上 下
50 / 75

第50話:やらなければいけない事があります

しおりを挟む
「ディアン、ごめんなさい。私はいつも、自分の事ばかりね。あなたが昔、どんな思いで領地に向かったかも知らずに…私ね、ディアンはセレナ様の事が好きだと思っていたの。本来なら身を引かないといけない事は分かっていたのに、どうしてもできなくて…自分が前に進むために、ディアンに気持ちを伝えようと思っていたの。私はいつも自分の事ばかりで、嫌になるわ。本当にこんな私でいいの?私、自分勝手な女よ?」

「ユーリは自分勝手な女なんかじゃないよ。優しくて可愛くて、僕にとって誰よりも魅力的な女性だ。まさかユーリが、僕とカレテイス伯爵令嬢との仲を勘違いしていただなんて。僕こそ、自分の事ばかり考えていたよ。辛い思いをさせて、ごめんね」

 ディアンが泣きながら、ギュッと抱きしめてくれた。その温もりを感じた瞬間、なぜか私も涙が溢れだす。

「ディアンは悪くはないわ。私が完全に勘違いしてしまったの。ディアン、今まで辛い思いをさせて、本当にごめんなさい。ディアンがどんな気持ちで領地に向かったのか考えたら、申し訳なくて仕方がないわ。辛い思いをさせてしまった分、今度は私が必ずディアンを幸せにするから」

「ユーリ、あの時の事は気にしないでくれ。僕の方こそ、今度こそ僕の手でユーリを幸せにしたい。その権利をもらえただけで、僕は幸せだよ」

 ゆっくりと私から離れたディアンが、先ほど贈ってくれた指輪を手に取った。そして私の指に、指輪をそっと付けてくれた。

「本当に素敵な指輪ね。ディアン、こんな素敵な指輪を準備してくれて、本当にありがとう。セレナ様にもお礼を言わないとね」

 指についている指輪を見つめた。この指輪には、私の瞳の色でもあるサファイアと、ディアンの瞳の色でもあるルビーが付いている。それがなんだか嬉しい。

「ユーリ、改めて僕の気持ちを受け入れてくれて、ありがとう。さすがに今日は断られると思っていたから、両親には何も言っていないけれど、近々うちの両親とユーリの両親に、僕たちの気持ちを伝えよう。いいよね?」

「ええ、もちろんよ。まさかディアンと婚約できるだなんて、思わなかったわ。ただ…」

 私の脳裏に浮かんだのは、アレックス様だ。彼には散々酷い事をされてきたが、最近は随分気遣ってもらった。今回だって、アレックス様のお陰で、ディアンへの気持ちに気づく事が出来た。

 それにアレックス様は、私とディアンにとって、大切な幼馴染だ。やはり自分の口から、アレックス様には伝えたい。

「ユーリ、アレックスの事を気にしているのだね。アレックスは僕たちにとって、大切な幼馴染だ。だからこそ、僕たちの口からその事を伝えないといけないね。今からアレックスに会いに行こう」

「えっ?今から会いに行くのですか?」

「ああ、早く伝えた方がいいからね。明日きっと、カレテイス伯爵令嬢からどうだったか聞かれるだろうし、その指輪を見たら、ユーリが誰かと婚約する事が決まった事が分かるだろう?その前に、僕たちの口からしっかり伝えるべきだと思うんだ」

 確かに指輪を見たら、きっとアレックス様も気が付くだろう。ディアンの言う通り、アレックス様には事前に知らせておいた方がいい。

「分かったわ、それじゃあ、早速使いを送りましょう。それから、友人達にも早く知らせたいから、手紙を書いてもいいかしら?」

 レーナ、カリン、マリアンには今まで散々心配をかけた。さすがに3人の家を今から回る訳にはいかないので、せめて手紙で知らせたいと思ったのだ。彼女たちならきっと、喜んでくれるだろう。

 急いで手紙を書き、彼女たちの家に送るよう手配を整えた。

「ユーリ、そろそろ行こうか」

「ええ、そうね」

 すっと差し出してくれたディアンの手を握った。温かくて大きな手、もう握る事もないと思っていたが、まさかまたこんな風に手を握る事が出来るだなんて。

 そんな思いを抱きながら、2人で馬車に乗り込んだ。

「ユーリ、本当に僕でいいのかい?君はずっとアレックスの事が好きだっただろう?」

 急に不安そうな顔で、ディアンが問いかけて来たのだ。

「確かに昔は、アレックス様の事が好きだったわ。でも…あれほどまでに拒否され、利用され続けてきたのよ。さすがにもう、アレックス様との未来は考えられないわ。それに、私がアレックス様への気持ちを断ち切る事が出来たのは、ディアン、あなたのお陰なの。あなたと過ごすうちに、いつの間にかアレックス様の事を忘れる事が出来たのよ」

 そう、ディアンがいてくれたから、私は前に進むことが出来たのだ。

「ディアン、私はあなたの事が大好きよ。だから、これからもずっと傍にいて下さい」

 真っすぐディアンを見つめ、改めてそう伝えた。

「ユーリ、ありがとう」

 今にも泣きそうな顔のディアンが、ギュッと私を抱きしめた。その温もりが心地いい。このままずっとこうしていたい、そんな事を考えているうちに、馬車が停まったのだ。

 窓の外を見ると、何度もお邪魔したことがある、見慣れがアレックス様のお屋敷が目に飛び込んできた。きっとここに来るのも、今日が最後だろう。

 そう思うと、なんだか寂しい気持ちになった。

「ユーリ、大丈夫かい?もし君がアレックスに会いたくないというのなら、僕が1人でアレックスに会いに行くよ」

 心配そうにディアンが話しかけてきてくれた。確かにアレックス様に会うのは勇気がいる。

 でも、私の口からしっかりアレックス様に気持ちを伝えたい。

「大丈夫よ、行きましょう、ディアン」

 ディアンの手をしっかり握り、馬車を降りたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

たとえこの想いが届かなくても

白雲八鈴
恋愛
 恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。  王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。 *いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。 *主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

振られたあとに優しくされても困ります

菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。

好きな人の好きな人

ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。" 初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。 恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。 そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

処理中です...