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第25話:殿下と話をしました
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ゆっくりと動き出す馬車。
「リリアーナ、今日はすまなかった。まさか君に送ってもらう事になるだなんて…本来なら僕が送っていくべき立場なのに…」
「その様な事は気にしないで下さい。それよりも孤児院で眠られてしまうだなんて、相当お疲れなのではないですか?あなた様は少し頑張りすぎです。万が一あなた様が倒れたら大変ですわ。どうかもう少しお休みください」
お父様の話では、ずっとほとんど眠らずに働いている様だ。顔色も悪いし、随分とやつれている。
「僕は1年もの間、ほとんど公務もこなさずに遊んでいたからね。その分を挽回したいんだ。それに何よりも、マルティや元伯爵の様な一族が二度と現れない様に。そしてリリアーナの様に、何の罪もない人間が追い詰められるようなことがない様に、僕はより一層国の強化に力を入れたいんだ。その為にはやらなければいけない事が、山の様にあるんだよ」
そう言って力なく笑った殿下。
「あなた様の志は立派だと思います。でも…もしも私の為に、そこまで頑張っていらっしゃるのでしたら、どうかお考え直してください。私はあなた様に倒れられてまで、早急に国の強化を進めて欲しいとは思いません。それから…どうかご自分の立ち位置を理解してくださいませ。万が一あなた様にもしものことがあったら、誰が王家を維持していくのですか?」
陛下と王妃様の子供は、アレホ殿下ただ1人だ。さらに陛下も1人子で兄弟はいない。となると、陛下の従兄弟の家から養子を迎え入れる事になるのだろうが、陛下の従兄弟には10人以上の殿方がいるのだ。きっと自分の息子を王にするため、骨肉の争いが起こるだろう。
そうなれば、国は乱れ、治安も悪くなるだろう。最悪、内戦に発展する事もありうるのだ。貴族たちはその事を十分理解している為、殿下が王位を放棄しようとした時に何とか思いど止まる様に説得したのも理由の1つだ。もちろん、殿下が優秀で、次の国王にふさわしいと思ったから、皆が止めたのが最前提ではあるが。
「リリアーナは、僕の体の心配をしてくれているのかい?」
真っすぐ私を見つめ、問いかけてくる殿下。その瞳は酷く不安そうで、今にも泣きそうな顔をしていた。
「私は公爵令嬢として、この国の未来の為にもあなた様に倒れられては困ると考えております。あなた様にもしものことがあったら、この国が混乱する事は目に見えておりますので」
真っすぐ殿下の方を見つめ、はっきりとそう伝えた。
「公爵令嬢としてか…それでも僕の体を心配してくれるのは、嬉しいよ。ありがとう、リリアーナ。分かったよ、これからは少し休む様にするよ」
「殿下、何事も焦りは禁物です。焦ってご自分のお命を削るような事は、なさらないで下さい。それに慢性的な睡眠不足は、脳の働きを妨げ、正しい判断が出来なくなってしまいますわ。マルティ様や元伯爵家の一族の最期を、沢山の人たちが見ているのです。さすがにしばらくは、彼らと同じような事をしでかす人は現れないでしょう」
魅了魔法が解けてから半年以上、ほとんど殿下は眠っていないとお父様に聞いた。お父様や他の貴族、陛下や王妃様がいくら休む様に言っても、全く聞かないと嘆いていたのだ。
「焦りは禁物か…でも僕は、君を傷つけた分、一刻も早く安心して暮らせる国にしたいんだ。それに僕は、自分を痛めつけることで、なんだかリリアーナに対する罪が軽くなる様な気がしていて…」
「それでご自分の体を酷使していたのですか?はっきり言います!そんな事をされても、私は嬉しくも何ともありません!それで倒れたれでもしたら、沢山の方に迷惑をしているのですよ。どうか周りの事もお考え下さい!まずは今日から、ゆっくり休んでください!そして食事もしっかりとってください。いいですね、もう一度いいますよ!私はご自分で罰を与える様な行為を、これっぽっちも望んでいません!逆にその様な事をしていると聞いて、引いてしまったくらいですわ」
私は別に、殿下が自分の体を酷使したからと言って、嬉しくもなんともない。むしろ迷惑なくらいだ。
「すまない。僕の行動が軽率だった。確かにリリアーナの言う通り、僕にもしものことがあったら、この国の平穏な日々も奪われるかもしれない。そこまで頭が回っていなかった。結局僕は、全く周りが見えていなかった様だ。リリアーナ、僕にその事を教えてくれて、ありがとう」
「私は別にお礼を言われる様なことはしておりませんわ。ただ、分かって下さってよかったです。そうそう、これを機に、もう私に関わるのも止めて頂けると…」
「あぁ、もう王宮に着いてしまったね。せっかくだから、一緒に食事をしていかないかい?父上も母上も喜ぶよ」
「いえ…私は…」
「たまにはいいだろう?母上もずっと、リリアーナに会いたいと言っていたのだよ」
ダメだ、この人、全く私の話を聞いていない。さらに私の手を握ったのだ。えっ?
