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第12話:楽しい時間を過ごしました

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「もう無理…これ以上食べられないわ。ディアンは本当によく食べる様になったわね」

「だから言っただろう?もう僕は、昔の僕じゃないんだよ。ユーリ、大丈夫かい?動けるかい?」

「大丈夫…と言いたいところだけれど、さすがにちょっと苦しいわ…」

 さすがに食べ過ぎてしまった。苦しくて動けない。

「ユーリは相変わらず負けず嫌いだね。どうする?もう部屋に戻るかい?大人たちは、かなり盛り上がっているみたいだけれど…」

 ふとお母様の方を見ると、カスタマーディス伯爵や夫人とお酒を飲みながら、楽しそうに話しをしている。お母様、あんなにお酒を飲んで大丈夫かしら?

「もう少しディアンと話がしたいけれど、さすがに食べ過ぎて苦しいから、今日はもう休むわ」

「それじゃあ、僕が部屋まで送ってあげるよ」

 そう言うと、何を思ったのかディアンが私を抱き上げたのだ。

「ちょっと、ディアン。自分で歩いて部屋に行くわ。重いでしょう?降ろして」

「僕はこの7年で、随分体を鍛えたんだ。領地の騎士団にも入団していたし。ユーリを抱っこするくらい大したことないよ」

 その言葉通り、涼しい顔でスタスタとディアンが歩き出した。あんなにひ弱だったのに、いつの間にこんなに力持ちになったのかしら?よく見たらディアンの体、かなりガッチリしているわ。腕も太くなっているし、胸板も…て、私は何を考えているのかしら?

 でも、ディアンも男性なのね…私を軽々と抱き上げてしまうだなんて…

 なぜだろう、ディアンの腕の中は、なんだか落ち着く。お腹いっぱいになったら、急に眠くなってきたわ…

「…リ、ユーリ、起きて」

「…う…ん」


 ゆっくり目を開けると、目の前にはディアンの顔が。

「きゃっ、ディアン?あら、私…」

「部屋までの移動中に、寝ちゃったんだよ。あの短時間で眠っちゃうだなんて、本当にユーリはすぐに寝ちゃうね。昔もよく、僕の肩を枕にして寝ていたけれど。今度は僕の腕の中で寝ちゃうだなんてね」

 そう言ってクスクスと笑っているディアン。やだわ、恥ずかしい。

「ごめんなさい、最近はそんなにすぐに、どこでも寝なくなったのに。ついうっかりして…」

 あまりにも心地よくて、つい眠ってしまったのだ。

「別に謝らなくていいよ。よく考えたら、ユーリは長旅で疲れているのだものね。今日はゆっくり休んでね。それじゃあ、お休み」

 私をベッドに降ろすと、ディアンが去って行った。ディアン、本当に立派な殿方になったわね…ディアンの後ろ姿を見つめながら、ついそんな事を考えてしまう。

「お嬢様、いくら気心知れた幼馴染ですからって、殿方の腕の中で眠るとは何事ですか?あなた様は令嬢なのですよ。もう少し警戒心を持って下さいませ」

 近くに控えていたメイドに叱られてしまった。確かにそうよね、ディアンも令息なのだ。いくら気心知れた仲だからと言って、あまりみっともない姿を晒すのはいけないだろう。

 でも、なぜかディアンの前だと、素の自分をさらけ出すことが出来るのだ。ディアンといると、安心するというか、落ち着くというか…

「お嬢様、湯あみの準備が出来ておりますので、湯あみを済ませて今日はゆっくりお休みください」

「そうね、そうさせてもらうわ」

 その後は湯あみを済ませ、ベッドに入った。まさかディアンのお家の領地に、1泊お世話になるだなんてね。

 懐かしい幼馴染に会えた喜びから、この日は幸せな気持ちで眠る事が出来た。


 翌日。
 朝いつもの様に目を覚ました私は、着替えを済ませて部屋から出た。

「おはよう、ユーリ。昨日はよく眠れたかい?」

「おはよう、ディアン。ええ、お陰様でぐっすり眠れたわ」

「それはよかった。それじゃあ、一緒に朝食を食べに行こう。食堂はこっちだよ」

 ディアンが食堂までエスコートしてくれる。きっと昨日来たばかりの私が迷子にならない様に、気を使ってくれているのだろう。

 ただ、食堂には誰もいない。お母様たち、まだ寝ているのかしら?昨日かなりお酒を飲んでいたものね。

「ユーリの母上と僕の両親は、朝方までお酒を飲んでいたらしくて、多分しばらくは起きてこないと思うよ。今日は領地に向かう事は、厳しいかもしれないね」

「やっぱりそうだったのね。昨日のお母様、随分とお酒を飲んでいたから。家ではお父様がうるさいから、ほとんどお酒を飲まないのに…本当にお母様ったら」

 いくら友人宅だからって、あんなに沢山お酒を飲むだなんて。

「ディアン、お母様がごめんなさい」

「僕の両親もかなりお酒を飲んでいたから、お互い様だよ。それに、いくつになってもあんな風に仲が良いだなんて、僕はいい事だと思うよ。たまにはいいんじゃないかな」

「ディアンは優しいのね」

 ご両親の事をそんな風に思えるだなんて、ディアンはすごいわ。私なんて、お母様に不満しか抱かなかったもの。自分がなんだか恥ずかしい。
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