上 下
15 / 48

第15話:俺に出来る唯一の事~ブラック視点~

しおりを挟む
部屋に戻った俺は、感情が抑えきれずに思いっきり壁を叩いた。そんな事をしても無意味なのに。

まさかユリア嬢が、そこまで酷い扱いを受けていただなんて…

ふとユリア嬢の姿を思い出す。どんなに苦しくても辛くても、笑顔を絶やさない彼女の美しい姿。陰でどれほどの涙を流してきたのだろうか…何度無理やり魔力をむしり取られ、激痛に悶絶し、もがき苦しんだのだろう。

7年もの間、そんな日々に耐え、それでも絶望することなく笑みを絶やさない。俺がとても想像できないくらいの地獄の日々を、必死に生きて来たのだろう。

彼女の事を考えると涙が止まらない。俺は無力だ、今もまた彼女が鬼畜共に虐められているかもしれない、魔力を無理やり奪われているかもしれない。その事実が分かった今も、俺は助け出してやることが出来ないだなんて。

あいつらのせいでユリア嬢は、命の危機にさらされているだなんて!許さない!あいつらだけは絶対に!こんなところで落ち込んでいる場合ではない。涙をぬぐうと、再び父上の元へと向かった。

「父上、俺にも調査を手伝わせてください!一刻も早く、彼女をあの鬼畜共から救い出したい!まずはこの書類をまとめればいいのですよね?」

「ああ、そうだ。それから調査をしていく中で、ユリア嬢の両親、元伯爵夫妻も、現伯爵が手に掛けたのではという疑惑も出て来た。でも、その調査はおいおい行っていく事にして、まずはユリア嬢に医者の許可なく治癒魔法を使わせ、衰弱させたことに対する罪について、重点的に証拠を集めよう。ユリア嬢の状況から見ても、1日でも早く助け出す必要がある」

「分かりました。それから、すぐに医者を手配して頂けますか?」

「医者をかい?」

「はい、このまま彼女を放置しておく訳にはいきません。薬があるのなら、彼女に飲ませたいのです」

このまま命が尽きようとしているユリア嬢を、指をくわえて見ている事なんて出来ない!少しでも進行を遅らせたいのだ!

「分かった、すぐに公爵家専属医師をここに呼んでくれ」

「かしこまりました」

父上の指示で、すぐに医者がやって来た。医者に状況を丁寧に説明する。すると

「その様な恐ろしい事が、現実に行われているだなんて…治癒魔法は命を削る魔法です。特効薬は存在しませんが、体の回復を促す薬なら手配可能です。早速準備いたします。出来るだけ毎食、無理でも毎日飲ませるようにしてください。でも、そこまで衰弱していらっしゃるのでしたら、あまり効果がないかもしれませんが…」

「それでもかまわない。少しでも効果があるなら。とにかく、すぐに手配してくれ!」

「かしこまりました」

翌朝、医者から薬を受け取った。とにかくこの薬を毎日ユリア嬢に飲ませる必要がある。最近定期的に休んでいるユリア嬢。きっと動く元気すらないのだろう。今日はユリア嬢、来てくれるのだろうか?

不安に思いつつ門の前で待っていると、来た!ユリア嬢だ。

ただ、顔色が悪く、今にも倒れそうだ。

「ユリア嬢、おはよう」

いてもたってもいられず、ユリア嬢に声を掛けた。するとそれはそれは嬉しそうに、にっこりとほほ笑むと

「おはようございます、ブラック様から声を掛けて下さるだなんて、嬉しいですわ」

そう言ってくれたのだ。ユリア嬢の顔を見た瞬間、どうしようもないほど泣きたくなった。彼女はどれほど辛い思いをして来たのだろう、鬼畜共のせいで既に死が近づいていると言うのに。それでも彼女は、優しい眼差しでほほ笑んでいるのだ。

胸が張り裂けそうになる思いを必死に堪える。

「今日もあまり顔色が良くないね。歩くのも辛いだろう。俺が運ぶよ」

スッとユリア嬢を抱きかかえた。

「私は大丈夫ですわ。ですから…」

「そんな辛そうな顔で、大丈夫と言われても説得力がないよ。そうだ、今日は栄養ドリンクを持ってきたんだ。少しでもユリア嬢に元気になってもらいたくてね。飲んでくれるかい?」

「私の為にですか?でも…」

「ただのジュースだから。どうか飲んで欲しい」

「分かりました。私の為にありがとうございます」

そう言うと、弾けんばかりの笑顔を見せてくれたのだ。この笑顔を俺は守りたい。でも、俺に守れるのだろうか?

「とても美味しいジュースですね。なんだか体が少し軽くなった気がしますわ」

「それはよかった。昼食の時もジュースを持って来るから、飲んでくれるかい?もし君さえよければ、一緒に食事をしたいのだが…もちろん、無理にとは言わない。友人達との時間も大切にしたいだろうから」

1秒でも長く、ユリア嬢と一緒にいたいのだ。ひと時だって離れたくはない。そんな思いで、お昼を誘った。すると

「私と食事をですか?私でよろしければ、ぜひお願いします」

そう言ってOKをくれたユリア嬢。嬉しくてつい笑みがこぼれた。

「ブラック様の笑顔、素敵ですわ…私の様な人間にこの様な事を言われても嬉しくないかもしれませんが、ブラック様はそうやって笑っている方がずっと素敵です」

笑っている方が素敵か…俺は自他ともに認める無表情男だ。でも、彼女がそう言うのなら、笑顔でいられる様に努力したい。そう思った。

今の俺に出来る事は限られている。それでも俺は、今できる事を何でもやっていきたい。彼女の為というよりも、自分自身が後悔しないためにも。



※次回、ユリア視点に戻ります。
よろしくお願いしますm(__)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

処理中です...