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第17話:彼女は私の…~アントニオ視点~

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動物たちを見て、笑っているレアンヌ殿。そんな彼女を見ていたら、母上の事を思い出した。この街に来てからは、よく母上もああやって動物たちと話をしていたな。なぜか沢山の動物が母上の元に集まり、私の元には全く来てくれなくて…

その時の記憶が蘇り、つい母上の話をレアンヌ殿にしてしまった。私は母上が亡くなってから、身内以外に母上の話をしたことはなかった。でも…なぜか彼女になら話してもいいと思ったのだ。

そんな私をじッと見つめるレアンヌ殿、あろう事か私の手を握って来たのだ。柔らかくて温かい感触が、手から伝わる…母上もこんな手をしていたな…


「旦那様はお母様の事が大好きだったのですね。きっと今頃、天国で動物たちに囲まれて、旦那様の事を見れいらっしゃいますわ。知っていますか?夜に出る星たちは、亡くなった者たちの魂だと言われている事を。だから私、辛いときや寂しいとき、お母様に会いたくなった時は、星に話し掛けますの。すると少しだけ、心が落ち着くのです。といっても、今は昼間なので、やってみて下さいとは言えませんが」

そう呟くと、空を見上げ苦笑いしている。星か…星なんて子供の頃以来見ていない。彼女と一緒に夜空を見られてら…そんな思いで一緒に夜空を見たいと伝えようとしたのだが、動物たちに邪魔されてしまった。

そしてレアンヌ殿は、スッと私の手を放すと、そのまま森の奥へと歩き始めた。その瞬間、今までに感じた事のない喪失感が襲ったと同時に、なぜだかもう二度と彼女に会えないのではないか!そんな不安を抱いたのだ。

彼女は元第二王女で、私の元に嫁いできた女性だ。森に昔から住んでいるうえ、人間が嫌いで人間の前には姿を現さないと言われている精霊の訳がない!理屈では理解できても、なぜか心が付いて行かないのだ。

急いで彼女の手を握り、一緒に行く事を伝え森の奥へと向かう。すると、沢山の木の実がなっている場所へとやって来た。

嬉しそうにレアンヌ殿が木の実を取っている。ここでもなぜかリスとマックが喧嘩をしていた。なんとなく動物たちはレアンヌ殿を森で暮らさせたいと考えている様で、それをマックが止めている様に感じた。

さらにリスたち動物と自分だけで森の奥に行きたいと言い出したレアンヌ殿。もちろん、行かせる訳にはいかない。クマがいるから、1人ではいかせられない事を伝えた。

するとリスと何やら話をしている。彼女の口から“精霊”や“人間嫌い”という言葉が飛び出す。

動物たちはレアンヌ殿を精霊に会わせようとしている!彼女ならきっと精霊に好かれるだろう。もし精霊に好かれたら…

もう二度とレアンヌ殿に会えない様な気がする!ダメだ、彼女を精霊に会わせたら!

「レアンヌ殿、そろそろ戻ろう。日が暮れると危ないからね」

とっさにそんな言葉が出ていた。日暮れまで随分時間があるが、これ以上彼女をこの森に置いておきたくはなかったのだ。一刻も早くこの森を出ないと!そんな思いでレアンヌ殿を連れ、馬車のあるところまで戻ってきた。そして、そのまま彼女を馬車に乗せ、マックにまたがった。

馬車にはリサも乗っている、それでもどうしようもない程不安だった。早く屋敷に戻ろう。

マックも同じことを考えているのか、行きと同様、何度も馬車を見つめている。屋敷に着き、急いで馬車に向かうが、なぜかレアンヌ殿は降りてこない。一体どうしたのだ?

心配になり馬車を覗くと、そこには…

イスにもたれかかり、ぐっすりと眠っている彼女の姿が。無防備に眠る姿は、まだあどけなさが残っている。彼女は確か16歳と言っていたな…

「疲れて眠ってしまわれた様です。とても気持ちよさそうに眠られておられますね。でも、この体制は辛いでしょう。すぐに護衛にレアンヌ様を運んでもらいますので、旦那様は屋敷に戻っていてい下さい」

「いいや、私が運ぼう」

彼女を起こさない様に、ゆっくりと抱き上げた。柔らかくて温かい感触が、体中に伝わる。ただ、とても軽い。

王宮ではろくなものを食べさせてもらえていなかったからだろう。可哀そうに…

ギュッと彼女を抱きしめた。本当に無防備な顔をしているな。

「リサ、悪いが毛布を持ってきてくれるか?彼女にかけるから」

「毛布でございますか?かしこまりました」

急いでリサが毛布を取りに行く。その間、彼女を抱きしめながら腰を下ろす。初めてレアンヌ殿を近くで見たが、整った顔をしているな。とても美しい…

彼女にもっと触れたい…そんな思いから、仮面を外し、ゆっくりと彼女の顔に自分の顔を近づけた。

「旦那様、寝ている女性に何をなさろうとしているのですか?」

ハッとして顔を上げると、そこにはあきれ顔のリサの姿が。

「これは…違うんだ。その…」

「旦那様、いくらレアンヌ様がお美しいからって、眠っている女性に口づけをしようだなんて…」

「私はそのような事はしようとしていない!」

「普段絶対に外さない仮面まで外しているではありませんか…本当にアントニオは…」

「叔母上!誤解です。とにかく毛布を貸してください」

つい叔母上を呼んでしまった。時折、主人と使用人から、叔母と甥の関係に戻るときがある。

急いで仮面をつけ、レアンヌ殿をすっぽりと包む様に毛布を掛け、馬車から降りた。そして、足早に彼女の部屋へと向かう。

「旦那様、レアンヌ様の眠っている姿を見せたくないから、私に毛布を取りに行かせたのですね…」

「変な言いがかりはよしてくれ!私はただ、レアンヌ殿の寝顔が晒されたら可哀そうだと思っただけだ!」

「そうですか…ハイハイ…」

そう言って明後日の方向を向いているリサ。全く信用されていない様だ。

部屋に着くと、そのままレアンヌ殿をベッドに寝かせた。そして、近くにあったイスに座る。そう言えばここは客間だったな。彼女は書類上は私の妻だ。このまま客間に置いておく訳にはいかないな…

それにしても、本当に無邪気な顔で眠っているな。

「旦那様、レディの部屋にいつまでいらっしゃるつもりですか?それとも口づけをするチャンスを狙っているのですか?」

「な…何を言っているのだ。私はただ、レアンヌ殿が心配で…それに、いつまでも客間に置いておく訳にはいかないと思っただけだ!」

「そうですわね、いつまでも客間という訳にはいきませんね。それより旦那様、後は私がレアンヌ様を見ますので」

そう言うと、私の背中を押し、さっさと部屋から私を追い出したリサ。そして、ピシャリとドアを閉められた。

クソ、私の事を完全にレアンヌ殿に手を出す危険な男だとみなしたな。

ふと自分の手を見つめる。彼女の手、温かくて柔らかかったな…それに笑顔も可愛かった…て、私は何を考えているのだ。

ただ…
レアンヌ殿は私の妻として我が屋敷にやって来た。たとえ国王の命令だとしても、私たちはれっきとした夫婦なのだ。それならやはり、レアンヌ殿を私の妻として受け入れるべきなのだろう。

彼女は私の妻なのだから…


※次回、レアンヌ視点に戻ります。
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