上 下
17 / 20

第17話:サーラが…~エイダン視点~

しおりを挟む
「王太子殿下、大変です。サーラ様のいらっしゃる離宮が…」

深夜、血相を変えた護衛騎士が僕の部屋へとやって来た。

「サーラがいる離宮がどうしたんだ?一体何があった?」

「私にもよく分からないのですが、サーラ様付きの騎士が血相を変えてやって来まして。今医師が向かっております」

「何だって。医師だと!」

きっとサーラの身に何かあったんだ。とにかく急いで離宮に向かわないと!そのままベッドから飛び起き、離宮へと向かう。

「王太子殿下、羽織物を…」

後ろで護衛騎士が叫んでいるが、そんな事どうでもいい。とにかく、サーラの元に向かわないと。医師が向かったという事は、サーラの身に何かあったのか?今日は一段と冷える。もしかして、熱でも出したのか?クソ、こんな事なら、やっぱり今日は本宮に泊まらせるんだった!

とにかく、早く離宮に向かわないと。

凍てつく寒さの中、必死に走った。寒さからか、思う様に足が動かない。こんな時に、僕の足はどうなっているんだ。

それでもなんとか走り、離宮が見えてきた。

「殿下!サーラ様が…」

血相を変えてやって来た護衛騎士。顔や服が汚れている。それに、焼け焦げた臭いもする。

「一体何があったんだ!サーラはどこにいるんだ。それにこの臭い…もしかして、火事か?」

「どうやらサーラ様は寒さから、自分で暖炉に火をつけた様でして…ただうまく換気が出来ていなかった様で、部屋中煙に包まれました。今隣の建屋で、治療を受けております。こちらです。

護衛騎士に連れられ、隣の建屋に向かう。

そこにはぐったりとしたサーラを治療する医師たちと、隣で泣き崩れているサーラの専属メイドの姿が。

「サーラ!」

急いでサーラの元に向かい抱きかかえるが、意識がないのかぐったりしている。顔も真っ青だ…ところどころ、服や顔が汚れている。

どうしてこんな事に…

「殿下、今治療中です。どうかサーラ様から離れて下さい!非常に危険な状態です。とにかく、治療に専念させて下さい」

僕からサーラを引き離すと、再び治療を始めた医師たち。

今非常に危険な状態と言ったよな…
そんな…

目の前が真っ暗になる。もしかしたら僕は、本当の意味でサーラを失うかもしれないのだ。鈍器で殴られたような衝撃が僕を襲う。

「殿下、ここは非常に冷えます。どうか羽織物を…」

僕に羽織物を掛けようとする護衛騎士。そんな護衛騎士を振り払い、サーラに近づく。
そして、そっと手を握った。

その手は、とても冷たかった。

「サーラ、ごめんね。僕があのまま君を返したばかりに…寒かったんだよね…だから、暖炉に火をつけたのだろう?そもそも僕が、君を大切にしていれば…あんな狭くて薄暗い場所で生活する事もなかったのに…サーラ、頼む。僕の事を好きになってくれなくてもいい。ただ君が生きているだけで、僕は幸せなんだ。たとえ一生結ばれなくても…君が生きていてくれたら…だから頼む。目を覚ましてくれ…お願いだ…」

気が付くと、ポロポロと涙が溢れ出ていた。僕の隣で、必死に医師たちが治療を続けている。ふとサーラの顔を見ると、ススで汚れていた。可哀そうに…

僕の寝間着の裾で、汚れを取ってあげた。こうやって見ると、サーラはまだ幼いな。サーラの寝顔、初めて見た…

やっぱり君は、誰よりも綺麗だ…

「サーラ、お願いだ。目を覚まして…」

何度も何度もサーラに話しかける。

その時だった。

握っていた手が、動いた気がした。

「サーラ!サーラ」

何度も名前を呼ぶ。すると、ゆっくりと瞼が上がり、赤い瞳と目が合った。

「エイダン…さま…」

「サーラ、よかった。本当によかった」

そのままサーラを強く抱きしめた。よかった、生きている。サーラ!サーラ!再び溢れ出す涙を、抑える事が出来なかった。

その時だった。

サーラが僕に向かって、ほほ笑んでくれたのだ。その微笑は、今まで見たどんな微笑よりも美しかった。そして、ゆっくりと瞳を閉じたのだ。

「サーラ?どうして瞳を閉じるんだい?頼む、目を開けてくれ」

必死に訴えるが、瞼が持ち上がる事はない。

「サーラ!サーラ、嫌だ。僕を残して逝かないでくれ。頼む!サーラ」

嫌だ!頼む、目を開けてくれ!サーラ!!

