卒倒しそうになる強い日差しの中、軽装の皮鎧で身を包んだ兵士の集団が複数に並び、整列していた。

額から汗が滴り落ちる彼らの前へ一人の女性が現れる。

軍服めいた衣類で胸を窮屈にしまい込んだことが見て取れるくらいに豊満なバスト。その下へと続くウエストはしっかりと引き締まり、更に下方へ進むとウエストとの曲線が美しいヒップが目を引く、何とも悩ましい身体をしている。頭には軍帽めいた被り物を深々と乗せ、目鼻立ちの整った顔は冷静な面持ちをしており、背筋を真っ直ぐと伸ばしながら堂々とした足取りで歩いてくる。
その様を見た兵士達が感じた印象は「クールビューティー」というものであった。

彼女が立ち止まり、兵士達の方へ向き合ったと同時に鎧の集団は無駄な動き一切となく敬礼をする。

「楽にしろ」

彼女が一言発すると兵士達はすぐさま手を後ろへと組み直して直立不動となる。

「私はジャスミン。これから先、貴様らを一人前の魔王軍へと育成させてやる教官の名だ。よく覚えておけ」

女性―――ジャスミンは鎧の集団―――魔王軍の兵士達へと言葉を投げる。

今執り行われているのはこの場の新米兵士達が魔王軍へ入隊してから初めてとなる顔合わせの集会である。教官のジャスミンとも面と向かって会うのは多くが初めてのことであった。

「一応、魔王軍入隊おめでとうと言っておこうか。もっとも魔族が志願すれば誰でも入れるものであるが。
しかし、だ。貴様ら全員が正規軍へ入れると確約されている訳ではない。現時点ではあくまで見習いである」

その言葉に幾ばくかざわつく兵士達。
そんな兵士達を彼女は目だけで見渡していた。

「最初に教えておくことがある。私が言ったことには全て『yes,serイエッサー.』で答えろ。いいな?」
「「………イエッサー!」」

ざわつきが収まりきれていない中での要求に若干返事の遅れる兵士達。

「遅い!!!」

気圧されるかのような怒号が飛ぶ。兵士の一人が身を震わせた。

「弛んでいるな。ペナルティだ。その場で腕立て伏せ500回!」
「ご、500回!?皮鎧を着たままで!?………ですか!?」

他の兵士達が感じていたであろうことをジャスミンの向かいに位置していた兵士が堪らず問う。

「聞き間違いか?」
「え?」

一方問われた側のジャスミンは眉間に皺を寄せ、兵士をその蛇のような瞳孔の瞳で睨み付ける。

「私が言ったことにはどう答えるんだったかもう忘れたというのか?」
「…!い、イエッサー!」

質問した兵士はすぐさま言い直すが後の祭り。

「貴様ら!残念なお知らせだ。連帯責任で更に500回追加だ!」
「「「イエッサー………」」」

同じてつを踏むまいと嫌々ながらも返答をする兵士達。

「声が小さい!!貴様ら返事も録にできないのか?腹筋500回も追加だ!さっさとしろ!!」
「「「イエッサー!!」」」

兵士達は地に手をつけると誰からともなくカウントを始め、皆がそれに従う。
太陽の光を存分に浴びた大地は焼けるようだったが、愚図愚図しているとペナルティが増えると感じた兵士達には熱がる余裕などない。

その様子をジャスミンはいつの間にか取り出した教鞭状の鞭を片手に持ち、もう一方のてのひらを軽く叩きながら仁王立ちで眺めていた。その形相たるや獲物を狙う肉食獣の如し。

懸命にペナルティを受けている彼らは知らなかった。

ジャスミンという女性が魅惑の外見とは裏腹に、先輩兵士の界隈では『ふるいの鬼教官』と呼ばれていたことを。

「おい、そこ!さっさとしないとペナルティを増やすぞ!きびきび動け!」
「…イエッサー!」

注意を受けた兵士の一人が息を切らしながら声を絞り出すと必死に周りに合わせて再開する。

そんな彼にどこか引っ掛かりを感じたジャスミンはじっと見つめる。

(………?見覚えがあるようだが………。まあいい)

その後、腕立て伏せ・腹筋合計1500回を見事にこなした兵士達は、挨拶を済ませたジャスミンが去ってからもしばらくは地面に突っ伏したままで動けずに過ごすのであった。




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