上 下
101 / 124

第101話:結局あなたに助けられたのですね

しおりを挟む
湯あみが終わり、アリーが手や足に薬を塗ってくれている。こんな切り傷、アン殿下の苦しみに比べれば、たいしたことはないわ。

そういえば私がちょっと切り傷を作った時、グレイソン様も大騒ぎして、薬を塗ってくれたわね。懐かしいわ…

こんな時、グレイソン様の事を考えるだなんて、私はどれほど不謹慎なのだろう。でも、なぜかあの時の事が頭に浮かぶ。

“ルージュ、傷が早く治る様に、このお茶を君に上げるよ。今騎士団で人気のお茶なんだ。ちょっと苦いけれど、とても体にいのだよ”

“お茶ですか?”

“そうだよ、ソーシーの葉を乾燥させたものなんだ。はい、これ。ルージュ、絶対に毎日飲むのだよ。分かったね”

ソーシーの葉を乾燥?

「そうだわ!」

クローゼットにしまってあった鞄を引きずり出す。

「お嬢様、一体何をなされているのですか?」

私は未練たらしくグレイソン様から貰ったものは、全て持ってきたのだ。確かあれも持ってきていたはず。この辺に入っていると思ったのだが…

「あったわ!これさえあれば!」

お茶の葉が入った入れ物を握りしめ、部屋から飛び出ると、そのままアン殿下の元へと向かった。部屋に入ると、陛下と叔母様、デイズ殿下が涙を流しながらアン殿下を見守っていた。

「ソーシーの葉!ありましたわ。どうか…どうかこの葉を使ってください。この葉があれば、アン殿下は助かるのですよね」

急いで公爵家から連れて来た医師に、ソーシーの葉の入った箱を渡した。

「これは確かに、ソーシーの葉ですね。これで殿下は助かりますよ。すぐに薬を作りましょう」

私達が見守る中、薬の調合が始まった。そして

「完成しました。すぐにこの薬を飲ませて下さい」

出来立てほやほやの薬を、陛下たちが受け取った。

「アン、この薬を飲んで。すぐに楽になるから」

ゆっくりアン殿下に薬を飲ませている。お願い、これで元気になって!祈る様な気持ちで、殿下を見つめる。すると、今まで苦しそうにしていた殿下の呼吸が落ち着いた。ただ、緑の湿疹は消えない。

すぐに医者がアン殿下の症状を確認する。

「上手く解毒出来た様ですね。明日の朝には、熱も湿疹も落ち着くはずです」

「よかったわ…本当によかった」

アン殿下が助かったのだ。嬉しくて涙が込みあげてくる。

「ルージュ、ありがとう。あなたのお陰よ」

「ルージュ嬢は、アンの命の恩人だ。なんとお礼を言っていいか」

「ルージュ嬢、アンを助けてくれてありがとう。本当にありがとう」

皆が私にお礼を言ってくれる。でも…

「私は何もしていませんわ。実はこのソーシーの葉は、私の義兄、グレイソン様が私に下さったものなのです。グレイソン様が、アン殿下を助けてくれたのですわ…」

「グレイソン様?そう、私の義理の甥が私の娘を助けてくれたのね…でも、その葉を持ってきてくれたのは、ルージュでしょう。ありがとう、ルージュ」

そう言うと、叔母様が私を強く抱きしめてくれた。

「陛下、ソーシーの葉は、今も同じ病で苦しむ民たちの為に使ってください」

まだアン殿下と同じように、苦しんでいる人がいるのだ。一刻も早く、薬を届けてあげて欲しい。

「ありがとう、ルージュ嬢。そうさせてもらうよ。すぐに薬を届けないと」

近くにいた使用人に、陛下が指示を出している。これで今も苦しむ3人の命が助かるのね。それもこれも、全てグレイソン様のお陰だ。遠く離れた場所でも、私は結局グレイソン様に助けられるだなんて…

「ルージュ、今日は色々とありがとう。疲れたでしょう。アンはもう大丈夫だから、ゆっくり休んで」

「ルージュ嬢、僕が部屋まで送るよ」

私の手を握り、部屋までエスコートしてくれるのは、デイズ殿下だ。

「デイズ殿下、エスコートありがとう。殿下も今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んでね」

「お礼を言うのは僕の方だよ。ルージュ嬢、妹を助けてくれて、本当にありがとう。これからもずっとずっと、この国にいてね。それじゃあ、おやすみ」

そう言うと、殿下が嬉しそうに走って行ってしまった。可愛いわね。

これからもずっとこの国にいて…か。

なぜだろう、とても嬉しい言葉のはずなのに、なんだか心の奥がモヤモヤする。私はこれからもずっと、この国にいたい。というよりも、ここしか私の居場所はないのだ。だからずっと、この国にお世話になるつもりでいるのに…

なんだかグレイソン様に会いたくてたまらないのだ。

でも、グレイソン様は、私の事を嫌っているのよね。それでも私は、グレイソン様に会いたい…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても

千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

処理中です...