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第37話:心が揺れ動きます

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「リリアーナ、今日は疲れただろう?そろそろ帰ろう」

「あの、私は1人で帰れますわ。今日は色々と気を使っていただき、ありがとうございました」

そう伝え、そのまま1人で帰ろうとしたのだが。

「待ってくれ、どうか僕に送らせて欲しい」

そう言って馬車に乗り込んできたのだ。そのまま向かい合わせに座った。

「リリアーナ、今日は僕に君のエスコートをさせてくれて、ありがとう。とても楽しかったよ。ただ、そのせいで貴族たちから誤解を与える様な事になってしまって、本当にすまない」

殿下がそう言って頭を下げた。

「どうしてですか?どうしてあの時、貴族たちに“私と近々婚約を結ぶことになっている”と言わなかったのですか?そうすれば、私はあなた様に嫁ぐしかなくなるのに…どうして正直に答えたのですか?それもご自分を悪者にしてまで」

王宮主催の夜会には、沢山の貴族が来ている。あの場所で殿下の口から、私との婚約は間近という話をすれば、貴族界で一気に広がるだろう。さすがにそうなったら私は、殿下に嫁がなければいけなくなる。

貴族界とはそう言う場所なのだ。それなのに、正直に今の状況を話すだなんて…

「そんな嘘を付いたら、リリアーナにもっと嫌われてしまうだろう?それに僕は、そんな卑怯な事をしてリリアーナを傷つけ、無理やり手に入れる様なことはしたくないんだ。リリアーナの気持ちを尊敬したい。だからこそ、今の本当の状況を、貴族たちに知ってもらいたかったんだ。それに僕は、真実しか話していないよ」

「でも…それでもし、私が他の令息と婚約してしまったとしても、殿下はよろしいのですか?」

「…嫌だよ…リリアーナが他の令息と婚約何て、考えたくもない。それでも僕は、リリアーナの心も欲しいんだ。リリアーナも、もしあの場所で僕がそんな事を言ったら、僕の事をさらに軽蔑するだろう?図々しいかもしれないが、少しずつだけれど、リリアーナとの関係も改善出来ていると思うんだ。それをぶち壊して、リリアーナの心を無視してまで、君を手に入れようとは思わない」

真っすぐ私を見つめ、殿下がはっきりと告げたのだ。

どうして…
私の心なんて、今まで散々無視してきたのだから、今回だってそうすれば…

て、私は何を考えているのだろう。殿下があの場で他の貴族にはっきりと伝えてくれたから、私は殿下と無理やり婚約させられることもなかったのだ。

感謝しなければいけないはずなのに…

「リリアーナ、また君に悲しそうな顔をさせてしまったね。もう二度と僕の顔を見たくない、僕には関わりたくないというリリアーナの切なる願いを無視し続けた僕が、一体何を言っているのだと思っているのだろう?僕もそう思うよ。ただ僕は、やっぱり僕の事をまだ受け入れられないリリアーナを、無理やり僕のものにはしたくないんだ」

私の手をスッと握った殿下。温かくて大きな手…

「殿下、私は…」

その時だった。公爵家に着いた様で、馬車が停まった。

「公爵家に着いたね。リリアーナ、今日は本当にありがとう。疲れているだろうから、これ、アロマだよ。リリアーナはローズマリーも好きだったね。今日はこれでリラックスして、ゆっくり休んで欲しい」

可愛らしくラッピングされたアロマを手渡されたのだ。こんな時まで、私にプレゼントするだなんて…

「ありがとうございます。どうか殿下もゆっくり休んでください」

殿下に頭を下げ、屋敷へと入る。そしてそのまま自室へと向かうと、手渡されたばかりのアロマを見つめた。

「おかえりなさいませ、お嬢様。あら?可愛らしいアロマオイルですね」

ソフィーが私に話し掛けてきたのだ。

「ただいま、ソフィー。今日はこのアロマを使って欲しいのだけれど、いいかしら?」

「はい、もちろんですわ。既に湯あみの準備は出来ておりますので、どうぞこちらへ」

ソフィーに連れられ、湯あみを済ます。

「このアロマオイル、とてもいい香りがしますね。保湿効果も高いようですし、塗ったそばから肌になじみますわ」

ソフィーが嬉しそうにアロマを塗ってくれている。確かに肌がつるつるになる、それにいい香りがするから、なんだか心が落ち着くわ。湯あみ後は、そのままベッドに入る。

目を閉じると、嬉しそうな顔で私をエスコートしてくれる殿下の顔がよぎった。どうして殿下の顔が、頭に浮かぶのかしら?

それにどうして私は、貴族たちに私たちが婚約を結ぶことは今の時点ではない!とはっきり言った時、モヤモヤしたのかしら?もしかして私は…て、そんな事はないわ。

ここ数ヶ月、今まで見た事のない殿下の姿を見て来たから動揺しているだけよ。そうよ、きっとそうだわ。

それに私はやはり、あの時にされた事を、そう簡単に忘れる事なんて出来ない。とにかくもう寝よう。ギュッと目を閉じるが、中々寝付けない。

結局その日は、明け方近くまで悶々とした気持ちを抱えたまま夜を過ごしたのだった。
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