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第5話:ジャクソン様は格好いいです

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その日の夜、通信機がなった。

“やあ、ティアラ。元気にしているかい?”

通信の相手はもちろん殿下だ。

「はい、お陰様で。テオも見違えるように元気になりましたし、本当にありがとうございます」

“それはよかった。それで明日なのだが、君と僕が恋人同士だという事を、皆に伝えたくてね。明日校門の前で待っているから、一緒に教室まで行ってくれるかい?”

「もちろんです。殿下にはこんなにも良くしてもらったのですから、必ず殿下の望み通りの働きをさせていただきますわ」

“ありがとう。それは助かるよ。それから、僕たちは恋人同士なんだ。殿下ではなく、名前で呼んでくれ。それじゃあ、また明日”

そう言うと、通信が切れた。名前でか…確かに恋人同士なのに、殿下は変よね。明日から、ジャクソン様とお呼びしないと。それにしても、学院内でも恋人として振舞うなんて、私、令嬢たちに殺されないかしら?

一抹の不安を抱きながら、眠りについた。

翌日
私の為に準備された馬車に乗り込み、学院へと向かう。そう言えば、こうやって伯爵家の馬車に乗り込んで学院に通うのは初めてね。なんだか不思議な感じがしながらも、嬉しくてつい笑みがこぼれる。

学院に着き、馬車から降りると、打ち合わせ通りジャクソン様が待っていた。

「おはようございます、ジャクソン様」

「おはよう、ティアラ。それじゃあ、行こうか」

近くで見ると物凄く格好いいジャクソン様に手を引かれ、教室を目指す。案の定、周りからは悲鳴が聞こえる。やっぱり私、刺されるかもしれないわね…そんな不安が頭をよぎったその時だった。

「ギャーギャーうるさいサルどもめ…」

えっ?今ジャクソン様、何か言った?びっくりしてジャクソン様の方を見たのだが、変わらない笑顔だ。きっと私の聞き間違いね。そうよ、ジャクソン様があんなに汚い口をきくわけがないわ。きっと気のせいだろう。

そんな事を考えている間に、教室に着いた。

「それじゃあ、ティアラ。また放課後迎えに来るからね」

そう言うと、笑顔で去っていったジャクソン様。その瞬間。

「ちょっと、ティアラ。どういう事?あなたいつから第二王子と付き合っていたの?」

やって来たのは、リリアナだ。他の令嬢たちも興味津々でこちらを見ている。

「実は少し前から付き合っていて…」

例えリリアナだとしても、私たちが契約で付き合っているなんて事が知られてはまずい。とにかく、バレない様に濁しておいた。

そんな中迎えたお昼休み。リリアナと一緒に、いつもの様に中庭にやって来た。

「テオから聞いたわ。テオの手術代も伯爵家の借金も、全て第二王子が肩代わりしてくれたってね。でもね、やっぱり私、納得いかないのよ。ティアラは今まで、全くと言っていいほど第二王子と接点がなかったでしょう?それなのに、急に付き合うだなんて。もしかして、何か事情があるのではないかって思って」

さすがリリアナ、鋭いわ。でも、私たちの関係は話してはダメと言われているし。どうしよう…

「は~、ティアラが話したくないならまあいいわ。でも、もし困ったことがあったら、すぐに相談してよ。あなたは少し無理をするところがあるから、心配なのよ。さあ、お昼ご飯を食べましょう」

どうやら、これ以上は詮索してこない様だ。よかったわ。さすがリリアナね。早速2人でお弁当を広げ、いつもの様に食べた。ちょうど食べ終わった頃

「あなたがティアラ嬢ね」

やって来たのは、令嬢4人組だ。きっと私に文句を言いに来たのだろう。確か真ん中にいるのが、ミートン侯爵家の令嬢だわ。

「伯爵令嬢の分際で、一体どうやって殿下を口説いたのよ。殿下は私が狙っていたのよ。それなのに、この前まで貧乏だったくせに殿下に近づくなんて、図々しい。どうせ殿下に取り入って、お金を工面してもらったのでしょう?優しい殿下を利用するなんて、本当に許せないわ」

私に向かって真っ赤な顔をして怒鳴る令嬢。泣きついて頼んだわけではないが、大方合っているので文句は言えない。とにかく相手の怒りが収まるまでやり過ごそう。

「何とか言いなさいよ。この貧乏令嬢が!」

黙っていた事に腹を立てたのか、カバンを大きく振りかぶった。これは殴られるわね。でも5億ゼニーを出してくれたジャクソン様の為だ。大人しく殴られよう。そう思って目を閉じたのだが…

あれ?殴られない?ゆっくり目を開けると、そこにはミートン侯爵令嬢の腕を掴んでいるヴァン様。さらに近くにはジャクソン様の姿が。

「僕の可愛いティアラに暴力をふるうのは止めてくれるかい?」

にっこり笑ってそう言うと、私を守るように立ったジャクソン様。さらに

「この学院では、いかなる理由があろうとイジメは禁止されているはずだ。今の映像、ばっちり録画したから、今から学院長先生に提出してくる。もちろん、侯爵家にも報告させてもらうから」

はっきりとそう告げたのはヴァン様だ。

「お待ちください。どうかご慈悲を」

「何の罪もない令嬢に言いがかりをつけ、カバンで殴ろうとした人間が、何を言っているんだ。とにかく、この映像は今から提出してくる。それでは殿下、私は学院長室に行ってまいりますので」

「ああ、よろしく頼むよ。君たち、ここは貴族学院だ。身分で人をイジメてはいけないと、一番初めに習っただろう。とにかく今回の件は見逃せないから、そのつもりで。さあ、もう行きなさい」

ジャクソン様がそう言うと、泣きながら去っていった4人。まさか助けて下さるなんて、増々ジャクソン様を見直したわ。

「ティアラ、怪我はないかい?君が怪我をしたら大変だからね。さあ、教室まで送っていこう。君は確か、リリアナ嬢だったね。君にも怖い思いをさせて悪かったね。ティアラの事、これからもよろしく頼むよ」

なぜかリリアナにまで気遣いを見せるジャクソン様。本当にできた人間だわ。リリアナもジャクソン様の対応に、目を輝かせている。

その後はジャクソン様に教室まで送ってもらった。

「ちょっとティアラ。何なのあの王子様。やることなすことメチャクチャ格好いいじゃない。ティアラ、変な誤解をしてごめんなさい。あなたが殿下を好きになる理由が分かったわ。これからもきっと、令嬢たちから嫌がらせされるかもしれないけれど、きっと殿下が守ってくださるわ。あぁ、ついにティアラにも春が来たのね」

そう言って1人で物凄く盛り上がっていた。確かにさっきのジャクソン様、格好良かったな。これから半年間、なんだか楽しみになって来たわ。
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