6 / 48
第6話:ブラック様はどこまでもお優しいです
しおりを挟む
翌朝、やはり昨日痛めた手が腫れてしまっていた。万が一叔父様たちに見られたら、学院を休めと言われるかもしれない。私にはもう時間がないのだ。1日でも長く学院に通えるよう、袖で隠す。
手が痛すぎて、お弁当の準備が出来なかった。昨日の夜も今朝も、ろくなものを食べていない。そう、貴族学院では、食堂などはなく皆お弁当を持参する事になっているのだ。
皆立派なお弁当を持って来るだろうが、生憎私のお弁当は準備されていない。みすぼらしいお弁当を持って行くくらいなら、食べない方がいいかもしれない。
そんな事を考えながら馬車に乗り込もうとした時だった。
「お嬢様、お弁当でございます」
何と、使用人がお弁当を持ってきてくれたのだ。
「えっ、私に?」
「はい、旦那様が学院に行く際は、あまりみすぼらしいお弁当では伯爵家の恥になるとの事で」
見栄っ張りの叔父様らしいわ。でも、私の為にお弁当を持たせてくれるだなんて、なんだか嬉しい。
「ありがとう、大切に食べるわね。それじゃあ、行ってきます」
相変わらず無表情の使用人に笑顔で挨拶をし、そのまま馬車に乗り込んだ。まさかお弁当を作ってもらえるだなんて。なんだか嬉しくてワクワクしてきたわ。まるでピクニックに行く子供の様ね。
ただ、手がやっぱり痛い。幸い怪我をしたのは左手だ、文字を書いたりするのには支障はない。それでも不便なのには変わりないが。
そんな事を考えているうちに、学院に着いた。さすが馬車、あっという間ね。ゆっくり馬車から降りる。あれは、ブラック様だわ!
「ブラック様、おはようございます」
今日も笑顔で挨拶をする。
「また君か。おはよう。君はいつも笑顔だね」
「はい、笑顔でいると、いい事があるのですよ。ブラック様もぜひ笑顔で過ごしてください。どんなに辛い事があっても、笑っていれば心が晴れるのです。それでは失礼いたします」
ペコリと頭を下げ、教室へと向かう。昨日の夜から何も食べていないせいか、少しふら付くがこれくらい問題ない。そう思っていたのだが…
「大丈夫か?ふらついているぞ。俺が…」
「痛い…」
心配してブラック様が私の元に駆け寄ってきてくれた上、手を取ろうとしてくれたのだが、生憎怪我をしてしまった方の手だったため、触れられた瞬間痛みが走ったのだ。
私ったらこの程度の痛みで声を上げるだなんて、情けないわね。
「君、怪我をしているではないか?すぐに医務室へ…」
医務室はマズいわ。
「いいえ、大丈夫ですわ。それでは失礼いたします」
「待ってくれ、どうして医務室に行くのが嫌なんだい?とにかく治療を受けた方がいい。手がものすごく腫れているじゃないか!」
「お気持ちは有難いのですが、大したことはありませんので。それでは失礼いたします」
叔父様から絶対に医者に掛かってはいけないと言われているのだ。万が一私が医者に診てもらった事がバレたら、もう学院に通わせてもらえなくなるかもしれない。とにかく私は、あまり問題を起こさない様に生きないといけないのだ。
「だから待つんだ!どうやら君は、医者が嫌いな様だな。仕方がない。ちょっとこっちにおいで」
一体どこに連れて行くつもりだろう?そう思っていると、公爵家の馬車へとやって来たと思ったら、ブラック様の家の使用人が出てきて、怪我の手当てしてくださったのだ。
「お可哀そうに、随分腫れていらっしゃいますね。いくら医者が嫌いでも、きちんと見てもらった方がよろしいですよ」
「丁寧に手当てして頂き、ありがとうございます。このご恩は決して忘れませんわ」
「ユリア様は大げさですね。この程度の手当て、いつでもお任せください」
そう言ってほほ笑んでくれた使用人。私も笑顔で返す。
「ブラック様も本当にありがとうございました。あなた様には助けられてばかりですね」
「別に俺の事は気にしなくてもいい。ただ…いや、何でもない。さあ、そろそろ教室に行かないと、遅刻してしまうな」
「まあ、もうこんな時間なのですね。ブラック様、それに使用人の方も、本当にありがとうございました。それでは私はこれで失礼いたします」
ペコリと2人に頭を下げ、急ぎ足で教室に戻った。よかった、まだ先生はいらしていなかったわ。急いで席に着き、授業の準備を行う。
それにしてもブラック様、本当にお優しい方だわ。きっと私に同情してくださっているのだろう。それでも私は、とても幸せだ。
私もブラック様に何かして差し上げたいが、生憎彼は公爵令息で望むものは何でも手に入るだろう。それに私の様な人間から何かをしてもらっても、迷惑かもしれない。
それでも何かしたいと考えてしまうのだ。彼は一体何をして差し上げれば喜んでくれるかしら?
