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第13話:母との思い出~アントニオ視点~
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私の幼少期の名前は、アントニオ・ドリフレィース。ドリフリィース伯爵家の5男として、生を受けた。ただ…私の母親は、元メイドの平民。その上、母は父の妻ではなく愛人だった。
この国では基本的に、一夫一妻制だ。ただ、貴族や王族の中には愛人を囲み、子供を産ませる人間も少なくはない。その為、子供は一応貴族の子供として育てられる権利が与えられていた。
私も、ドリフレィース伯爵家の人間として、伯爵家で生活していた。ただ…愛人でもある母やその子供の私を疎ましく思っている、妻や他の兄弟たちによって、私たちは酷いいじめを受けた。
大好きな母親を守るため、私は7歳で騎士団に入り、誰よりも稽古に励んだ。でも…
「お前、女みたいな顔をしているな。もしかして女なのか?」
そう言って騎士団でもからかわれていた。それでも私は、誰よりも稽古を重ね、誰よりも強くなった。そして9歳の時、私は12歳以下で構成される部隊の隊長になる為の試験を受けた。試験とは、実際に打ち合いを行い、最後まで勝ち残った人間が隊長になれるというシンプルなルールだった。
その試験で私は見事最後まで勝ち残った。でも…
「すまない、アントニオ。お前は見た目がなんと言うか、ひょろっこいというか…そのせいで、他の隊員たちが、お前が隊長なら付いて行かないと言っていてな。悪いが別の人間を、隊長にさせてもらう」
そんな理不尽な事を言われたのだ。誰よりも強いのに、見た目がひょろっこくて女みたいだから、私は隊長になれないのか…こんな理不尽な事があるのか…私はその理不尽さに嫌気がさし、すぐに騎士団を辞めた。
さらに私に不幸が襲い掛かった。それは私が10歳の時だった。
「アントニオ、お前は男のくせに無駄に美しい。その美しさにノックアウトされた侯爵が、ぜひお前を買い取りたいと言っていてな。それでお前は、侯爵に差し出すことにした」
父親でもある伯爵が、あろう事か若い男が好きな侯爵(男)に、私を売り渡そうとしたのだ。私はそこら辺の令殿よりも美しい顔をしているらしい。その為、どうやら侯爵に目を付けられてしまった様だ。
もちろん母上は父上に抗議をした。大切な息子を、侯爵に売るだなんて!そう必死に訴えていた。でも、母上の願いが聞き入れられることはなく、私は侯爵家に売られることが決まったのだ。
「アントニオ、この家を出ましょう。あなたは私の大切な息子よ。あなたをあんな男に絶対に渡さないわ」
そう言って私を抱きしめてくれる母上。そして、夜中に荷物をまとめ、そっと伯爵家を後にした。すぐに汽車に乗り込む。
10歳の私にとって、汽車での大移動は、まさに冒険だった。そして向かった先は、母上の故郷でもある、ファレッスの街だ。そこで2人で新たな生活を始めた。
自然豊かなこの地での生活は、とても楽しかった。伯爵家ではいつも暗い顔をしていた母上だったが、ここに戻って来てからはいつも笑顔だった。母上は近くの食堂で働き始めた。忙しくて帰りが遅いときは、母上の妹でもある、リサ叔母上が私の面倒を見てくれた。毎日が本当に楽しくて幸せで、こんな日々がずっと続けばいいのにと願っていた。
すっかり元気になった母上は、どうやら動物と話が出来る様で、毎日時間を見つけては楽しそうに動物たちと話をしていた。
「アントニオ、動物たちはとても素直で真っすぐなのよ。私、動物たちがとても好きなの。もちろん、あなたが一番大好きだけれどね」
いつもそう言っていた。動物たちと一緒にいるときの溢れんばかりの笑顔の母上を見るのが、私は好きだった。母上がこうやって笑顔でいてくれるなら、それだけで私は幸せだ。そう思っていた。そんな中、私が13歳の時、事件が起きたのだ。
あの日はお店が休みで、母上と一緒に晩御飯を食べていた時の事だった。
「やっと見つけたぞ!アントニオ」
私たちの住む家にやって来たのは、なんと父親だった。何人かの護衛を連れ、部屋に入って来たのだ。
「あなた、どうしてここが!アントニオは絶対に渡しませんわ」
母上が私を背にかばい、父上を睨んでいる。と、次の瞬間。
「キャァァァ」
一瞬何が起こったのか分からなかった。なんと近くにいた護衛が剣を抜き、母上に切りかかったのだ。血しぶきを上げて倒れる母上。急いで母上に駆け寄り、抱き寄せた。
「母上!しっかりしてください。母上!貴様…母上になんて事をするんだ!すぐに病院に…」
「アントニオ…逃げて…あなたは私の大切な息子…どうか逃げて幸せになって…」
そう呟くと、母上はゆっくり瞼を閉じた。そして…
「母上、しっかりしてください!母上」
必死に名前を呼ぶが、母上が目を開ける事はなかった。
「私に逆らって、アントニオを連れて逃げるから悪いんだ。さあ、アントニオ、お前は王都に戻り、侯爵の元に行くんだ!こっちに来い!」
「離せ!よくも母上を!貴様だけは絶対に許さない!」
怒りから父上…いいや、あんな男、父親でも何でもない!あの男に殴りかかった。でも、すぐに護衛騎士に止められた。
