35 / 124
第35話:本当の戦いが始まります
しおりを挟む
「お嬢様、貴族学院の制服、よく似合っていらっしゃいますよ。本当に素敵ですわ。サイズもぴったりですね」
「そう?ありがとう。汚すといけないから、もう脱ぐわね」
平和な日々はあっという間に過ぎるもの。ついに私は明日、貴族学院に入学する。貴族学院には、クリストファー殿下はもちろん、私たちを地獄に叩き落した天敵、ヴァイオレットもいる。絶対にあの人たちには関わらないようにしないと。
ただ…貴族学院は基本的に、爵位に合わせてクラス分けされている。友人たちはもちろん、殿下やヴァイオレットも同じクラスなのだ。とにかく一瞬の気も抜けない。
とはいえ…
あの人たちに関わらなければきっと、大丈夫なはずだ。あの女がグレイソン様に接触しないかだけ気を付けないといけないが、後は放置で大丈夫だろう。
幸いまだ、殿下には婚約者がいない。貴族学院に入学さえしてしまえば、2人は勝手に恋に落ち盛り上がるだろう。1度目の生の時の私の様に、令嬢が傷つくことはなさそうだ。その点は良かったわ。
ふと1度目の生の時の記憶が、脳裏に浮かんだ。全てを諦め、絶望に満ちた目をしていたグレイソン様。そして彼が命を奪われた瞬間、泣き叫んだ両親。私を守るために、自ら騎士たちに体当たりをして切り殺されたお父様とお母様。
そして私もその後、切り殺されたのだ。あの激痛は、今でも忘れる事が出来ない。
悔しくて悲しくてどうしようもない感情が、次々と私の心に沸き上がって来る。やっぱりヴァイオレットだけは、許せない…出来る事なら私の手で、叩き潰してやりたい。
…ダメよ、確かにヴァイオレットは憎い存在だが、そんな気持ちでいたらまた、足元をすくわれるわ。
今回の生では、平穏に暮らすのだから。あの女の事は、なるべく考えないようにしないと!
そう自分に言い聞かせたのだった。
翌日
真新しい制服に袖を通した。そして鏡に映る自分に喝を入れる。殿下の時は不覚にも怯えてしまった。でも、ヴァイオレット、あの女の前では絶対に弱い自分を見せない。正直怖くてたまらない。
顔を見たら、恐怖で震えあがり、パニックになるかもしれない。1度目の生の時の記憶が蘇り、号泣するかもしれない。それでも私は、公爵令嬢としてのプライドがある。
絶対にあんな女に負けてたまるか。せめて公爵令嬢として、凛としていたい。とはいえ、昨日の夜から胃が痛いのも事実だ。最近また食欲が落ちてしまい、両親やグレイソン様に心配をかけているのだ。
本当に私は、いつからこんなに弱くなったのかしら。
はぁっとため息をつきながら、部屋から出る。すると
「ルージュ、おはよう。今日から貴族学院が始まるね。殿下も貴族学院に入学するけれど、僕が必ずルージュを守るから安心して欲しい」
まっすぐ私を見つめ、そう言ってくれたグレイソン様。本当に彼は、逞しくなったわね。グレイソン様は非常に優秀で、勉学も武術も非常に優れている。
今では既に公爵を継ぐために、領地経営にも積極的に関わっているのだ。その上騎士団内でも、アルフレッド様の右腕として活躍していると聞く。どうやら今回の生では、彼の才能が開花した様だ。
グレイソン様の幸せの為にも、絶対にヴァイオレットには近づいて欲しくない。私がしっかりガードしないと!
