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第46話:王太子殿下の決意~カルロス視点~
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「そんな…王族の危機だなんて。いくら自分の婚約者がアナリスのせいで怪我をしたからって、少し大げさではないのか?」
俺に向かってそう言い放った陛下。この男、どこまでバカなんだ?
「陛下、お言葉ですがカルロスの言う通りです。今貴族界では、今回の話でもちきりです。魔物たちが今回の事件で刺激され、いつ襲ってくるか分からないと、怯える者も大勢おります。さらにルミナス嬢を見舞ったクラスメイトたちが、ルミナス嬢の怪我の酷さを目の当たりにして、アナリス殿下への不満を口にしています。今貴族社会では、完全に王族に対する不信感で溢れております。ここで万が一アナリス殿下を庇うしぐさを見せれば、それこそ王家の危機に発展しかねませんぞ」
父上が強い口調で、陛下に伝えている。
「公爵の言う通りです。父上、僕たち王族は、貴族や民に支えられているのです。そして我々王族は、どんな時でも平等な立場であり続けなければいけません。たとえ身内であっても、悪い事をしたら裁かれるべきなのです。僕だってアナリスは可愛い。だからこそ、アナリスを守れる様に動いていたのに。全てをぶち壊して甘やかしたのは、父上と母上でしょう?」
「だからと言って、私に娘を殺せというのか?そんな残酷な事は出来ない。きっと貴族たちも話せば分かってくれる。だから、どうか頼む」
必死に陛下が頭を下げる。これはダメだな…
「わかりました…カルロスもやっと傷が癒えたところですので、今日のところは失礼いたします」
父上が諦めた様に頭を下げ、部屋から去っていく。俺も父上に続いた。あの国王、もうダメだな。あいつが国王でいる限り、王族たちの未来はないだろう…
「待って下さい、クラッセル公爵、カルロス殿」
後を追って来たのは、王太子殿下だ。
「今回の件、本当に申し訳ないと思っています。僕がなんとか父と母を説得しますので、どうか…」
「王太子殿下、頭を上げて下さい。陛下に何を言っても無駄でしょう。それから、今の陛下のやり方に不満を持っている貴族は多いのですよ。ただ…私たちもあなたには期待しているのです。それがどういう意味か分かりますか?」
父上がニヤリと笑って王太子殿下に語り掛けた。
「それは、父を王の座から引きずりおろすという事ですよね…僕も父が国王ではダメだと考えております。どうか力を貸してください」
そう言って王太子殿下が、父上に頭を下げている。王太子殿下は父親でもある国王を引きずりおろし、自分が王になる事を望んでいるのだろう。そしてアナリス殿下を、法にのっとり裁くつもりだ。そうする事で、王家の力を維持したいのだろう。
「分かりました。既に貴族たちの間では動き出していましてね。陛下の退陣と、王太子殿下の国王就任を求める嘆願書と、それに賛成する者たちの署名を、貴族の3分の2以上から頂いているのです。次の貴族会議で、提出するつもりでおりました」
「さすがクラッセル公爵だ。既にそこまで動いていただなんて」
「私だけの力では無理でしたよ。カリオスティーノ侯爵も随分動いて下さってね。彼は騎士団の世界で一目置かれている人ですし…とにかく、色々な意味で今貴族界は、一致団結している状況ですよ」
ゾクリとするほどの笑みを浮かべる父上。王太子殿下も顔が青ざめている。賢い王太子殿下なら、父上やドリトルが今、この国の貴族界を牛耳り始めていると理解した様だ。
まあ、別に父上やドリトルが、貴族界を牛耳っている訳ではないのだけれどね…
「状況は理解しました。まずは父上を王の座から引きずりおろし、僕が王になる。そののち、アナリスを裁判にかけ、法の下裁くという事でよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。それでいいよな?カルロス」
「はい、俺はそれで構いません。それでアナリス殿下は、今どう過ごしているのですか?彼女の様子を見たいのですが」
あの女が今どんな生活をしているのか気になったのだ。一瞬大きく目を見開いた王太子殿下だったが、すぐに冷静さを取り戻し
「分かりました、どうぞこちらへ」
そう言って歩き出した。向ったのは予想通り、北の塔だ。護衛たちが数名塔の前に立っている。頑丈な鍵を開け、中に入って行く。
すると
「いつまでこんな狭い部屋に閉じ込められないといけないのよ。早く出しなさいよ!」
威勢のいい声が聞こえてくる。
のぞき窓を覗くと、そこには狭い部屋の中で、1人暴れるアナリス殿下の姿が。
「随分威勢がいいのですね。思ったより質素な生活をしている様ですが」
「はい、父からはメイドを付けるように言われておりますが、何人ものメイドに危害を加えたため、もうメイドを与えてはおりません。そもそもアナリスは犯罪者ですので、私の独断で食事のときと掃除のとき以外は、アナリスの部屋には入らない様に指示を出しております」
「なるほど、見た感じアナリス殿下は全く反省していない様ですが…」
「そうですね…僕が何を言ってもいい訳ばかりで…正直アナリスの扱いには困っております。2人の姉たちにも相談したのですが、“たとえ妹でも情けは掛けるべきではない!”と言われました」
確か第一王女でもあるアリエル様は、ファレスティン公爵家に嫁いでいたな。ファレスティン公爵の弟は、俺と同じ騎士団員だ。あいつの話では、ファレスティン公爵と夫人は今回の件に対して相当怒っている様で、”アナリスに厳罰を”と訴えている人物の1人。
「やはり早急に公開裁判を行い、アナリス殿下を正式に裁く必要がありますな。その為にも、まずは国王をあなた様に移さないと…」
と、その時だった。
「カルロス様、私に会いに来てくださったのですね」
俺に向かってそう言い放った陛下。この男、どこまでバカなんだ?