「早くアントニオを連れて帰るぞ!」
「離せ!私は絶対に帰らない!母上を殺した、お前を許さない」
必死に叫ぶが、そのまま外に連れ出されてしまった。
この国では基本的に、一夫一妻制だ。ただ、貴族や王族の中には愛人を囲み、子供を産ませる人間も少なくはない。その為、子供は一応貴族の子供として育てられる権利が与えられていた。
私も、ドリフレィース伯爵家の人間として、伯爵家で生活していた。ただ…愛人でもある母やその子供の私を疎ましく思っている、妻や他の兄弟たちによって、私たちは酷いいじめを受けた。
大好きな母親を守るため、私は7歳で騎士団に入り、誰よりも稽古に励んだ。でも…
「お前、女みたいな顔をしているな。もしかして女なのか?」
そう言って騎士団でもからかわれていた。それでも私は、誰よりも稽古を重ね、誰よりも強くなった。そして9歳の時、私は12歳以下で構成される部隊の隊長になる為の試験を受けた。試験とは、実際に打ち合いを行い、最後まで勝ち残った人間が隊長になれるというシンプルなルールだった。
その試験で私は見事最後まで勝ち残った。でも…
「すまない、アントニオ。お前は見た目がなんと言うか、ひょろっこいというか…そのせいで、他の隊員たちが、お前が隊長なら付いて行かないと言っていてな。悪いが別の人間を、隊長にさせてもらう」
そんな理不尽な事を言われたのだ。誰よりも強いのに、見た目がひょろっこくて女みたいだから、私は隊長になれないのか…こんな理不尽な事があるのか…私はその理不尽さに嫌気がさし、すぐに騎士団を辞めた。
さらに私に不幸が襲い掛かった。それは私が10歳の時だった。
「アントニオ、お前は男のくせに無駄に美しい。その美しさにノックアウトされた侯爵が、ぜひお前を買い取りたいと言っていてな。それでお前は、侯爵に差し出すことにした」
父親でもある伯爵が、あろう事か若い男が好きな侯爵(男)に、私を売り渡そうとしたのだ。私はそこら辺の令殿よりも美しい顔をしているらしい。その為、どうやら侯爵に目を付けられてしまった様だ。
もちろん母上は父上に抗議をした。大切な息子を、侯爵に売るだなんて!そう必死に訴えていた。でも、母上の願いが聞き入れられることはなく、私は侯爵家に売られることが決まったのだ。
「アントニオ、この家を出ましょう。あなたは私の大切な息子よ。あなたをあんな男に絶対に渡さないわ」
そう言って私を抱きしめてくれる母上。そして、夜中に荷物をまとめ、そっと伯爵家を後にした。すぐに汽車に乗り込む。
10歳の私にとって、汽車での大移動は、まさに冒険だった。そして向かった先は、母上の故郷でもある、ファレッスの街だ。そこで2人で新たな生活を始めた。
自然豊かなこの地での生活は、とても楽しかった。伯爵家ではいつも暗い顔をしていた母上だったが、ここに戻って来てからはいつも笑顔だった。母上は近くの食堂で働き始めた。忙しくて帰りが遅いときは、母上の妹でもある、リサ叔母上が私の面倒を見てくれた。毎日が本当に楽しくて幸せで、こんな日々がずっと続けばいいのにと願っていた。
すっかり元気になった母上は、どうやら動物と話が出来る様で、毎日時間を見つけては楽しそうに動物たちと話をしていた。
「アントニオ、動物たちはとても素直で真っすぐなのよ。私、動物たちがとても好きなの。もちろん、あなたが一番大好きだけれどね」
いつもそう言っていた。動物たちと一緒にいるときの溢れんばかりの笑顔の母上を見るのが、私は好きだった。母上がこうやって笑顔でいてくれるなら、それだけで私は幸せだ。そう思っていた。そんな中、私が13歳の時、事件が起きたのだ。
あの日はお店が休みで、母上と一緒に晩御飯を食べていた時の事だった。
「やっと見つけたぞ!アントニオ」
私たちの住む家にやって来たのは、なんと父親だった。何人かの護衛を連れ、部屋に入って来たのだ。
「あなた、どうしてここが!アントニオは絶対に渡しませんわ」
母上が私を背にかばい、父上を睨んでいる。と、次の瞬間。
「キャァァァ」
一瞬何が起こったのか分からなかった。なんと近くにいた護衛が剣を抜き、母上に切りかかったのだ。血しぶきを上げて倒れる母上。急いで母上に駆け寄り、抱き寄せた。
「母上!しっかりしてください。母上!貴様…母上になんて事をするんだ!すぐに病院に…」
「アントニオ…逃げて…あなたは私の大切な息子…どうか逃げて幸せになって…」
そう呟くと、母上はゆっくり瞼を閉じた。そして…
「母上、しっかりしてください!母上」
必死に名前を呼ぶが、母上が目を開ける事はなかった。
「私に逆らって、アントニオを連れて逃げるから悪いんだ。さあ、アントニオ、お前は王都に戻り、侯爵の元に行くんだ!こっちに来い!」
「離せ!よくも母上を!貴様だけは絶対に許さない!」
怒りから父上…いいや、あんな男、父親でも何でもない!あの男に殴りかかった。でも、すぐに護衛騎士に止められた。
「早くアントニオを連れて帰るぞ!」
「離せ!私は絶対に帰らない!母上を殺した、お前を許さない」
必死に叫ぶが、そのまま外に連れ出されてしまった。
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