「殿下、落ち着いて下さい。きっと薬が効いてきたのでしょう。もう大丈夫ですよ」

「大丈夫という事は、助かったという事か?」

「はい、もちろんです」

にっこり笑った医者。

よかった。でも、それならそれで、もっと早く教えて欲しかった。今ので僕の寿命は、10年は縮まった。

ホッとしたところで、急に寒さが襲って来た。この部屋、めちゃくちゃ寒いな。

「この部屋は寒すぎる。こんなところにサーラを寝かしていくなんて可哀そうだ。今すぐ本宮にあるサーラの部屋に運ぼう」

「それでしたら、私がお運びいたします」

護衛騎士が近づいてきたのだが…

「いいや、僕が運ぶよ。サーラは僕の大切な妻だからね」

毛布でサーラをくるむと、そのまま抱きかかえた。サーラに出来るだけ寒い思いをして欲しくなくて、速足で歩く。

サーラ、君が生きていてくれて本当によかった。もう二度とこんな事が起こらないように、あの離宮は取り壊そう。

でも…もしどうしても離宮で生活したいと訴えたら、その時は…サーラの思う通りにさせてあげよう。僕はサーラが元気に生きていてくれるだけで、幸せなのだから…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】「お迎えに上がりました、お嬢様」

まほりろ
恋愛
私の名前はアリッサ・エーベルト、由緒ある侯爵家の長女で、第一王子の婚約者だ。 ……と言えば聞こえがいいが、家では継母と腹違いの妹にいじめられ、父にはいないものとして扱われ、婚約者には腹違いの妹と浮気された。 挙げ句の果てに妹を虐めていた濡れ衣を着せられ、婚約を破棄され、身分を剥奪され、塔に幽閉され、現在軟禁(なんきん)生活の真っ最中。 私はきっと明日処刑される……。 死を覚悟した私の脳裏に浮かんだのは、幼い頃私に仕えていた執事見習いの男の子の顔だった。 ※「幼馴染が王子様になって迎えに来てくれた」を推敲していたら、全く別の話になってしまいました。 勿体ないので、キャラクターの名前を変えて別作品として投稿します。 本作だけでもお楽しみいただけます。 ※他サイトにも投稿してます。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。

千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。 だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。 いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……? と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。

【完結】旦那は私を愛しているらしいですが、使用人として雇った幼馴染を優先するのは何故ですか?

よどら文鳥
恋愛
「住込で使用人を雇いたいのだが」 旦那の言葉は私のことを思いやっての言葉だと思った。 家事も好きでやってきたことで使用人はいらないと思っていたのだが、受け入れることにした。 「ところで誰を雇いましょうか? 私の実家の使用人を抜粋しますか?」 「いや、実はもう決まっている」 すでに私に相談する前からこの話は決まっていたのだ。 旦那の幼馴染を使用人として雇うことになってしまった。 しかも、旦那の気遣いかと思ったのに、報酬の支払いは全て私。 さらに使用人は家事など全くできないので一から丁寧に教えなければならない。 とんでもない幼馴染が家に住込で働くことになってしまい私のストレスと身体はピンチを迎えていた。 たまらず私は実家に逃げることになったのだが、この行動が私の人生を大きく変えていくのだった。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

死んで巻き戻りましたが、婚約者の王太子が追いかけて来ます。

拓海のり
恋愛
侯爵令嬢のアリゼは夜会の時に血を吐いて死んだ。しかし、朝起きると時間が巻き戻っていた。二度目は自分に冷たかった婚約者の王太子フランソワや、王太子にべったりだった侯爵令嬢ジャニーヌのいない隣国に留学したが──。 一万字ちょいの短編です。他サイトにも投稿しています。 残酷表現がありますのでR15にいたしました。タイトル変更しました。

処理中です...