上 下
9 / 27

第9話:レティシアとの出会い【前編】~リアム視点~

しおりを挟む
「リアム殿下、大変です。レティシア様の姿がどこにもありません」

「何だって?レシティアが?」

頭を鈍器で殴られた様な衝撃が襲う。一体何が起こっているのだ?状況が理解できない。

「王宮内を今探しているところでございます。とにかく、お気を確かに」

お気を確かにだって…僕の命より大切なレティシアがいなくなったんだぞ。気を確かになんて持てる訳がない!ふとある物を取り出す。古ぼけた小さな人形だ。その人形を強く抱きしめる。レティシア、どうして僕の側から居なくなったんだい?こんなにも君を愛しているのに…


~11年前~
「リアム殿下、どうしてあなたはこんなにも弱いのですか?こんな事では、立派な国王にはなれませんよ」

「ごめんなさい」

「とにかく、もっと練習して下さい。結果が全てなのですから」

そう言うと去って行った教育係。あの頃の僕は、国王と王妃の唯一の子供として、皆の期待に応えようととにかく必死だった。でも、どうしても剣だけは思う様に出来ない。時間を見つけては剣を振るっているけれど、一向に上達しないのだ。

結果が全て…
その言葉が、幼い僕の心に突き刺さる。もっと頑張らないと、もっと。父上や母上、家臣たちに認められる様に…

1人トボトボと剣を握りながら歩く。向かった先は、王宮の裏にある小さな丘だ。この場所は誰も来ないから、ゆっくり練習が出来る。毎日毎日剣を振るっているせいで、僕の手は豆が出来、さらに潰れている。

剣を握るのも痛いが、でも泣き言なんて言っていられない。僕は次期国王になるのだから。そんな思いを胸に丘に向かうと、そこには僕と同じ年くらいの歳の女の子がいたのだ。ピンク色の髪に水色の瞳をした、可愛らしい子だ。クソ、この場所は僕の秘密の場所なのに。どうしてこんなところに女の子がいるんだよ。そもそも、ここは王宮の敷地内だ。どうやって入ったんだよ!

イライラしながらしばらく女の子を見ていると、女の子に向かって犬のジョンが飛び掛かった。危ない!そう思ったのだが、なぜか女の子の頬をペロペロ舐めているジョン。ジョンは人間が嫌いで、僕以外の人間を見ると吠えるのに…

「くすぐったいわ。でも、可愛いわね。あなた、どこから来たの?」

ジョンに向かって話しかける女の子。

「もしかして、これが欲しいの?」

ポケットから取り出したのは、ビスケットだ。嬉しそうに食べるジョン。そんなジョンを女の子が嬉しそうに見つめている。その姿が可愛くて、つい見とれてしまった。そんな僕に気が付いたのはジョンだ。嬉しそうに僕に向かって走って来た。

すると女の子もこちらに向かって歩いて来る。

「こんにちは。あなた、このワンちゃんとお友達なの?」

興味津々で話しかけて来る女の子。

「こいつは僕が飼っているんだ。ジョンって言うんだよ」

「あなたジョンって言うのね。よろしくね。私はレティシア・トンプソンよ。あなたは?」

トンプソン公爵家の令嬢か。なるほど、だからこんなところにいたんだな。僕が王子とわかったら、どんな反応を示すだろう。でも、何となく正体を明かしたくない。そんな思いから

「僕は…リアム」

名前だけ伝えておいた。

「リアム?どこかで聞いた事がある名前ね。まあいいわ、一緒に遊びましょう」

そう言うと、僕の手を引っ張ったレティシア。どうやら僕の正体に気が付いていない様だ。ホッとしたのも束の間

「まあ、あなたの手、傷だらけじゃない。それにしても、リアム様は努力家なのね」

僕の手を見て、なぜかそんな事を言いだしたレティシア。一体この子は何を言っているんだ?僕なんて、周りの期待に応えられないダメ人間なのに…

「レティシアと言ったね。僕をからかっているのかい?どこをどう見たら、僕が努力家だって思うんだい?」

イライラしながら、レティシアに聞いた。すると

「だってこの手、剣を振り続けた事によって出来た傷でしょう?豆が出来るだけでも凄いのに、潰れているわ。昔お父様も、剣が苦手でよく豆が潰れる程練習したのですって。だから豆が潰れている手は、努力家の手なのよって、お母様が言っていたわ」

