上 下
62 / 82

第62話:私はどうしてこんなに弱いのでしょう

しおりを挟む
卒業前パーティー当日、今日もいつもの様に青色のドレスを身にまとい、準備を整える。あと2ヶ月もすれば、卒業する。

大丈夫、2ヶ月後にはメアリーとレオナルド様は、ほとんど関りが無くなるはずだ。そうよ、後2ヶ月の辛抱よ。

この2週間…というよりも宿泊研修以降自分の醜い感情を必死に抑えて生活をして来た。どうして私はこんなに醜い感情を抱いているのかしら?もしこんな醜い姿をレオナルド様が知ったら…考えただけで、恐怖で体が震える。

私にとってレオナルド様は、いなくてはならない大切な存在。そんなレオナルド様を失ったら、私はどうやって生きていけばいいの?

「殿下、出来ましたよ。先ほどから浮かない顔をされてどうされたのですか?」

心配そうに話しかけてきたのは、最近私の専属メイドになったリリアだ。まさか入ったばかりのリリアに心配をかけるだなんて…

「何でもないわ。そろそろ行くわね…」

リリアに笑いかけ、そのまま部屋から出て行こうとした。すると…

「殿下…あの…あまり思い詰めないで下さいね。何かあれば、陛下や王妃様、それにレオナルド様に必ずご相談ください!今の殿下を見ていると…かつての王妃様を見ている様で…」

「お母様を?」

「はい、実は私は、かつて侯爵家でシャリーお嬢様の専属メイドをやっておりました。ヴァーズ侯爵と夫人が事故死…いいえ、殺害されてからも、お嬢様のお世話係として、王宮で働く事になったのです。でもお嬢様がこの国を出て行ってしまってからは、ショックでメイドの仕事を休んでおりました。あの時のお嬢様の顔と、今の殿下の顔がなぜか重なってしまって…」

悲しそうに俯くリリア。まさか彼女がお母様の専属メイドだったなんて。

「ありがとう、リリア。でも、本当に大丈夫よ。もし何かあったら、皆に相談するから。決して勝手な行動はしないから、安心して」

極力笑顔を作り、リリアに伝えた。

「そうですか…それならよろしいのですが…」

「それじゃあ、行ってくるわね」

元気よく部屋から出ていく。すると、レオンルド様が待ってくれていた。

「今日のオリビアも本当に美しいよ。さあ、会場に行こうか」

私のおでこに口づけをしたレオナルド様が、そのまま馬車へと誘導してくれた。そして、学院へと向かう。

「オリビア、最近本当に元気がないけれど、大丈夫かい?」

ふいにレオナルド様がそんな事を呟いた。

「レオナルド様ったら、心配性なのだから。本当に何でもないのよ。ほら、卒業がもうすぐ迫っているでしょう。なんだか寂しくって…」

レオナルド様にだけは、私の気持ちに気づいて欲しくない。そんな思いで、必死にそう伝えた。

「…そうか…そうだね。でも、卒業して1ヶ月後には、僕たちの結婚式があるんだよ。だから、そんなにも悲しい顔をしないでくれ。メアリー嬢も君が望むなら、我が家に遊びに来てくれてもいいし」