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですわ。だって学院には、私の事を大切に思ってくれている友人たちもおりますし。それに何よりも、グレイソン様も傍にいてくれるでしょう?何も怖いものなんてありませんわ。さあ、学院に参りましょう」
グレイソン様の手をギュッと握り、馬車へと向かった。いつの間にか大きくなったグレイソン様の手。彼の手を握ると、安心する自分がいるのだ。
「ルージュは無理をするところがあるから、心配だな。あまり無理をしてはいけないよ。何かあったら、すぐに僕に相談して欲しい。もし僕に相談しにくいなら、令嬢たちに相談してもいいし。彼女たちは本当にルージュの事を、大切に思ってくれているからね。僕が嫉妬しちゃうくらい…」
「えっ?」
「いや、何でもないよ」
そう言うと、なぜか俯いている。ただ、頭1つ分大きくなったグレイソン様。私の位置から顔が丸見えだ。何やら顔が赤いので、照れている様だ。一体何に照れているのだろう。さっぱりわからない。
「ルージュ、グレイソンも。貴族学院入学おめでとう。気を付けて行ってくるのよ」
「グレイソン、ルージュの事を頼んだよ。最近ルージュは元気がない様だし。まあ、グレイソンも一緒だから、私はあまり心配はしていないがな」
「義父上、義母上、ルージュの事は僕に任せて下さい。それでは、行って参ります」
「お父様、お母様、行って参ります」
2人に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。笑顔で手を振る両親に、私たちも手を振り返した。そういえば私、グレイソン様と一緒に馬車に乗って貴族学院に行くのは初めてね。1度目の生の時は、いつも別々に行っていたし。
でも今回の生では、もちろんずっと一緒に通学するつもりだ。一緒に登下校をする事で、グレイソン様の行動をある程度把握できる。そうすれば、ヴァイオレットがグレイソン様に付け入ろうとしても、察知できる可能性が高いだろう。
でも、油断は出来ないけれどね。
「そう?ありがとう。汚すといけないから、もう脱ぐわね」
平和な日々はあっという間に過ぎるもの。ついに私は明日、貴族学院に入学する。貴族学院には、クリストファー殿下はもちろん、私たちを地獄に叩き落した天敵、ヴァイオレットもいる。絶対にあの人たちには関わらないようにしないと。
ただ…貴族学院は基本的に、爵位に合わせてクラス分けされている。友人たちはもちろん、殿下やヴァイオレットも同じクラスなのだ。とにかく一瞬の気も抜けない。
とはいえ…
あの人たちに関わらなければきっと、大丈夫なはずだ。あの女がグレイソン様に接触しないかだけ気を付けないといけないが、後は放置で大丈夫だろう。
幸いまだ、殿下には婚約者がいない。貴族学院に入学さえしてしまえば、2人は勝手に恋に落ち盛り上がるだろう。1度目の生の時の私の様に、令嬢が傷つくことはなさそうだ。その点は良かったわ。
ふと1度目の生の時の記憶が、脳裏に浮かんだ。全てを諦め、絶望に満ちた目をしていたグレイソン様。そして彼が命を奪われた瞬間、泣き叫んだ両親。私を守るために、自ら騎士たちに体当たりをして切り殺されたお父様とお母様。
そして私もその後、切り殺されたのだ。あの激痛は、今でも忘れる事が出来ない。
悔しくて悲しくてどうしようもない感情が、次々と私の心に沸き上がって来る。やっぱりヴァイオレットだけは、許せない…出来る事なら私の手で、叩き潰してやりたい。
…ダメよ、確かにヴァイオレットは憎い存在だが、そんな気持ちでいたらまた、足元をすくわれるわ。
今回の生では、平穏に暮らすのだから。あの女の事は、なるべく考えないようにしないと!
