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第71話:やはりあなた様も…
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「こっちだ、すぐにルージュ嬢を助けてくれ」
「かしこまりました。すぐに鍵を開けます」
「ルージュ嬢、遅くなってすまない。すぐに開けるから待っていてくれ。大丈夫だ、僕たちがここにいるから、もう怖くないよ。そうだ、楽しい話をしよう。そうすれば怖くないだろう」
必死に殿下が話しかけてくれる。昔殿下が、王宮の隠し通路を案内してもらった事があった。その通路が薄暗くて、怖くてたまらなかったのだ。そんな私の手をギュッと握り“ルージュ、怖いのかい?そうだ、楽しい話をしよう。そうすれば怖くないだろう”そう言って色々な話をしてくれたのだ。
あの時と同じように、必死に楽しい話をしてくれる殿下。どうして私に優しくするの?あなたは何を考えているの?お願い、私の心をこれ以上かき乱さないで…
そうこうしているうちに、ガチャリと鍵が開く音がしたと思ったら、ドアが開いた。
「ルージュ嬢、大丈夫かい?そんなに怖かったかい?泣いているではないか」
えっ?泣いている?
そっと頬に触れると、確かに涙が流れていた。そんな私を、ギュッと抱きしめる殿下。温かくて、なんだか懐かしい。
でも、ダメよ。一時の感情に流されては。
そっと殿下の腕から抜け出た。
「急に抱きしめてすまなかった。怪我はないかい?もしかして無理やりあの女に閉じ込められたのかい?」
必死に訴えてくる殿下、こんなに必死な姿を見たのは、初めてかもしれない。そう思ったら、なぜは頬が緩んだ。
「まずお助けいただき、ありがとうございます。ヴァイオレット様に無理やり入れられたわけではありませんわ。先生のお使いでこの倉庫に物を置きに来たのです。私が倉庫に入った瞬間、ドアを閉められ鍵を掛けられたので、誰にされたのかはわかりませんわ」
「そうだったのだね。怖かっただろう。門のところまで送るから、もう帰るといい」
そう言うと、殿下が歩き出した。
「殿下…どうして私が暗いところが苦手だと知っていたのですか?」
どうしても気になって、殿下に向かって叫んだ。ゆっくり振り向いた殿下を、真っすぐと見つめた。
「それは…君が昔教えてくれたから…」
ポツリとそう呟いたのだ。私は殿下に、そんな話をしたことはない。だとすると…
「殿下もあるのですね…1度目の生の時の記憶が…」
私の言葉に、大きく目を見開いた殿下が
「悪いがルージュ嬢と2人きりで話がしたい。馬車で待っていてくれるかい?」
近くにいた執事に指示を出している。殿下の指示で去っていく執事を見守った後、ゆっくりと殿下が私の方に向き直した。
「そうだよ、僕には1度目の生の時の記憶がある。ルージュもあるのかい?」
「ええ、ありますわ…」
思い出したくもない1度目の生の時の記憶。
「だから最初から、僕を避けていたのだね。ルージュ、今更謝っても許される事ではないが、謝罪させてくれ。あの時は本当にすまなかった」
何度も何度も頭を下げる殿下。
「もういいのです…過ぎた事ですから。ですが私はあの日、絶望の中命を落としました。ボロボロの馬車の荷台に無理やり押し込まれ、森で無理やり引きずりおろされました。全てを悟った両親が、何とか私だけでも逃がそうとしてくれました。でも…目の前で両親は…そして私も、切り殺されました。あの時の痛みと絶望は、今でも忘れる事が出来ません」
あの時の事を思い出し、涙が溢れだす。どうしてだろう、殿下に話すつもり何てなかったのに、口が勝手に動き出したのだ。
きっと私は、あの時どれほど辛かったのか、どれほど殿下を恨んで死んでいったのか、知って欲しいのだろう。
「ルージュ…すまない。本当に僕は、どうしようもない男だ…君が絶望の中命を落としている時に、僕は…」
殿下の瞳からとめどなく涙が溢れている。
「殿下、1度目の生の時の記憶があるのですよね。それならどうして、あんなにも愛していたヴァイオレット様を遠ざけているのですか?あなた様を見ていると、ヴァイオレット様を心底憎んでいる様に感じます。それに私の事も、大嫌いでしたよね。それこそ殺したいほどに。それなのに、どうして?」
何となく殿下も、1度目の生の時の記憶があるのではないかと感じていた。でも、どうしてもこの点が理解できなかったのだ。あんなにも愛していたヴァイオレットを嫌い、大嫌いだった私の事を、好きだというのかを。
「ルージュ、君が命を落とした後の事を、少し話していいだろうか?」
「ええ、構いませんが…」
殿下がぽつりぽつりとあの後の事を話しだしたのだ。
「かしこまりました。すぐに鍵を開けます」
「ルージュ嬢、遅くなってすまない。すぐに開けるから待っていてくれ。大丈夫だ、僕たちがここにいるから、もう怖くないよ。そうだ、楽しい話をしよう。そうすれば怖くないだろう」
必死に殿下が話しかけてくれる。昔殿下が、王宮の隠し通路を案内してもらった事があった。その通路が薄暗くて、怖くてたまらなかったのだ。そんな私の手をギュッと握り“ルージュ、怖いのかい?そうだ、楽しい話をしよう。そうすれば怖くないだろう”そう言って色々な話をしてくれたのだ。
あの時と同じように、必死に楽しい話をしてくれる殿下。どうして私に優しくするの?あなたは何を考えているの?お願い、私の心をこれ以上かき乱さないで…
そうこうしているうちに、ガチャリと鍵が開く音がしたと思ったら、ドアが開いた。
「ルージュ嬢、大丈夫かい?そんなに怖かったかい?泣いているではないか」
えっ?泣いている?