「陛下、お言葉ですがカルロスの言う通りです。今貴族界では、今回の話でもちきりです。魔物たちが今回の事件で刺激され、いつ襲ってくるか分からないと、怯える者も大勢おります。さらにルミナス嬢を見舞ったクラスメイトたちが、ルミナス嬢の怪我の酷さを目の当たりにして、アナリス殿下への不満を口にしています。今貴族社会では、完全に王族に対する不信感で溢れております。ここで万が一アナリス殿下を庇うしぐさを見せれば、それこそ王家の危機に発展しかねませんぞ」
父上が強い口調で、陛下に伝えている。
「公爵の言う通りです。父上、僕たち王族は、貴族や民に支えられているのです。そして我々王族は、どんな時でも平等な立場であり続けなければいけません。たとえ身内であっても、悪い事をしたら裁かれるべきなのです。僕だってアナリスは可愛い。だからこそ、アナリスを守れる様に動いていたのに。全てをぶち壊して甘やかしたのは、父上と母上でしょう?」
「だからと言って、私に娘を殺せというのか?そんな残酷な事は出来ない。きっと貴族たちも話せば分かってくれる。だから、どうか頼む」
必死に陛下が頭を下げる。これはダメだな…
「わかりました…カルロスもやっと傷が癒えたところですので、今日のところは失礼いたします」
父上が諦めた様に頭を下げ、部屋から去っていく。俺も父上に続いた。あの国王、もうダメだな。あいつが国王でいる限り、王族たちの未来はないだろう…
「待って下さい、クラッセル公爵、カルロス殿」
後を追って来たのは、王太子殿下だ。
「今回の件、本当に申し訳ないと思っています。僕がなんとか父と母を説得しますので、どうか…」
「王太子殿下、頭を上げて下さい。陛下に何を言っても無駄でしょう。それから、今の陛下のやり方に不満を持っている貴族は多いのですよ。ただ…私たちもあなたには期待しているのです。それがどういう意味か分かりますか?」
父上がニヤリと笑って王太子殿下に語り掛けた。
「それは、父を王の座から引きずりおろすという事ですよね…僕も父が国王ではダメだと考えております。どうか力を貸してください」
そう言って王太子殿下が、父上に頭を下げている。王太子殿下は父親でもある国王を引きずりおろし、自分が王になる事を望んでいるのだろう。そしてアナリス殿下を、法にのっとり裁くつもりだ。そうする事で、王家の力を維持したいのだろう。
「分かりました。既に貴族たちの間では動き出していましてね。陛下の退陣と、王太子殿下の国王就任を求める嘆願書と、それに賛成する者たちの署名を、貴族の3分の2以上から頂いているのです。次の貴族会議で、提出するつもりでおりました」
「さすがクラッセル公爵だ。既にそこまで動いていただなんて」
「私だけの力では無理でしたよ。カリオスティーノ侯爵も随分動いて下さってね。彼は騎士団の世界で一目置かれている人ですし…とにかく、色々な意味で今貴族界は、一致団結している状況ですよ」
ゾクリとするほどの笑みを浮かべる父上。王太子殿下も顔が青ざめている。賢い王太子殿下なら、父上やドリトルが今、この国の貴族界を牛耳り始めていると理解した様だ。
まあ、別に父上やドリトルが、貴族界を牛耳っている訳ではないのだけれどね…
「状況は理解しました。まずは父上を王の座から引きずりおろし、僕が王になる。そののち、アナリスを裁判にかけ、法の下裁くという事でよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。それでいいよな?カルロス」
「はい、俺はそれで構いません。それでアナリス殿下は、今どう過ごしているのですか?彼女の様子を見たいのですが」
あの女が今どんな生活をしているのか気になったのだ。一瞬大きく目を見開いた王太子殿下だったが、すぐに冷静さを取り戻し
「分かりました、どうぞこちらへ」
そう言って歩き出した。向ったのは予想通り、北の塔だ。護衛たちが数名塔の前に立っている。頑丈な鍵を開け、中に入って行く。
すると
「いつまでこんな狭い部屋に閉じ込められないといけないのよ。早く出しなさいよ!」
威勢のいい声が聞こえてくる。
のぞき窓を覗くと、そこには狭い部屋の中で、1人暴れるアナリス殿下の姿が。
「随分威勢がいいのですね。思ったより質素な生活をしている様ですが」
「はい、父からはメイドを付けるように言われておりますが、何人ものメイドに危害を加えたため、もうメイドを与えてはおりません。そもそもアナリスは犯罪者ですので、私の独断で食事のときと掃除のとき以外は、アナリスの部屋には入らない様に指示を出しております」
「なるほど、見た感じアナリス殿下は全く反省していない様ですが…」
「そうですね…僕が何を言ってもいい訳ばかりで…正直アナリスの扱いには困っております。2人の姉たちにも相談したのですが、“たとえ妹でも情けは掛けるべきではない!”と言われました」
確か第一王女でもあるアリエル様は、ファレスティン公爵家に嫁いでいたな。ファレスティン公爵の弟は、俺と同じ騎士団員だ。あいつの話では、ファレスティン公爵と夫人は今回の件に対して相当怒っている様で、”アナリスに厳罰を”と訴えている人物の1人。
「やはり早急に公開裁判を行い、アナリス殿下を正式に裁く必要がありますな。その為にも、まずは国王をあなた様に移さないと…」
と、その時だった。
「カルロス様、私に会いに来てくださったのですね」
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