何だって。この国最強と言われたトンプソン公爵が、昔は剣が苦手だったって?彼は公爵家の嫡男で有りながら武術を極め、18歳で騎士団長にまで上りつめた男だ。そんな男が、剣が苦手だったなんて…

「本当に一生懸命努力しているのね。凄いわ。私なんて、毎日厳しいマナーレッスンが嫌で、しょっちゅう逃げ出しているのよ。今日も午後からのマナーレッスンを受けたくなかったから、お母様に無理を言って王宮に連れて来てもらったの」

そう言ってクスクス笑っているレティシア。

「ねえ、せっかくだから、一緒に遊びましょうよ。ジョンも一緒に。ね、いいでしょう?」

「でも僕は、剣の練習をしないとまた教育係に怒られるから…」

「まあ、こんなにも努力しているあなたを怒る教育係がいるの?なんて酷い人なのかしら?私が一言文句を言ってあげるわ。“あなた、リアム様の手を見た事があるの?努力を認めないなんて、教育係として失格よ”ってね。お母様がいつも言っているわ。一生懸命やって出来ないのは仕方ない、でも一生懸命やらずに出来ないなんて言うのは良くないわってね。だから、あなたの場合は仕方ない事なのよ。私の場合は一生懸命やっていないから、よくない方なんだけれどね…」

そう言うと、気まずそうな顔をしていた。何だろう、この子と話していると、心がスッと軽くなる。結果が全てと言われてきたけれど、でもそうではないのかもしれない。そんな気がして来た。

「分かったよ、レシティア、今日は一緒に遊ぼう」

「そう来なくっちゃ」

その後、2人と1匹で暗くなるまで遊んだ。なぜだろう、彼女といると心が安らぐ。彼女が笑っていると、僕も嬉しい気持ちになる。きっと僕は、レティシアを好きになってしまったんだ。レティシアの太陽の様な明るい笑顔が、僕がずっと抱えていたプレッシャーやコンプレックスを溶かしてくれる。そんな気がした。

夢の様な時間も、あっという間に終わってしまった。そう、もう日が暮れて来たのだ。

「もう日が沈みそうだわ。早く戻らないと、お母様に怒られるわ。リアム様、今日はありがとう。また一緒に遊びましょうね。そうだわ、これ。私の宝物なの。去年亡くなったおばあ様が私の為に作ってくれた人形よ。ミミちゃんって言うの。これ、あなたにあげるわ。それじゃあ、またね」

そう言って走って行くレティシア。ミミちゃんか、可愛いぬいぐるみだな。きっとレティシアをイメージしているのだろう、髪の色も瞳の色も、レティシアにそっくりだ。そう思った瞬間、ぬいぐるみが愛おしくてたまらなくなった。その場でギューッとぬいぐるみを抱きしめたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

婚約破棄イベントが壊れた!

秋月一花
恋愛
 学園の卒業パーティー。たった一人で姿を現した私、カリスタ。会場内はざわつき、私へと一斉に視線が集まる。  ――卒業パーティーで、私は婚約破棄を宣言される。長かった。とっても長かった。ヒロイン、頑張って王子様と一緒に国を持ち上げてね!  ……って思ったら、これ私の知っている婚約破棄イベントじゃない! 「カリスタ、どうして先に行ってしまったんだい?」  おかしい、おかしい。絶対におかしい!  国外追放されて平民として生きるつもりだったのに! このままだと私が王妃になってしまう! どうしてそうなった、ヒロイン王太子狙いだったじゃん! 2021/07/04 カクヨム様にも投稿しました。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

処理中です...