上 下
21 / 48

第21話:ブラック様に何か贈りたいです

しおりを挟む
学院を辞めさせられた翌日、ショックで1人泣いていると

「おい、何をビービー泣いているんだ。とにかく、その腫れあがった顔を今すぐ治療してくれ。明日までに何とかしないと」

なんだかよく分からないが、叔父様とお医者様が急に私の部屋にやって来たのだ。

「かしこまりました。それにしても、随分と腫れておりますね。明日までに腫れが引く保証はありません」

「それは困る!早く治療を!」

よくわからないが、私が昨日カルディアから受けた怪我の手当てをしてくれる様だ。一体どういう事かしら?よくわからないうちに、医者が手際よく手当てを行ってくれた。

「ユリア、いいか?お前は明日から毎日学院に行くんだ。絶対に休むことは許さない!いいな、わかったな」

叔父様が凄い形相でそう叫んでいる。急にどうして学院に行けだなんて言うのかしら?

「あの、叔父様。何かありましたか?」

「何かありましたか?ではない。先ほどブラック殿が訪ねて来たのだ。まさかお前の様な人間が、この国一番の大貴族、ブラック殿に見初められるだなんて…とにかく、学院には行くんだ。それから、ブラック殿に変な事を絶対に言うなよ。顔の傷は、転んだ事にしておけ!いいな!」

まさかブラック様がわざわざ様子を見に来てくださるだなんて…嬉しくてつい頬が緩む。

「分かりましたわ。叔父様、私を学院に行かせてくださり、ありがとうございます」

「本来ならブラック殿に近づけと言いたいところだが、お前の寿命は後わずか。どう転んでも、もう長くはない。クソ、こんな事なら、お前をそれなりに育てておけばよかった。そうすれば、我が家はもっともっと権力を持てたのに!それにしてもこの部屋は、陰気くさいな。こんなところに居たら、私まで病気になってしまう。いいな、ブラック殿に変な事を絶対言うなよ」

そう言って外に出て行った叔父様。

明日からまた、学院に行けるのね。それもこれも、ブラック様のお陰だわ。いつも私の為に動いて下さるブラック様。

彼は公爵令息だ、欲しいものは何でも手に入るだろう。それでも私は、彼の為に何かしたい。さて、私に何が出来るかしら?

ふと周りを見渡す。う~ん、めぼしいものは何もないな。どうしよう…

顎に手を当てて考える。そう言えば友人の1人が、婚約者の為に刺繍を入れたと言っていたわね。刺繍なら、私も子供の頃何度も練習をしていたから、入れられるわ。

とはいえ、私は裁縫セットも肝心の刺繍を入れるものも持っていない…そうだわ!

引き出しから1枚のハンカチを取り出した。亡くなったお母様が私にくれた、大切なハンカチ。このハンカチに刺繍を入れよう。

両親の形見は、ほとんど叔父様たちに奪われてしまったが、それでも唯一残っているのが、このハンカチとブラック様が見つけてくれたブローチのみ。このハンカチは、私の宝もの。だからこそ、この思い出のハンカチに、刺繍を入れてブラック様にプレゼントしたいと思ったのだ。

でも、そんな経緯を聞いたらさすがに引かれるだろうから、内緒にしておかないと!

早速近くにいた使用人に、裁縫セットを貸してもらえないかお願いした。無視されるかしら?そう心配したが

「かしこまりました。すぐに準備いたします」

そう言うと、立派な裁縫セットを貸してくれたのだ。どうやら新人のメイドさんの様だ。きっとまだ、この家の状況を分からず、私に親切にして下さったのね。この家の使用人たちは、叔父様や叔母様たちから、私に必要なとき以外接する事を禁止しているのだ。

あの新人メイドさんが、後で叔父様たちにバレて怒られない様に、この裁縫セットは早く帰さないと。さて、デザインは何がいいかしら?

う~ん…

そうだわ!この国で守り神として崇められている、狼をモチーフにしよう。失敗しない様に、まずはデザインを書いていく。

色々と悩んでいたせいで、この日はデザインを考えるだけで終わってしまった。

翌日、学院に向かうと、ブラック様が待っていてくれた。

「おはようございます、ブラック様。昨日はお見舞いに来てくださったそうで、ありがとうございました」

「おはよう、ユリア。この顔の傷、酷いね。赤くなっているではないか」

「はい、ちょっと転んでしまいまして…」

「そうか…ユリアは足腰が弱っているから、あまり歩かない方がいいだろう。学院で転んだら大変だ。俺が教室まで運ぼう」

相変わらずお優しいブラック様。彼のお陰で私はまた、学院に通う事が出来る様になった。きっと叔父様の状況から見て、私の命が尽きるその日まで通えそうな感じだ。もし叶うなら、大切な人に囲まれてあの世にいけたら、なんてまた図々しい事を考えてしまった。

「ユリア、急に大人しくなって、どうしたんだい?また体調が悪いのかい?そう言えば昨日はジュースを飲ませられなかったね。早速飲んでくれ」

「ありがとうございます。早速頂きますわ」

1日ぶりに飲むジュース。本当に美味しいわ。

この日もブラック様や友人たちに囲まれて、楽しい時間を過ごしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

希望通り婚約破棄したのになぜか元婚約者が言い寄って来ます

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢ルーナは、婚約者で公爵令息エヴァンから、一方的に婚約破棄を告げられる。この1年、エヴァンに無視され続けていたルーナは、そんなエヴァンの申し出を素直に受け入れた。 傷つき疲れ果てたルーナだが、家族の支えで何とか気持ちを立て直し、エヴァンへの想いを断ち切り、親友エマの支えを受けながら、少しずつ前へと進もうとしていた。 そんな中、あれほどまでに冷たく一方的に婚約破棄を言い渡したはずのエヴァンが、復縁を迫って来たのだ。聞けばルーナを嫌っている公爵令嬢で王太子の婚約者、ナタリーに騙されたとの事。 自分を嫌い、暴言を吐くナタリーのいう事を鵜呑みにした事、さらに1年ものあいだ冷遇されていた事が、どうしても許せないルーナは、エヴァンを拒み続ける。 絶対にエヴァンとやり直すなんて無理だと思っていたルーナだったが、異常なまでにルーナに憎しみを抱くナタリーの毒牙が彼女を襲う。 次々にルーナに攻撃を仕掛けるナタリーに、エヴァンは…

5度目の求婚は心の赴くままに

しゃーりん
恋愛
侯爵令息パトリックは過去4回、公爵令嬢ミルフィーナに求婚して断られた。しかも『また来年、求婚してね』と言われ続けて。 そして5度目。18歳になる彼女は求婚を受けるだろう。彼女の中ではそういう筋書きで今まで断ってきたのだから。 しかし、パトリックは年々疑問に感じていた。どうして断られるのに求婚させられるのか、と。 彼女のことを知ろうと毎月誘っても、半分以上は彼女の妹とお茶を飲んで過ごしていた。 悩んだパトリックは5度目の求婚当日、彼女の顔を見て決意をする、というお話です。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。 国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。 「もう無理、もう耐えられない!!」 イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。 「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。 そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。 猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。 表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。 溺愛してくる魔法使いのリュオン。 彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる―― ※他サイトにも投稿しています。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

妹と婚約者が結婚したけど、縁を切ったから知りません

編端みどり
恋愛
妹は何でもわたくしの物を欲しがりますわ。両親、使用人、ドレス、アクセサリー、部屋、食事まで。 最後に取ったのは婚約者でした。 ありがとう妹。初めて貴方に取られてうれしいと思ったわ。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

処理中です...