上 下
7 / 51

第7話:殿下ってこんな人だったかしら?

しおりを挟む
そのまま部屋を出ようとしたのだが…

「待って、クリスティーヌ嬢。まだお茶を飲んでいないのに、帰ろうとするのはどうかと思うよ。さあ、お茶にしよう。このお茶はね、隣国から取り寄せた貴重なお茶なんだよ。この前話をしたときに、飲んでみたいと言っていただろう?」

私にお茶を進めてくるカロイド殿下。仕方がない、一杯だけ付き合うとするか。早速入れて頂いたお茶を一気に飲み干した。

「とても美味しいお茶ですわ。それでは私はこれで」

そう言って席を立とうとすると

「ハハハハハ、そんなに露骨に帰ろうとするなんて。君みたいな令嬢は初めてだよ」

そう言って声を上げて笑い始めたのだ。何だ、この男。そんなにおかしいのか?訳が分からず、首をコテンとかしげる。

「クリスティーヌ嬢は、本当に分かりやすいね。実は妹に頼まれて、君に近づいて欲しいと言われたから今日呼んだだけなのだが。僕は君自身に興味を持ったよ。僕を軽くあしらい、さっさと帰ろうとする令嬢、初めて会った」

この人、何を言っているの?妹に頼まれて私に近づいた?一体何のことなの?全く意味が分からない。

「と…とにかく私は、そろそろお暇させていただきますわ。それでは、失礼いたします」

「待って!せっかくだから、一緒に中庭を散歩しようよ。公爵には時間をもらっているから、いいだろう?さあ、行こう」

私の手を握り、そのまま歩き出したカロイド殿下。

「殿下、令嬢の手を気軽に握るのはいかがなものかと。とにかく、放してください」

カロイド殿下の手をスッと振りほどいた。

「君、本当にこの前会ったクリスティーヌ嬢なのかい?全く別人に感じるのだが。あの時は、僕の美しさにノックアウトされていたのに。僕はね、この美しい顔立ちのせいか、大体の令嬢は僕が微笑むと皆頬を赤くするんだよ」

ええ、知っていますとも。あなた様はこの国で一番美しいと言われている、完璧なヒーローなのだから。

「毎回ちょっとほほ笑むだけで、ノックアウトされている令嬢に嫌気がさしていたんだよ。でも、今日のクリスティーヌ嬢は、全く僕になびかないね。それどころか、僕の事をあしらって早く帰りたいオーラ全開だ」

そう言って声を上げて笑っている。だから、何が可笑しいのよ。私は早く屋敷に戻りたいのよ。愛するアルフレッド様が、今頃玄関の外で待っているのだから!

「さすがカロイド殿下、私の心の声が分かるだなんて。はい、はっきり申し上げると、家に帰りたいです。そもそも、私はあなた様の婚約者にはなるつもりはないので、時間の無駄だと思いませんか?どうかあなた様にノックアウトされている令嬢と一緒に、楽しいお時間をお過ごしください。それでは私はこの辺で」

「待ってよ、僕は僕にノックアウトされている令嬢なんて興味がないよ。それよりも、君みたいに僕に興味のない令嬢に興味があるんだ。君の様な令嬢を僕の虜にした方が、楽しいだろう?」

こいつ、何を言っているのだろう。

「殿下、この際なのではっきりと申し上げます。私はアルフレッド様を心より愛しております。ですから、あなた様が私にどんな魔法を掛けようが、どんな色仕掛けをかけようが、あなた様を好きになる事は絶対にありません!もう一度言います。私はあなた様を、絶対に好きになりませんから、もう私には関わらないで下さい!それでは失礼いたします!」

最後くらいは美しくカーテシーを決め、クルリと反対側を向き歩き始めた。

「今日は帰してあげるけれど、僕は君を諦めないよ。そういえば来月から、貴族学院が始まるね。毎日君に会えるのを、楽しみにしているよ。あっ、でも門までは送らせてもらうよ」

満面の笑みで私の隣までやって来たカロイド殿下。胡散臭い微笑を浮かべている。そもそもこの人って、こんなキャラだったかしら?


漫画ではいつも笑顔で、アルフレッド様に怯えるクリスティーヌに常に寄り添っていたイメージしかない。それに妹に頼まれて、私を呼びだしたと言っていたわ。

妹とは、カリーナ殿下の事よね?カリーナ殿下が、どうして私を呼びだすように頼んだのかしら?全く意味が分からない。

「殿下、1つお伺いしたいのですが、どうしてカリーナ殿下は、私を呼びだすようにあなた様に頼んだのですか?」

私の隣にいたカロイド殿下に気になる事を聞いた。

「それはね…内緒!そうだな、また僕とお茶をしてくれるなら、話してあげてもいいよ。もちろん、最低でも2時間は付き合ってほしいな」

こいつ!

「お断りしますわ」

「即答で断るだなんて。僕、一応王太子なんだけれどな…でも、そんなところも気に入ったよ」

何なのよ、この人。もしかして、嫌われることを喜んでいるのかしら?ドMタイプ?あの漫画に出てくる男たちって、実は皆変り者だったのかしら?

て、今はそんな事どうでもいいわ。

ただ1つ言える事は、どうやら王太子殿下に気に入られてしまった様だ。これは面倒な事になった。せっかくアルフレッド様の心も穏やかだったのに。またアルフレッド様の心が乱されるじゃない!

もしかして、これが漫画の強制力という奴かしら?とにかく、王太子殿下にはさっさと私を諦めてもらわないと。それに、妹君のカリーナ殿下。なんだか彼女が気になる。家に帰ったら、もう一度ストーリーを思い返してみないと!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

私の婚約者は6人目の攻略対象者でした

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
王立学園の入学式。主人公のクラウディアは婚約者と共に講堂に向かっていた。 すると「きゃあ!」と、私達の行く手を阻むように、髪色がピンクの女生徒が転けた。『バターン』って効果音が聞こえてきそうな見事な転け方で。 そういえば前世、異世界を舞台にした物語のヒロインはピンク色が定番だった。 確か…入学式の日に学園で迷って攻略対象者に助けられたり、攻略対象者とぶつかって転けてしまったところを手を貸してもらったり…っていうのが定番の出会いイベントよね。 って……えっ!? ここってもしかして乙女ゲームの世界なの!?  ヒロイン登場に驚きつつも、婚約者と共に無意識に攻略対象者のフラグを折っていたクラウディア。 そんなクラウディアが幸せになる話。 ※本編完結済※番外編更新中

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

婚約者の心の声が聞こえるようになったけど、私より妹の方がいいらしい

今川幸乃
恋愛
父の再婚で新しい母や妹が出来た公爵令嬢のエレナは継母オードリーや義妹マリーに苛められていた。 父もオードリーに情が移っており、家の中は敵ばかり。 そんなエレナが唯一気を許せるのは婚約相手のオリバーだけだった。 しかしある日、優しい婚約者だと思っていたオリバーの心の声が聞こえてしまう。 ”またエレナと話すのか、面倒だな。早くマリーと会いたいけど隠すの面倒くさいな” 失意のうちに街を駆けまわったエレナは街で少し不思議な青年と出会い、親しくなる。 実は彼はお忍びで街をうろうろしていた王子ルインであった。 オリバーはマリーと結ばれるため、エレナに婚約破棄を宣言する。 その後ルインと正式に結ばれたエレナとは裏腹に、オリバーとマリーは浮気やエレナへのいじめが露見し、貴族社会で孤立していくのであった。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...