上 下
36 / 48

第36話:王都に着きました

しおりを挟む
明日の早朝出掛けるとの事で、その日は早めに就寝した。そして翌日。

「それじゃあ、行ってくる。悪いが留守を頼む」

「かしこまりました」

使用人たちに挨拶をして、旦那様と一緒に馬車に乗り込もうとした時だった。

“レアンヌ、おはよう。どこか行くのかい?”

ものすごいスピードでやって来たのは、リスだ。私の肩にスッと乗った。

「おはよう、久しぶりね。ちょっと王都に行く事になって。すぐに戻ってくる予定だけれどね」

“王都に?あの意地悪な男が僕たちに会わせないために、君を王都に連れて行くのかい?あいつ、僕たちをレアンヌに近づかせないために必死だったんだよ。本当に嫌な男!”

旦那様に向かって、プイっとあちらの方を向くリス。相当ご立腹の様だ。

「旦那様は私がいなくなって、随分と心配してくださったみたいなの。だから、そんな事を言わないで」

リスの頭をなで、そう伝えた。

「レアンヌ、そろそろ行こう。それにしても、本当にどこからでも現れるな。油断も隙も無い。ほら、リス、レアンヌから降りろ」

“何だよお前!相変わらず感じが悪い男だな!それじゃあレアンヌ、気を付けていってらっしゃい。またこっちに戻ってきたら、ミハイル様のところに行こうね。あいつに黙って。それじゃあ”

私の肩から降りると、そのままリスは森の方へ行ってしまった。ミハイル様の元か。また行きたい気持ちもあるが…さすがに無理だろう。

「本当に油断も隙も無いリスだ。さあレアンヌ、他の動物たちが来る前に、早く行こう」

さっきまでリスが乗っていた私の右肩を何度も手ではらっている。もう、旦那様ったら。

旦那様と一緒に馬車に乗り込み、王都を目指す。王都までは、約3日かかる。そう言えばここに来るときも、3日かけて来たのよね。初めて見た外の世界に、随分興奮したものだわ。

「レアンヌ、何を嬉しそうな顔をしているのだい?」

「この街に向かっていた日々の事を思い出していたのです。初めて見る街やレストラン、ホテルに随分興奮していたなって。私は本当に世間を知りませんでしたので」

街に出る事は許されなかったけれど、それでも馬車の窓から色々な街を見る事が出来た。その土地の美味しいお料理も頂いた。私にとっては、楽しい旅だったのだ。

「君がこの街に来た時の話は聞いたよ。王女が泊るにはふさわしくない、安いホテルに泊まらされていたと聞いたが…そうか、レアンヌにとっては、楽しい思い出だったのだな。今回泊まるホテルは、前回とは比べ物にならない程立派なホテルだ。行きはさすがに無理だが、帰りは気になる街を観光しながら帰ろう」

「他の街を観光できるのですか?窓から見ているだけでもとても楽しかったのに、実際見てまわれるだなんて。それは楽しみですわね」

「レアンヌ、私たちは夫婦だ。私は君の喜ぶ顔を見ると嬉しくなる。だから、私には何も遠慮せず、やりたい事があるなら遠慮なく話して欲しい。出来る限り叶えられる様にするから。ただ…あの精霊に会いたいとか、森に行きたいという願いは叶えてやれないが…」

少し恥ずかしそうに旦那様が呟く。

「ありがとうございます。私はずっと1人で生きて参りましたので、旦那様が傍にいて下さるだけで十分幸せですわ。これからもずっと、傍にいて下さいますか?」

この地に来て、初めてお母様以外から与えられた人の温もりや優しさ。その心地よさに、私はすっかり魅了された。これからもずっと、この温もりを感じていたいのだ。もう1人ボッチは嫌だ。

たとえ動物たちが傍にいてくれても、やはり人間の温もりは格別なのだ。だからこそ、これからは本当の夫婦になりたいと、私も思っている。

「もちろんだよ。私の命が尽きるまで、ずっと傍にいるよ。レアンヌ、隣国に移り住んだら、私たちの結婚式を挙げようと考えている。君が私から逃げないためにも、お披露目は必要だろう」

ん?私が旦那様から逃げる?この人は何を言っているのだろう。

「旦那様、私はあなた様から逃げたりしませんわ。先ほども申し上げた通り、ずっと傍におります」

「それならいいのだが…とにかく、今回の就任式が終わったら、早々に隣国へ向かおう。早くあの森から離れないと」

私をギュッと抱きしめ、呟く旦那様。まだ私とミハイル様の事を気にしているのね。本当に私たちは、そんな関係ではないのだけれど…

その後も何度も休憩を挟みつつ、王都を目指す。旦那様が言った通り、行きに泊まったホテルとは比べ物にならない程、立派なホテルだった。

そして3日後。

「レアンヌ、王都の街並みが見えて来た。国王が王宮に泊れとうるさいから、今から王宮に向かわないといけない。レアンヌにとっては、あまりいい思い出のない王宮かもしれないが、明日の就任式が終わったら、すぐに帰る予定だ。だから、今日と明日の2日間だけ、我慢して欲しい。私も極力側にいるし、リサもいるから」

「ありがとうございます。私は大丈夫ですわ。旦那様もリサもいて下さるのですから」

王宮か…
正直あまり行きたくないが、旦那様もリサもいるからきっと大丈夫だろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

処理中です...