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第7話:何とか準備が整いました

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結局街に出られず、どうする事も出来ないまま1ヶ月が過ぎた。最近特に忙しそうにしているリアム様。ここ1週間、顔を見られない日々が続いている。それでも相変わらず中庭の奥で、楽しそうにミランダ様と会話をしている姿はよく見かける。

そうよね、無理やり結ばされた婚約者よりも、ずっと愛した女性と一緒にいたいわよね。今日も2人の幸せそうな姿を遠くからそっと見つめる。これ以上ここにいても辛いだけだ。こうなったら、強硬手段に出るしかない。

翌日、いつもの様に午前中はレッスンに励んだ。そして午後、少し疲れたから眠る、ゆっくり休みたいから部屋には入ってこないで欲しいと使用人に伝えた。よし、これで部屋には入ってこないわね。

早速以前購入したワンピースに着替えた。そして窓に予め準備しておいたロープをくくり付ける。そう、窓から脱出する事にしたのだ。私の部屋は2階。さらに王宮の裏側という事もあり、窓から出てもバレないのだ。早速ロープを伝い、脱出する。そしてそのまま隠し通路へと向かった。

実は以前リアム様から、万が一敵軍が攻めて来ても安全に逃げられる通路がある事、もしもの時はその通路を通って逃げる事を教えてもらっていたのだ。通路を通ると、簡単に外に出る事が出来た。

とにかく急がないと!万が一私が抜けだした事がバレたら大変だ。急いで街を目指す。30分くらい歩くと、やっと街が見えて来た。なるほど、王宮から街までは30分くらいで行けるのね。

まずは銀行に向かい、公爵家のお金を根こそぎ引き出す。この国では、通帳と証明書さえあれば、お金を引き出す事が出来る。ただ、銀行員たちは貴族たちの顔を覚えているので、別の人物が引き出しに来た場合は、一旦その家に報告する決まりになっている。

幸い私の事を知っていた銀行員のお陰で、あっさりとお金を引き出す事が出来た。

「レティシア様、かなり重いですが大丈夫ですか?王宮まで運びましょうか?」

心配そうに話しかけてくれる銀行員。

「ありがとう、でも、大丈夫よ」

王宮まで運ばれたらバレてしまう。それにしても、お金ってこんなに重いのね…何とかお金を引き出す事に成功したが、それにしても重い。そうだわ!すぐ近くにあったカバン屋で、キャスターが付いたカバンを購入した。これに入れれば、簡単に運べるわ。

次は船の予約をしに行かないと。港までは大型の馬車で30分。初めて乗る大型の馬車。正直物凄く緊張したが、案外簡単に乗れた。そうだわ、馬車の時刻表も確認しておかないと。しっかりメモを取る。

港に着くと、アモーレ王国行きのチケットを購入する為、チケット売り場にやって来た。アモーレ行きの船はあまり多くない様で、1週間に1回だけらしい。幸い今日の夜、出港するとの事。これを逃すと、また1週間後になってしまう。

思い切って今日の夜のチケットを購入した。よし、やらなければいけない事は全て終わった。急いで馬車に乗り込む。どうか皆にバレていませんように!そう願いながら、急いで王宮へと戻って来た。どうやらバレていなかった様だ。でもこの大きなカバン。私の部屋には運べないわね。

仕方ない。一旦隠し通路の出口付近に隠しておく事にした。そして再びロープを伝って、自室に戻って来た。急いでロープを隠し、着替えも済ませた。よし、これで準備は整った。後は今夜、王宮を抜け出し船でこの国を出るだけだ。

ついに今日、国を出る。そう考えたら、瞳からポロポロと涙が溢れ出て来た。大好きなリアム様とも、ついにお別れなのね。そう思ったら、涙が止まらない。そして何より、この国には両親との思い出も詰まっている。そうだわ、最後にお父様とお母様にお別れを言いに行かないと。

一旦部屋に出ると、護衛騎士が待機していた。

「レティシア様、どうかされましたか?」

「両親のお墓に行きたいの」

「かしこまりました。少々お待ちを」

そう言うと、1人の騎士が走ってどこかに行ってしまった。しばらくすると、リアム様を連れて戻って来た。

「レティシア、両親のお墓に行きたいんだって?今ちょっと手が離せなくて。明日では駄目かな?」

明日ではもう私はこの国にいないわ。

「どうしても今から行きたいのです。私1人でも大丈夫ですわ。どうか行かせてください。お願いします」

リアム様に頭を下げた。そんな私を見たリアム様は

「分かったよ、とにかく頭を上げてくれ。悪いがレティシアを両親の墓に連れて行ってやってくれ」

「かしこまりました。それではレティシア様、参りましょう」

とりあえず両親のお墓には行かせてもらえる様だ。よかった。

「リアム様、ありがとうございます。では行って参ります」

「ああ、気を付けて行くんだよ」

そう言うと、すぐにどこかに行ってしまった。よほど忙しいのだろう。でも大丈夫ですよ、リアム様。あなた様の悩みの種であった私は、今日この国を出ますから…最後にリアム様の姿を見られて良かったわ。今まで私に沢山の楽しい思い出をくれたリアム様。本当にありがとうございました。あなた様の幸せを、遠くから祈っておりますわ。そう心の中で呟き、深々と頭を下げた。

「お待たせしてごめんなさい。さあ、向かいましょう」

馬車に乗り込み両親のお墓を目指す。お墓は王都の外れの丘の上にある。しばらく走ると、丘が見えて来た。一旦馬車を下り、お墓まで歩いて登る。途中お花も買った。

そう言えばこの場所に来たのは、両親のお葬式以来だ。お墓にそっと花を添えた。

「お父様、お母様、ずっと来られずにごめんなさい。私は元気よ。だから心配しないでね。愛しているわ」

両親に向かって話しかける。今日この国を出る事、遠くに行ってもいつも両親の事を思っている事、せっかくお父様がお膳立てをしてくれたのに、王妃になれずにごめんなさい。それでも私は、この決断に後悔していない事を心の中で報告した。

きっとお父様とお母様なら、私の決断を支持してくれるだろう。そんな気がした。
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