上 下
46 / 66

第46話:王太子殿下の決意~カルロス視点~

しおりを挟む
「そんな…王族の危機だなんて。いくら自分の婚約者がアナリスのせいで怪我をしたからって、少し大げさではないのか?」

俺に向かってそう言い放った陛下。この男、どこまでバカなんだ?

「陛下、お言葉ですがカルロスの言う通りです。今貴族界では、今回の話でもちきりです。魔物たちが今回の事件で刺激され、いつ襲ってくるか分からないと、怯える者も大勢おります。さらにルミナス嬢を見舞ったクラスメイトたちが、ルミナス嬢の怪我の酷さを目の当たりにして、アナリス殿下への不満を口にしています。今貴族社会では、完全に王族に対する不信感で溢れております。ここで万が一アナリス殿下を庇うしぐさを見せれば、それこそ王家の危機に発展しかねませんぞ」

父上が強い口調で、陛下に伝えている。

「公爵の言う通りです。父上、僕たち王族は、貴族や民に支えられているのです。そして我々王族は、どんな時でも平等な立場であり続けなければいけません。たとえ身内であっても、悪い事をしたら裁かれるべきなのです。僕だってアナリスは可愛い。だからこそ、アナリスを守れる様に動いていたのに。全てをぶち壊して甘やかしたのは、父上と母上でしょう?」

「だからと言って、私に娘を殺せというのか?そんな残酷な事は出来ない。きっと貴族たちも話せば分かってくれる。だから、どうか頼む」

必死に陛下が頭を下げる。これはダメだな…

「わかりました…カルロスもやっと傷が癒えたところですので、今日のところは失礼いたします」

父上が諦めた様に頭を下げ、部屋から去っていく。俺も父上に続いた。あの国王、もうダメだな。あいつが国王でいる限り、王族たちの未来はないだろう…

「待って下さい、クラッセル公爵、カルロス殿」

後を追って来たのは、王太子殿下だ。

「今回の件、本当に申し訳ないと思っています。僕がなんとか父と母を説得しますので、どうか…」

「王太子殿下、頭を上げて下さい。陛下に何を言っても無駄でしょう。それから、今の陛下のやり方に不満を持っている貴族は多いのですよ。ただ…私たちもあなたには期待しているのです。それがどういう意味か分かりますか?」

父上がニヤリと笑って王太子殿下に語り掛けた。

「それは、父を王の座から引きずりおろすという事ですよね…僕も父が国王ではダメだと考えております。どうか力を貸してください」

そう言って王太子殿下が、父上に頭を下げている。王太子殿下は父親でもある国王を引きずりおろし、自分が王になる事を望んでいるのだろう。そしてアナリス殿下を、法にのっとり裁くつもりだ。そうする事で、王家の力を維持したいのだろう。

「分かりました。既に貴族たちの間では動き出していましてね。陛下の退陣と、王太子殿下の国王就任を求める嘆願書と、それに賛成する者たちの署名を、貴族の3分の2以上から頂いているのです。次の貴族会議で、提出するつもりでおりました」

「さすがクラッセル公爵だ。既にそこまで動いていただなんて」

「私だけの力では無理でしたよ。カリオスティーノ侯爵も随分動いて下さってね。彼は騎士団の世界で一目置かれている人ですし…とにかく、色々な意味で今貴族界は、一致団結している状況ですよ」

ゾクリとするほどの笑みを浮かべる父上。王太子殿下も顔が青ざめている。賢い王太子殿下なら、父上やドリトルが今、この国の貴族界を牛耳り始めていると理解した様だ。

まあ、別に父上やドリトルが、貴族界を牛耳っている訳ではないのだけれどね…

「状況は理解しました。まずは父上を王の座から引きずりおろし、僕が王になる。そののち、アナリスを裁判にかけ、法の下裁くという事でよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんですよ。それでいいよな?カルロス」

「はい、俺はそれで構いません。それでアナリス殿下は、今どう過ごしているのですか?彼女の様子を見たいのですが」

あの女が今どんな生活をしているのか気になったのだ。一瞬大きく目を見開いた王太子殿下だったが、すぐに冷静さを取り戻し

「分かりました、どうぞこちらへ」

そう言って歩き出した。向ったのは予想通り、北の塔だ。護衛たちが数名塔の前に立っている。頑丈な鍵を開け、中に入って行く。

すると

「いつまでこんな狭い部屋に閉じ込められないといけないのよ。早く出しなさいよ!」

威勢のいい声が聞こえてくる。

のぞき窓を覗くと、そこには狭い部屋の中で、1人暴れるアナリス殿下の姿が。

「随分威勢がいいのですね。思ったより質素な生活をしている様ですが」

「はい、父からはメイドを付けるように言われておりますが、何人ものメイドに危害を加えたため、もうメイドを与えてはおりません。そもそもアナリスは犯罪者ですので、私の独断で食事のときと掃除のとき以外は、アナリスの部屋には入らない様に指示を出しております」

「なるほど、見た感じアナリス殿下は全く反省していない様ですが…」

「そうですね…僕が何を言ってもいい訳ばかりで…正直アナリスの扱いには困っております。2人の姉たちにも相談したのですが、“たとえ妹でも情けは掛けるべきではない!”と言われました」

確か第一王女でもあるアリエル様は、ファレスティン公爵家に嫁いでいたな。ファレスティン公爵の弟は、俺と同じ騎士団員だ。あいつの話では、ファレスティン公爵と夫人は今回の件に対して相当怒っている様で、”アナリスに厳罰を”と訴えている人物の1人。

「やはり早急に公開裁判を行い、アナリス殿下を正式に裁く必要がありますな。その為にも、まずは国王をあなた様に移さないと…」

と、その時だった。

「カルロス様、私に会いに来てくださったのですね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...