メアリー…その名前に、反応してしまう。

「…ええ、そうするわ。色々とありがとう」

とにかく、後2ヶ月の辛抱だ。そう自分に言い聞かせて、学院のホールへと向かった。

ホールに着くと、既にたくさんの貴族やその家族が来ている。お父様とお母様、レオナルド様のご両親の姿もある。

「今年は1年生も参加しているから、すごい人だね。とにかく、僕から離れてはいけないよ」

いつもの様に、レオナルド様はそう言うと、私の手をぎゅっと握った。

しばらくすると、パーティースタートだ。話をしている人、料理を食べている人、ダンスを踊っている人、色々な人がいる。

私達も色々な貴族に捕まり、話しに花を咲かせた。

「オリビア、少し疲れただろう。休憩するかい?」

人が去ったところで、レオナルド様が気遣ってくれた。

「私はまだ大丈夫よ。そうだわ、一緒にダンスを踊りましょう」

ホールの真ん中では、楽しそうにダンスを踊っている人たちがいる。

「そうだね、踊ろうか」

嬉しそうに私の手を取ったレオナルド様と一緒に、ホールの真ん中にやって来て、音楽に合わせて踊った。やっぱりレオナルド様は踊りやすいわ。

「オリビアは、相変わらずダンスが上手だね。とても踊りやすいよ」

「あら、レオナルド様のリードが上手いのですわ」

こうやってレオナルド様と踊っていると、心が少し軽くなる。このまま穏やかな気持ちで過ごせたら…そう思いながら、2曲を踊り切った。

すると…

「レオナルド様、私とも踊って頂けますか?」

私達の元にやって来たのは、なんとメアリーだ。どうしてメアリーがレオナルド様にダンスに誘うの?もしかしてメアリーは…そんな余計な事を考えてしまう。

「ごめんね、メアリー嬢。僕はオリビア以外の女性とは、踊らないんだよ」

すかさず断るレオナルド様。

「あら、別にダンスはパートナー意外と踊っても問題はありませんわよ。ねえ、オリビア、私がレオナルド様と踊っても問題ないわよね」

笑顔で私に話しを振って来たメアリー。ここでダメだなんて言ったら、嫉妬深い女と思われてしまう。でも、正直レオナルド様とメアリーが踊るだなんて、絶対にイヤ…どうしよう…

悩んだ末…

「…私は構わないわ。隅で待っているから、踊ってきたらどう?」

気が付くと、そんな言葉が口から出ていた。イヤ…踊らないで…お願い、レオナルド様、断って!心の中で、悲痛な叫びが響きわたる。

「ほら、オリビアもそう言っているし、踊りましょう。それじゃあオリビア、レオナルド様、借りるわね」

「オリビア、必ず僕の見える範囲にいるんだよ。わかったね」

そう言って2人はホールの真ん中に行ってしまった。音楽に合わせて踊る2人。レオナルド様の軽やかなステップに完璧に付いて行くメアリー。時折楽しそうに微笑み合う2人の顔。見たくない、見たくないのに視線をそらすことが出来ない。

いつしか周りも2人に視線を送っている。そして音楽が終わると同時に、大きな拍手が沸き上がった。恥ずかしそうに頭を下げる2人。その姿は、まるで恋人同士の様だった。

私はただただ、幸せそうに微笑む2人を見つめ続ける事しかできなかったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。 カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。 そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。 ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。 意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。 「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」 意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。 そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。 これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。 全10話 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。 ※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

後宮に入りましたが、旦那さんが来ないので恋人を探します

国湖奈津
恋愛
「王家の姫として、嫁いではくれないか?」 王の要請で、政略結婚の道具になることが決まった私は、1度会っただけの相手に嫁ぐことになった。 相手の国は遠く離れた大国で一夫多妻制。 だけど私だけを妻とすると約束してくれた。 ところが嫁いでみると、すでに美女がいて…? 「じゃあ私にも浮気相手を紹介してください!」 「相手に求める条件は?」 「口が堅くて尊敬できる人!」 「了解」 一体どんなお相手が紹介されるのでしょうか。

変装して本を読んでいたら、婚約者さまにナンパされました。髪を染めただけなのに気がつかない浮気男からは、がっつり慰謝料をせしめてやりますわ!

石河 翠
恋愛
完璧な婚約者となかなか仲良くなれないパメラ。機嫌が悪い、怒っていると誤解されがちだが、それもすべて慣れない淑女教育のせい。 ストレス解消のために下町に出かけた彼女は、そこでなぜかいないはずの婚約者に出会い、あまつさえナンパされてしまう。まさか、相手が自分の婚約者だと気づいていない? それならばと、パメラは定期的に婚約者と下町でデートをしてやろうと企む。相手の浮気による有責で婚約を破棄し、がっぽり違約金をもらって独身生活を謳歌するために。 パメラの婚約者はパメラのことを疑うどころか、会うたびに愛をささやいてきて……。 堅苦しいことは苦手な元気いっぱいのヒロインと、ヒロインのことが大好きなちょっと腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(作品ID261939)をお借りしています。

王子様と朝チュンしたら……

梅丸
恋愛
大変! 目が覚めたら隣に見知らぬ男性が! え? でも良く見たら何やらこの国の第三王子に似ている気がするのだが。そう言えば、昨日同僚のメリッサと酒盛り……ではなくて少々のお酒を嗜みながらお話をしていたことを思い出した。でも、途中から記憶がない。実は私はこの世界に転生してきた子爵令嬢である。そして、前世でも同じ間違いを起こしていたのだ。その時にも最初で最後の彼氏と付き合った切っ掛けは朝チュンだったのだ。しかも泥酔しての。学習しない私はそれをまた繰り返してしまったようだ。どうしましょう……この世界では処女信仰が厚いというのに!

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...