「殿下、この手はどうされたのですか?」
殿下の手をひっくり返してみてみる。すると、血豆があちこちにできていたのだ。さらにあちこちに切り傷の様なものがあり、中には膿が出ているものも。何なの…この痛そうな手は…
「これはその…今まで剣の稽古をサボっていたから、ちょっと無理をしたら出来てしまって…」
「これも私への償いの為ですか?どうかご自分を傷つけるような事は、お止めください!しばらくは剣の稽古もお休みしてくださいね。とりあえず医師に見せましょう」
「いや…大したことは…」
「何が大したことがないのですか?酷い事になっているではありませんか?とにかく手当てが先です。参りましょう」
「リリアーナ、今日はすまなかった。まさか君に送ってもらう事になるだなんて…本来なら僕が送っていくべき立場なのに…」
「その様な事は気にしないで下さい。それよりも孤児院で眠られてしまうだなんて、相当お疲れなのではないですか?あなた様は少し頑張りすぎです。万が一あなた様が倒れたら大変ですわ。どうかもう少しお休みください」
お父様の話では、ずっとほとんど眠らずに働いている様だ。顔色も悪いし、随分とやつれている。
「僕は1年もの間、ほとんど公務もこなさずに遊んでいたからね。その分を挽回したいんだ。それに何よりも、マルティや元伯爵の様な一族が二度と現れない様に。そしてリリアーナの様に、何の罪もない人間が追い詰められるようなことがない様に、僕はより一層国の強化に力を入れたいんだ。その為にはやらなければいけない事が、山の様にあるんだよ」
そう言って力なく笑った殿下。
「あなた様の志は立派だと思います。でも…もしも私の為に、そこまで頑張っていらっしゃるのでしたら、どうかお考え直してください。私はあなた様に倒れられてまで、早急に国の強化を進めて欲しいとは思いません。それから…どうかご自分の立ち位置を理解してくださいませ。万が一あなた様にもしものことがあったら、誰が王家を維持していくのですか?」
陛下と王妃様の子供は、アレホ殿下ただ1人だ。さらに陛下も1人子で兄弟はいない。となると、陛下の従兄弟の家から養子を迎え入れる事になるのだろうが、陛下の従兄弟には10人以上の殿方がいるのだ。きっと自分の息子を王にするため、骨肉の争いが起こるだろう。
そうなれば、国は乱れ、治安も悪くなるだろう。最悪、内戦に発展する事もありうるのだ。貴族たちはその事を十分理解している為、殿下が王位を放棄しようとした時に何とか思いど止まる様に説得したのも理由の1つだ。もちろん、殿下が優秀で、次の国王にふさわしいと思ったから、皆が止めたのが最前提ではあるが。
「リリアーナは、僕の体の心配をしてくれているのかい?」
真っすぐ私を見つめ、問いかけてくる殿下。その瞳は酷く不安そうで、今にも泣きそうな顔をしていた。
「私は公爵令嬢として、この国の未来の為にもあなた様に倒れられては困ると考えております。あなた様にもしものことがあったら、この国が混乱する事は目に見えておりますので」
真っすぐ殿下の方を見つめ、はっきりとそう伝えた。
「公爵令嬢としてか…それでも僕の体を心配してくれるのは、嬉しいよ。ありがとう、リリアーナ。分かったよ、これからは少し休む様にするよ」
「殿下、何事も焦りは禁物です。焦ってご自分のお命を削るような事は、なさらないで下さい。それに慢性的な睡眠不足は、脳の働きを妨げ、正しい判断が出来なくなってしまいますわ。マルティ様や元伯爵家の一族の最期を、沢山の人たちが見ているのです。さすがにしばらくは、彼らと同じような事をしでかす人は現れないでしょう」
魅了魔法が解けてから半年以上、ほとんど殿下は眠っていないとお父様に聞いた。お父様や他の貴族、陛下や王妃様がいくら休む様に言っても、全く聞かないと嘆いていたのだ。
「焦りは禁物か…でも僕は、君を傷つけた分、一刻も早く安心して暮らせる国にしたいんだ。それに僕は、自分を痛めつけることで、なんだかリリアーナに対する罪が軽くなる様な気がしていて…」
「それでご自分の体を酷使していたのですか?はっきり言います!そんな事をされても、私は嬉しくも何ともありません!それで倒れたれでもしたら、沢山の方に迷惑をしているのですよ。どうか周りの事もお考え下さい!まずは今日から、ゆっくり休んでください!そして食事もしっかりとってください。いいですね、もう一度いいますよ!私はご自分で罰を与える様な行為を、これっぽっちも望んでいません!逆にその様な事をしていると聞いて、引いてしまったくらいですわ」
私は別に、殿下が自分の体を酷使したからと言って、嬉しくもなんともない。むしろ迷惑なくらいだ。
「すまない。僕の行動が軽率だった。確かにリリアーナの言う通り、僕にもしものことがあったら、この国の平穏な日々も奪われるかもしれない。そこまで頭が回っていなかった。結局僕は、全く周りが見えていなかった様だ。リリアーナ、僕にその事を教えてくれて、ありがとう」
「私は別にお礼を言われる様なことはしておりませんわ。ただ、分かって下さってよかったです。そうそう、これを機に、もう私に関わるのも止めて頂けると…」
「あぁ、もう王宮に着いてしまったね。せっかくだから、一緒に食事をしていかないかい?父上も母上も喜ぶよ」
「いえ…私は…」
「たまにはいいだろう?母上もずっと、リリアーナに会いたいと言っていたのだよ」
ダメだ、この人、全く私の話を聞いていない。さらに私の手を握ったのだ。えっ?
「殿下、この手はどうされたのですか?」
殿下の手をひっくり返してみてみる。すると、血豆があちこちにできていたのだ。さらにあちこちに切り傷の様なものがあり、中には膿が出ているものも。何なの…この痛そうな手は…
「これはその…今まで剣の稽古をサボっていたから、ちょっと無理をしたら出来てしまって…」
「これも私への償いの為ですか?どうかご自分を傷つけるような事は、お止めください!しばらくは剣の稽古もお休みしてくださいね。とりあえず医師に見せましょう」
「いや…大したことは…」
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