結局授業中、その事ばかり考えてしまったのだった。
手が痛すぎて、お弁当の準備が出来なかった。昨日の夜も今朝も、ろくなものを食べていない。そう、貴族学院では、食堂などはなく皆お弁当を持参する事になっているのだ。
皆立派なお弁当を持って来るだろうが、生憎私のお弁当は準備されていない。みすぼらしいお弁当を持って行くくらいなら、食べない方がいいかもしれない。
そんな事を考えながら馬車に乗り込もうとした時だった。
「お嬢様、お弁当でございます」
何と、使用人がお弁当を持ってきてくれたのだ。
「えっ、私に?」
「はい、旦那様が学院に行く際は、あまりみすぼらしいお弁当では伯爵家の恥になるとの事で」
見栄っ張りの叔父様らしいわ。でも、私の為にお弁当を持たせてくれるだなんて、なんだか嬉しい。
「ありがとう、大切に食べるわね。それじゃあ、行ってきます」
相変わらず無表情の使用人に笑顔で挨拶をし、そのまま馬車に乗り込んだ。まさかお弁当を作ってもらえるだなんて。なんだか嬉しくてワクワクしてきたわ。まるでピクニックに行く子供の様ね。
ただ、手がやっぱり痛い。幸い怪我をしたのは左手だ、文字を書いたりするのには支障はない。それでも不便なのには変わりないが。
そんな事を考えているうちに、学院に着いた。さすが馬車、あっという間ね。ゆっくり馬車から降りる。あれは、ブラック様だわ!
「ブラック様、おはようございます」
今日も笑顔で挨拶をする。
「また君か。おはよう。君はいつも笑顔だね」
「はい、笑顔でいると、いい事があるのですよ。ブラック様もぜひ笑顔で過ごしてください。どんなに辛い事があっても、笑っていれば心が晴れるのです。それでは失礼いたします」
ペコリと頭を下げ、教室へと向かう。昨日の夜から何も食べていないせいか、少しふら付くがこれくらい問題ない。そう思っていたのだが…
「大丈夫か?ふらついているぞ。俺が…」
「痛い…」
心配してブラック様が私の元に駆け寄ってきてくれた上、手を取ろうとしてくれたのだが、生憎怪我をしてしまった方の手だったため、触れられた瞬間痛みが走ったのだ。
私ったらこの程度の痛みで声を上げるだなんて、情けないわね。
「君、怪我をしているではないか?すぐに医務室へ…」
医務室はマズいわ。
「いいえ、大丈夫ですわ。それでは失礼いたします」
「待ってくれ、どうして医務室に行くのが嫌なんだい?とにかく治療を受けた方がいい。手がものすごく腫れているじゃないか!」
「お気持ちは有難いのですが、大したことはありませんので。それでは失礼いたします」
叔父様から絶対に医者に掛かってはいけないと言われているのだ。万が一私が医者に診てもらった事がバレたら、もう学院に通わせてもらえなくなるかもしれない。とにかく私は、あまり問題を起こさない様に生きないといけないのだ。
「だから待つんだ!どうやら君は、医者が嫌いな様だな。仕方がない。ちょっとこっちにおいで」
一体どこに連れて行くつもりだろう?そう思っていると、公爵家の馬車へとやって来たと思ったら、ブラック様の家の使用人が出てきて、怪我の手当てしてくださったのだ。
「お可哀そうに、随分腫れていらっしゃいますね。いくら医者が嫌いでも、きちんと見てもらった方がよろしいですよ」
「丁寧に手当てして頂き、ありがとうございます。このご恩は決して忘れませんわ」
「ユリア様は大げさですね。この程度の手当て、いつでもお任せください」
そう言ってほほ笑んでくれた使用人。私も笑顔で返す。
「ブラック様も本当にありがとうございました。あなた様には助けられてばかりですね」
「別に俺の事は気にしなくてもいい。ただ…いや、何でもない。さあ、そろそろ教室に行かないと、遅刻してしまうな」
「まあ、もうこんな時間なのですね。ブラック様、それに使用人の方も、本当にありがとうございました。それでは私はこれで失礼いたします」
ペコリと2人に頭を下げ、急ぎ足で教室に戻った。よかった、まだ先生はいらしていなかったわ。急いで席に着き、授業の準備を行う。
それにしてもブラック様、本当にお優しい方だわ。きっと私に同情してくださっているのだろう。それでも私は、とても幸せだ。
私もブラック様に何かして差し上げたいが、生憎彼は公爵令息で望むものは何でも手に入るだろう。それに私の様な人間から何かをしてもらっても、迷惑かもしれない。
それでも何かしたいと考えてしまうのだ。彼は一体何をして差し上げれば喜んでくれるかしら?
結局授業中、その事ばかり考えてしまったのだった。
52
お気に入りに追加
3,605
あなたにおすすめの小説
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
表紙絵は猫絵師さんより(。・ω・。)ノ♡

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる