上 下
18 / 48

第18話:どうやら私たちの関係が気に入らない様です

しおりを挟む
「それじゃあユリア、また明日」

ブラック様が私を馬車に乗せると、笑顔でおりていく。ここ数日、ブラック様は良く笑顔を見せてくれる様になった。

「ここまで運んでくださり、ありがとうございました。はい、また明日」

私もブラック様に挨拶をして、ドアを閉める。馬車が走り出した後も、ずっとこちらを見つめているブラック様。そんな彼に手を振ると、手を振り返してくれたのだ。

それがまた嬉しくてたまらない。最初は憧れの存在だったブラック様、学院に通えたら、ブラック様と仲良くなれたら嬉しい。そう思っていた。残り少ない時間をブラック様と過ごせたらと考えていたが。まさかここまでがっつりとブラック様の傍にいられるだなんて…

きっと私が病気だから、気にかけてくれているのだろう。分かっている、彼の様な方が私を好きになる事はないと。それでも夢見てしまうのだ。もし私が元気だったら、もしかしたらブラック様と…

自分でも図々しい夢だとわかっている。それでも、せめて夢くらいは見ても罰は当たらないだろう。そう、最近の私は、余命がごくわずかという事もあり、ずいぶんと図々しい性格になってきているのだ。

こんなに図々しい私を受け入れてくれているブラック様や友人達には、本当に感謝しかない。

ほっこりした気持ちのまま屋敷に着くと、なぜか使用人が待っていた。

「旦那様がお呼びです。すぐに居間にお越しください」

叔父様が?嫌な予感しかしない。もしかして、治癒魔法の依頼かしら?さすがに今治癒魔法を使ったら、もう命がないかもしれない。このままブラック様や友人たちとお別れだなんて、嫌…

それでも私に拒否権はない。急いで居間へと向かうと、怖い顔の叔父様と叔母様、カルディアが待っていた。わざわざカルディアまでいるという事は、治癒魔法の依頼ではないのね。よかった。

「お待たせして申し訳…」

「ユリア、あなた一体何をしていたの?いつまで私を待たせるのよ!」

真っ赤な顔で怒鳴るのはカルディアだ。

「申し訳ございません」

とりあえず謝っておく。

「ユリア、カルディアから聞いたぞ。お前、随分とサンディオ公爵家のブラック殿と親しくしているみたいではないか?どう言って取り入ったかは知らないが、彼に要らぬことを言っていないだろうな?」

「こんな見た目もみすぼらしい女に、ブラック様が興味を抱くわけありませんわ。ユリア、あなたまさかブラック様に付きまとっている訳ではないでしょうね?あの家に目を付けられたら、さすがに貴族界では生きていけないわ!本当にあなたは、疫病神なのだから」

「私はブラック様に何も申してはおりません。ただ、私が病気なので、きっと気にかけて下さっているだけです。ブラック様は本当にお優しい方なので…」

「それが目障りなのよ!大体あなた、もうすぐ死ぬのでしょう?人の善意につけこんで、ブラック様にまとわりつくだなんて、本当に目障りな女!お父様、早くこの女を始末してください!私、クラスにこの女がいるだけで、吐き気がしますの。そうだわユリアの病気が悪化したという事で、もう学院に通わせないという事でどうですか?」

えっ…もう学院に通えないですって?それだけはイヤよ!

「カルディアの言う通りだわ。ただ黙って学院に通っているだけならともかく、ブラック様にまとわりついているなんて。あなた、世間では十分ユリアが病気という事も理解してもらったし、もう学院には通わせないようにしましょう。大体この女の為に、馬車も豪華なお弁当も、私は気に入らなかったのよ」

「そんな…馬車もお弁当ももういりません。ブラック様にも極力近づかないようにします。ですからどうか、どうか学院だけは…」

「うるさい!死にかけの人間が、ギャーギャー文句を言うんじゃないわよ」

バチィィーーン

「キャァァ」

カルディアに思いっきり頬を殴られたのだ。ポタポタと血が落ちる。

「ちょうど顔にも怪我をしたしよかったじゃない。あなた、早速学院に休学届を出して下さいね。それからユリア、あなたの汚らわしい血で、床が汚れたわ。さっさと拭いて、自室に戻りなさい」

「…はい」

これ以上この人たちに何を言っても無駄だろう。急いで血を拭いて、その場を後にする。部屋に戻ると、一気に涙が溢れ出した。

もう泣かない、笑顔でいたい、そう決めたのに…必死に涙を拭き笑顔を作るが、それでも次から次へと涙があふれでるのだ。

「私、最近ちょっと図々しかったものね…だから罰が当たったのかしら…」

もう二度と、ブラック様や友人たちに会う事はない…そう思ったら、悲しくて辛くて。最後にもう一度、皆に会いたい。

胸が張り裂けそうで辛くて悲しくて、この日はどうしても涙を止める事が出来なかったのだった。


※次回、ブラック視点です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

助けた青年は私から全てを奪った隣国の王族でした

Karamimi
恋愛
15歳のフローラは、ドミスティナ王国で平和に暮らしていた。そんなフローラは元公爵令嬢。 約9年半前、フェザー公爵に嵌められ国家反逆罪で家族ともども捕まったフローラ。 必死に無実を訴えるフローラの父親だったが、国王はフローラの父親の言葉を一切聞き入れず、両親と兄を処刑。フローラと2歳年上の姉は、国外追放になった。身一つで放り出された幼い姉妹。特に体の弱かった姉は、寒さと飢えに耐えられず命を落とす。 そんな中1人生き残ったフローラは、運よく近くに住む女性の助けを受け、何とか平民として生活していた。 そんなある日、大けがを負った青年を森の中で見つけたフローラ。家に連れて帰りすぐに医者に診せたおかげで、青年は一命を取り留めたのだが… 「どうして俺を助けた!俺はあの場で死にたかったのに!」 そうフローラを怒鳴りつける青年。そんな青年にフローラは 「あなた様がどんな辛い目に合ったのかは分かりません。でも、せっかく助かったこの命、無駄にしてはいけません!」 そう伝え、大けがをしている青年を献身的に看護するのだった。一緒に生活する中で、いつしか2人の間に、恋心が芽生え始めるのだが… 甘く切ない異世界ラブストーリーです。

前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。

真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。 一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。 侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。 二度目の人生。 リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。 「次は、私がエスターを幸せにする」 自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください

迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。 アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。 断るに断れない状況での婚姻の申し込み。 仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。 優しい人。 貞節と名高い人。 一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。 細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。 私も愛しております。 そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。 「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」 そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。 優しかったアナタは幻ですか? どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

処理中です...