そっと頬に触れると、確かに涙が流れていた。そんな私を、ギュッと抱きしめる殿下。温かくて、なんだか懐かしい。
でも、ダメよ。一時の感情に流されては。
そっと殿下の腕から抜け出た。
「急に抱きしめてすまなかった。怪我はないかい?もしかして無理やりあの女に閉じ込められたのかい?」
必死に訴えてくる殿下、こんなに必死な姿を見たのは、初めてかもしれない。そう思ったら、なぜは頬が緩んだ。
「まずお助けいただき、ありがとうございます。ヴァイオレット様に無理やり入れられたわけではありませんわ。先生のお使いでこの倉庫に物を置きに来たのです。私が倉庫に入った瞬間、ドアを閉められ鍵を掛けられたので、誰にされたのかはわかりませんわ」
「そうだったのだね。怖かっただろう。門のところまで送るから、もう帰るといい」
そう言うと、殿下が歩き出した。
「殿下…どうして私が暗いところが苦手だと知っていたのですか?」
どうしても気になって、殿下に向かって叫んだ。ゆっくり振り向いた殿下を、真っすぐと見つめた。
「それは…君が昔教えてくれたから…」
ポツリとそう呟いたのだ。私は殿下に、そんな話をしたことはない。だとすると…
「殿下もあるのですね…1度目の生の時の記憶が…」
私の言葉に、大きく目を見開いた殿下が
「悪いがルージュ嬢と2人きりで話がしたい。馬車で待っていてくれるかい?」
近くにいた執事に指示を出している。殿下の指示で去っていく執事を見守った後、ゆっくりと殿下が私の方に向き直した。
「そうだよ、僕には1度目の生の時の記憶がある。ルージュもあるのかい?」
「ええ、ありますわ…」
思い出したくもない1度目の生の時の記憶。
「だから最初から、僕を避けていたのだね。ルージュ、今更謝っても許される事ではないが、謝罪させてくれ。あの時は本当にすまなかった」
何度も何度も頭を下げる殿下。
「もういいのです…過ぎた事ですから。ですが私はあの日、絶望の中命を落としました。ボロボロの馬車の荷台に無理やり押し込まれ、森で無理やり引きずりおろされました。全てを悟った両親が、何とか私だけでも逃がそうとしてくれました。でも…目の前で両親は…そして私も、切り殺されました。あの時の痛みと絶望は、今でも忘れる事が出来ません」
あの時の事を思い出し、涙が溢れだす。どうしてだろう、殿下に話すつもり何てなかったのに、口が勝手に動き出したのだ。
きっと私は、あの時どれほど辛かったのか、どれほど殿下を恨んで死んでいったのか、知って欲しいのだろう。
「ルージュ…すまない。本当に僕は、どうしようもない男だ…君が絶望の中命を落としている時に、僕は…」
殿下の瞳からとめどなく涙が溢れている。
「殿下、1度目の生の時の記憶があるのですよね。それならどうして、あんなにも愛していたヴァイオレット様を遠ざけているのですか?あなた様を見ていると、ヴァイオレット様を心底憎んでいる様に感じます。それに私の事も、大嫌いでしたよね。それこそ殺したいほどに。それなのに、どうして?」
何となく殿下も、1度目の生の時の記憶があるのではないかと感じていた。でも、どうしてもこの点が理解できなかったのだ。あんなにも愛していたヴァイオレットを嫌い、大嫌いだった私の事を、好きだというのかを。
「ルージュ、君が命を落とした後の事を、少し話していいだろうか?」
「ええ、構いませんが…」
殿下がぽつりぽつりとあの後の事を話しだしたのだ。
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