そう自分に言い聞かせたのだった。
翌日
真新しい制服に袖を通した。そして鏡に映る自分に喝を入れる。殿下の時は不覚にも怯えてしまった。でも、ヴァイオレット、あの女の前では絶対に弱い自分を見せない。正直怖くてたまらない。
顔を見たら、恐怖で震えあがり、パニックになるかもしれない。1度目の生の時の記憶が蘇り、号泣するかもしれない。それでも私は、公爵令嬢としてのプライドがある。
絶対にあんな女に負けてたまるか。せめて公爵令嬢として、凛としていたい。とはいえ、昨日の夜から胃が痛いのも事実だ。最近また食欲が落ちてしまい、両親やグレイソン様に心配をかけているのだ。
本当に私は、いつからこんなに弱くなったのかしら。
はぁっとため息をつきながら、部屋から出る。すると
「ルージュ、おはよう。今日から貴族学院が始まるね。殿下も貴族学院に入学するけれど、僕が必ずルージュを守るから安心して欲しい」
まっすぐ私を見つめ、そう言ってくれたグレイソン様。本当に彼は、逞しくなったわね。グレイソン様は非常に優秀で、勉学も武術も非常に優れている。
今では既に公爵を継ぐために、領地経営にも積極的に関わっているのだ。その上騎士団内でも、アルフレッド様の右腕として活躍していると聞く。どうやら今回の生では、彼の才能が開花した様だ。
グレイソン様の幸せの為にも、絶対にヴァイオレットには近づいて欲しくない。私がしっかりガードしないと!
「ありがとうございます。でも、もう大丈夫ですわ。だって学院には、私の事を大切に思ってくれている友人たちもおりますし。それに何よりも、グレイソン様も傍にいてくれるでしょう?何も怖いものなんてありませんわ。さあ、学院に参りましょう」
グレイソン様の手をギュッと握り、馬車へと向かった。いつの間にか大きくなったグレイソン様の手。彼の手を握ると、安心する自分がいるのだ。
「ルージュは無理をするところがあるから、心配だな。あまり無理をしてはいけないよ。何かあったら、すぐに僕に相談して欲しい。もし僕に相談しにくいなら、令嬢たちに相談してもいいし。彼女たちは本当にルージュの事を、大切に思ってくれているからね。僕が嫉妬しちゃうくらい…」
「えっ?」
「いや、何でもないよ」
そう言うと、なぜか俯いている。ただ、頭1つ分大きくなったグレイソン様。私の位置から顔が丸見えだ。何やら顔が赤いので、照れている様だ。一体何に照れているのだろう。さっぱりわからない。
「ルージュ、グレイソンも。貴族学院入学おめでとう。気を付けて行ってくるのよ」
「グレイソン、ルージュの事を頼んだよ。最近ルージュは元気がない様だし。まあ、グレイソンも一緒だから、私はあまり心配はしていないがな」
「義父上、義母上、ルージュの事は僕に任せて下さい。それでは、行って参ります」
「お父様、お母様、行って参ります」
2人に挨拶をして、馬車に乗り込んだ。笑顔で手を振る両親に、私たちも手を振り返した。そういえば私、グレイソン様と一緒に馬車に乗って貴族学院に行くのは初めてね。1度目の生の時は、いつも別々に行っていたし。
でも今回の生では、もちろんずっと一緒に通学するつもりだ。一緒に登下校をする事で、グレイソン様の行動をある程度把握できる。そうすれば、ヴァイオレットがグレイソン様に付け入ろうとしても、察知できる可能性が高いだろう。
でも、油断は出来ないけれどね。
1,369
お気に入りに追加
3,023
あなたにおすすめの小説
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています
虐げられた令嬢は、姉の代わりに王子へ嫁ぐ――たとえお飾りの妃だとしても
千堂みくま
恋愛
「この卑しい娘め、おまえはただの身代わりだろうが!」 ケルホーン伯爵家に生まれたシーナは、ある理由から義理の家族に虐げられていた。シーナは姉のルターナと瓜二つの顔を持ち、背格好もよく似ている。姉は病弱なため、義父はシーナに「ルターナの代わりに、婚約者のレクオン王子と面会しろ」と強要してきた。二人はなんとか支えあって生きてきたが、とうとうある冬の日にルターナは帰らぬ人となってしまう。「このお金を持って、逃げて――」ルターナは最後の力で屋敷から妹を逃がし、シーナは名前を捨てて別人として暮らしはじめたが、レクオン王子が迎えにやってきて……。○第15回恋愛小説大賞に参加しています。もしよろしければ応援お願いいたします。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる