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第50話:傷はすっかり治りました
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アナリス殿下に崖から突き落とされてから早3ヶ月が過ぎた。この3ヶ月、本当に色々な事があった。残念ながらアナリス殿下が捕まえて来たサンダードラゴンの子供の事がきっかけで、ついに2週間ほど前、魔物たちが街を襲撃したそうだ。
すぐに騎士団員たちが派遣されたと聞いた。幸いカルロス様は派遣されずに済んだ様だ。正直カルロス様には、魔物討伐に何て行って欲しくない。
もう私は、大切な人を亡くしたくはないのだ。でも、今もどこかで騎士団員たちが命を落としているかもしれない。彼らにも彼らの帰りを待つ大切な家族がいるのだろう…そう思うと、胸が張り裂けそうになる。
本当に、アナリス殿下はなんて恐ろしい事をしてくれたのだろう。そんなアナリス殿下だが、先日裁判が開かれ、極刑に処された。お兄様の話では、貴族や平民たちからかなりの暴言を浴びながら、この世を去って行ったらしい。
彼女の浅はかな行動のせいで、沢山の人たちが命の危険に晒されたり、実際に命を失ったりしたのだから、当然の刑だと私は思っている。
今回の件で、陛下がたとえ身内でも厳罰に処すこともじさないと身をもって示したため、一時は失いかけていた王族への信頼も、今は少しずつ回復し始めているらしい。
ただ、アナリス殿下がこの世を去ったからと言って、魔物たちが許してくれる訳でもない。どうか早く魔物たちを制圧できることを祈るまでだ。
ちなみに私の怪我も、すっかり良くなった。昨日先生に足の様子を見てもらい、完全に治っていると言ってもらえたのだ。とはいっても、ずっと歩いていなかったので、今はまずゆっくり歩く練習をしている。
明日からは貴族学院にも通う予定だ。マリーヌやミーリスを始め、私を心配したクラスメイトたちが、お見舞いに来てくれた。早く元気になった姿を皆に見て欲しいのだ。そう思い、今も必死に歩く練習をしている。
「ルミタン、ここにいたのだね」
この声は!
「カルロス様、おかえりなさい。今日は随分と早いのですね。騎士団の稽古はいいのですか?」
「明日からルミタンが学院に通う事になっているだろう?だから今日は騎士団の稽古を早く切り上げてきたのだよ。歩く練習を手伝いたくてね。それにしても、昨日の今日で随分上手に歩けるようになったね」
そう言いながら、私の体を支えてくれるカルロス様。
「はい、意外と歩けるものですね。ただ、まだ走ったりは出来そうにないですわ。それにゆっくりしか歩けませんし…」
「傷が治ったばかりなんだ。焦らなくてもいいよ。さあ、少し休憩しよう」
カルロス様が近くにあったイスに座らせてくれた。
「カルロス様、明日から私、貴族学院に通うでしょう。でも、あまりうまく歩けなくて…前みたいに毎日送り迎えをして下さいますよね?」
「…ああ、もちろんだよ。急にどうしたのだい?」
「いえ…何でもありませんわ…」
ただ、なんだかカルロス様が、魔物討伐部隊に参加するのではないかと、漠然とした不安があるのだ。カルロス様は正義感が人一倍強い、それに貴族学院を卒院したら、騎士団長になる事も決まっているのだ。
次期騎士団長の自分が討伐に行かないなんて…そう考えているのではないかと思っている。
それでもアナリス殿下の事や、私の怪我もあって、とどまってくれていたのでは…全てが解決し、私の怪我が治った今、もしかしたら討伐に行くのではないかという不安が私の心にあるのだ。
ギュッとカルロス様に抱き着いた。温かくて大きな体。私をクマから命がけで守ってくれたカルロス様、あの時本当に生きていてくれてよかったと心底思った。もう二度と、あんな心臓に悪い思いはしたくない。
「ルミタンは甘えん坊だね。俺はルミタンが大好きだよ」
私もカルロス様が大好き…という言葉が、恥ずかしくて言えないので、こっそり心の中で呟く。
「さあ、少し冷えて来たね。そろそろ屋敷に戻ろう」
「はい」
カルロス様と手を繋いで、一緒に屋敷に戻る。私の歩調に合わせて、ゆっくり歩いてくれるところ、本当に優しいわね。
こんな何でもない日々が幸せだわ。どうか…どうかこんな日が、ずっと続きますように。
翌日
カルロス様と一緒に貴族学院に向かう。3ヶ月ぶりの貴族学院、なんだか懐かしい。馬車から降りると、話した事もない様な貴族たちからも声を掛けられた。
「皆君の事を心配していたのだよ。ただ…令息たちには近づいてはいけないよ」
カルロス様にそう言われてしまった。そうか、私と全然仲良くない人たちも、私の事を心配してくれていたのね。なんだかそれが嬉しい。
そしてカルロス様に支えられ、教室に向かう。
教室に入ると
「「「ルミナス(様)!おかえり(なさい)」」」」
クラスの皆が私を笑顔で迎えてくれた。よく見ると、黒板には、“おかえりなさい、ルミナス”と書いてくれてある。
「皆、ありがとう。それから、ただいま」
こんなにも皆が私を温かく迎え入れてくれるだなんて、嬉しくてたまらない。
「よかったね、ルミタン。君の事を大切に思ってくれる友人たちがこんなにいて。でも、令息には近づいてはいけないよ」
私の耳元で、カルロス様が呟く。カルロス様ったら、そればっかりね。そう思ったら、笑いが込みあげてきた。
「カルロス様、後は私達がルミナスを見ますので、安心してください。さあ、ルミナス、こっちよ」
マリーヌが私の手を握り、席まで連れて行ってくれる。他の子たちも、私のカバンを持ってくれたりしている。
「それじゃあ俺は教室に行くよ。皆、ルミタンの事、よろしくお願いします」
そう言うと、少し寂しそうに教室から出て行ったカルロス様。何だろう、この違和感は…
「どうしたの?ルミナス。そんなにカルロス様の後ろ姿を見つめて。そう言えばルミナスをクマから命がけで守って下さったのよね。あなた、本当に愛されているわね」
そう言って笑うマリーヌ。
「もう、すぐに人をからかうのだから」
「ごめんごめん、それよりもルミナス。ノート、バッチリ取っておいてあるわよ」
「ありがとう、さすがマリーヌね」
「お礼はあなたの家のケーキでいいわ。あなたの家の料理長が作るケーキ、美味しいのよね」
うっとりとした顔をするマリーヌ。いつも通りのマリーヌの姿を見たら、なんだか心が温かくなった。
きっと私、3ヶ月間もの間ずっと引きこもっていたから、少しネガティブになっていたのよね。そうよ、そうだわ。
これからはカルロス様と一緒に貴族学院に通い、マリーヌたちと一緒に楽しく過ごす。そんな日々がずっと続くのだろう。
心の奥にある不安を必死に打ち消すように、そう自分に言い聞かせたのだった。
すぐに騎士団員たちが派遣されたと聞いた。幸いカルロス様は派遣されずに済んだ様だ。正直カルロス様には、魔物討伐に何て行って欲しくない。
もう私は、大切な人を亡くしたくはないのだ。でも、今もどこかで騎士団員たちが命を落としているかもしれない。彼らにも彼らの帰りを待つ大切な家族がいるのだろう…そう思うと、胸が張り裂けそうになる。
本当に、アナリス殿下はなんて恐ろしい事をしてくれたのだろう。そんなアナリス殿下だが、先日裁判が開かれ、極刑に処された。お兄様の話では、貴族や平民たちからかなりの暴言を浴びながら、この世を去って行ったらしい。
彼女の浅はかな行動のせいで、沢山の人たちが命の危険に晒されたり、実際に命を失ったりしたのだから、当然の刑だと私は思っている。
今回の件で、陛下がたとえ身内でも厳罰に処すこともじさないと身をもって示したため、一時は失いかけていた王族への信頼も、今は少しずつ回復し始めているらしい。
ただ、アナリス殿下がこの世を去ったからと言って、魔物たちが許してくれる訳でもない。どうか早く魔物たちを制圧できることを祈るまでだ。
ちなみに私の怪我も、すっかり良くなった。昨日先生に足の様子を見てもらい、完全に治っていると言ってもらえたのだ。とはいっても、ずっと歩いていなかったので、今はまずゆっくり歩く練習をしている。
明日からは貴族学院にも通う予定だ。マリーヌやミーリスを始め、私を心配したクラスメイトたちが、お見舞いに来てくれた。早く元気になった姿を皆に見て欲しいのだ。そう思い、今も必死に歩く練習をしている。
「ルミタン、ここにいたのだね」
この声は!
「カルロス様、おかえりなさい。今日は随分と早いのですね。騎士団の稽古はいいのですか?」
「明日からルミタンが学院に通う事になっているだろう?だから今日は騎士団の稽古を早く切り上げてきたのだよ。歩く練習を手伝いたくてね。それにしても、昨日の今日で随分上手に歩けるようになったね」
そう言いながら、私の体を支えてくれるカルロス様。
「はい、意外と歩けるものですね。ただ、まだ走ったりは出来そうにないですわ。それにゆっくりしか歩けませんし…」
「傷が治ったばかりなんだ。焦らなくてもいいよ。さあ、少し休憩しよう」
カルロス様が近くにあったイスに座らせてくれた。
「カルロス様、明日から私、貴族学院に通うでしょう。でも、あまりうまく歩けなくて…前みたいに毎日送り迎えをして下さいますよね?」
「…ああ、もちろんだよ。急にどうしたのだい?」
「いえ…何でもありませんわ…」
ただ、なんだかカルロス様が、魔物討伐部隊に参加するのではないかと、漠然とした不安があるのだ。カルロス様は正義感が人一倍強い、それに貴族学院を卒院したら、騎士団長になる事も決まっているのだ。
次期騎士団長の自分が討伐に行かないなんて…そう考えているのではないかと思っている。
それでもアナリス殿下の事や、私の怪我もあって、とどまってくれていたのでは…全てが解決し、私の怪我が治った今、もしかしたら討伐に行くのではないかという不安が私の心にあるのだ。
ギュッとカルロス様に抱き着いた。温かくて大きな体。私をクマから命がけで守ってくれたカルロス様、あの時本当に生きていてくれてよかったと心底思った。もう二度と、あんな心臓に悪い思いはしたくない。
「ルミタンは甘えん坊だね。俺はルミタンが大好きだよ」
私もカルロス様が大好き…という言葉が、恥ずかしくて言えないので、こっそり心の中で呟く。
「さあ、少し冷えて来たね。そろそろ屋敷に戻ろう」
「はい」
カルロス様と手を繋いで、一緒に屋敷に戻る。私の歩調に合わせて、ゆっくり歩いてくれるところ、本当に優しいわね。
こんな何でもない日々が幸せだわ。どうか…どうかこんな日が、ずっと続きますように。
翌日
カルロス様と一緒に貴族学院に向かう。3ヶ月ぶりの貴族学院、なんだか懐かしい。馬車から降りると、話した事もない様な貴族たちからも声を掛けられた。
「皆君の事を心配していたのだよ。ただ…令息たちには近づいてはいけないよ」
カルロス様にそう言われてしまった。そうか、私と全然仲良くない人たちも、私の事を心配してくれていたのね。なんだかそれが嬉しい。
そしてカルロス様に支えられ、教室に向かう。
教室に入ると
「「「ルミナス(様)!おかえり(なさい)」」」」
クラスの皆が私を笑顔で迎えてくれた。よく見ると、黒板には、“おかえりなさい、ルミナス”と書いてくれてある。
「皆、ありがとう。それから、ただいま」
こんなにも皆が私を温かく迎え入れてくれるだなんて、嬉しくてたまらない。
「よかったね、ルミタン。君の事を大切に思ってくれる友人たちがこんなにいて。でも、令息には近づいてはいけないよ」
私の耳元で、カルロス様が呟く。カルロス様ったら、そればっかりね。そう思ったら、笑いが込みあげてきた。
「カルロス様、後は私達がルミナスを見ますので、安心してください。さあ、ルミナス、こっちよ」
マリーヌが私の手を握り、席まで連れて行ってくれる。他の子たちも、私のカバンを持ってくれたりしている。
「それじゃあ俺は教室に行くよ。皆、ルミタンの事、よろしくお願いします」
そう言うと、少し寂しそうに教室から出て行ったカルロス様。何だろう、この違和感は…
「どうしたの?ルミナス。そんなにカルロス様の後ろ姿を見つめて。そう言えばルミナスをクマから命がけで守って下さったのよね。あなた、本当に愛されているわね」
そう言って笑うマリーヌ。
「もう、すぐに人をからかうのだから」
「ごめんごめん、それよりもルミナス。ノート、バッチリ取っておいてあるわよ」
「ありがとう、さすがマリーヌね」
「お礼はあなたの家のケーキでいいわ。あなたの家の料理長が作るケーキ、美味しいのよね」
うっとりとした顔をするマリーヌ。いつも通りのマリーヌの姿を見たら、なんだか心が温かくなった。
きっと私、3ヶ月間もの間ずっと引きこもっていたから、少しネガティブになっていたのよね。そうよ、そうだわ。
これからはカルロス様と一緒に貴族学院に通い、マリーヌたちと一緒に楽しく過ごす。そんな日々がずっと続くのだろう。
心の奥にある不安を必死に打ち消すように、そう自分に言い聞かせたのだった。
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