今度こそ穏やかに暮らしたいのに！どうして執着してくるのですか？

第120話：どうしてこんな事に…

さすがにもう言い逃れは出来ない。毒入りのマフィンもあるし、これだけの目撃者がいるのだ。

しっかり罪は償ってもらおう。真っすぐヴァイオレットを見つめる。ちょうどそのタイミングで、先生たちがやって来たのだ。

「一体何の騒ぎですか？またヴァイオレット嬢、あなたですか？」

ハァっとため息をつく先生。

「先生、ヴァイオレット様が、ルージュのマフィンに毒を入れた様ですわ。これが毒入りのマフィンです。このマフィンを調べていただければ、分かるはずです」

「何だって？これは大事だ。すぐに学院長先生に知らせないと。ヴァイオレット嬢、君はこっちに来なさい。それから、ルージュ嬢も事情を聞きたいから、一緒に来てください」

先生に促され、私もヴァイオレットと一緒に。先生の方へと向かった。さすがにもう言い逃れは出来ないだろう。

その時だった。

先生の手をふり払ったヴァイオレット。

そして

「アハハハハ、罪を償ってもらう？私を許さない？随分と威勢のいいことを言うのね。全てがバレてしまった今、さすがにもう言い逃れは出来ない。公爵令嬢を殺そうとした私は、極刑が妥当かしら？そしてあなたは、グレイソン様と幸せになるの？そんな事…絶対にさせないわ」

ニヤリとヴァイオレットが笑ったのだ。

「あなたは私と一緒に、地獄に行くの…あなたも道連れよ！」

一瞬の隙を付き、私に向かって走って来るヴァイオレット。手には短刀が握られている。しまった！刺される！そう思い、瞳を閉じた時だった。誰かに抱きしめられたのだ。そして…

ドス！！

「きゃぁぁぁぁ」

えっ…

「クリストファー殿下…どうして…」

私を抱きしめる様に立っているのは、クリストファー殿下だ。私を庇い、ヴァイオレットにさされたのか、クリストファー殿下はそのまま倒れ込んでしまったのだ。腰にはナイフが刺さり、血が出ている。

「クリストファー殿下、しっかりしてください」

「よかった、君が無事で…」

「殿下、大丈夫ですか？傷口はそこまで深くないので、命に別状はありません。大丈夫ですよ。すぐに医者を」

近くにいたアルフレッド様が、すぐに傷口を確認している。よかった、大したことないのね。そう思ったいたのだが…

なぜか殿下が吐血したのだ。

「殿下、大丈夫ですか？アルフレッド様、本当に大したことないのですか？かなり顔色も悪そうです」

どう見ても大丈夫そうには見えない。


「クリストファー殿下、しっかりしてください。どうしてこんな事に…」

「ルージュ、落ち着いてくれ…多分僕はもう…」

「そんな…嫌です。どうか死なないで下さい」

「ルージュ、聞いてくれ…僕はね、今猛烈に嬉しいんだ…だってあの女から、ルージュの命を守れたのだから…僕は１度目の生で、君の命を奪ってしまった…だからこそ、今の生では、君を守りたい…ずっとそう思っていたんだ…」

「殿下、お願い、もう話さないで！医者はまだ来ないの。お願い、殿下が死んでしまうわ」

嫌よ、こんな形で殿下を…クリストファー様を失うだなんて。絶対に嫌！

「ルージュ、泣かないで…僕はルージュの笑顔が大好きだ…どうか僕の分も…幸せになって…」

最後ににっこり微笑むと、そのままゆっくりと瞳を閉じたクリストファー様。

「どうして瞳を閉じるのですか？目を覚ましてください。クリストファー様、こんなお別れは嫌です。お願い、死なないで。誰か、助けて！お願い、彼を死なせないで！」

嫌よ、どうしてこんな事に…

「ルージュ、しっかりして。クリストファー殿下はきっと大丈夫だ」

「そうよ、傷は大したことないのだもの。意識を飛ばしただけよ」

皆が私を慰めてくれる。その間に医者がやって来て、クリストファー様の様子を確認している。

なんだか物凄く嫌な予感がするのだ。お願い、どうかクリストファー様を助けて！

「これは…」

治療をする医者の手が止まったのだ。

「先生、どうして治療をしないのですか？お願いします、クリストファー様を助けて下さい」

必死に医者に訴える。

「大変申し上げにくいのですが、殿下は既に…」

「どうして？どうしてよ。傷口はそんなに酷くないのでしょう？それなのにどうして。嫌よ、クリストファー様、目を覚まして。こんなお別れ、私は望んでいませんわ。お願い、目を開けて…」

クリストファー様に泣きながら縋りつき、必死に訴える。

嫌よ、どうしてこんな事に。どうしてよ！