上 下
24 / 66

第24話:王太子は少しは仕事が出来る様だ~カルロス視点~

しおりを挟む
翌朝、暇そうにしているスパイどもを一気に縛り上げた後、王宮へと向かった。

「まさかカルロスにスパイを付けていただなんて。本当にアナリス殿下は…」

父上が頭を抱えている。

「アナリス殿下は相変わらず詰めが甘いのですよ。あんなにも分かりやすいスパイを付けるなんて。あの程度のスパイなら、騎士団の経験が1年以上ある人間なら、簡単に見破れます」

「アナリス殿下は、あまり騎士団について詳しくないからな。お美しくて頭も悪くない方なのに…本当にどこで道を間違えられたのか…」

「黙っていれば美しい王女様なのだから、大人しくしていればいいのに…本当に、誰に似たのだか…」

母上までもため息を付いている。王太子殿下や彼女の姉君たちは皆まともだ。確かに誰に似たのだろう。

「カルロス、今回は王太子殿下にも一緒に話し合いに参加してもらおうと思っている。陛下はどうもアナリス殿下に甘いからな。王太子殿下の方が、話がスムーズに進むだろう」

確かに娘に甘い陛下よりも、王太子殿下の方がまだましだろう。そう思い、王宮へと向かう。すると

「カルロス殿、アナリスが申し訳なかった。“絶対にカルロス様には近づかないしご迷惑を掛けない”と言うから、学院に編入する事を許したのだが」

俺の顔を見るなり、申し訳なさそうに謝罪する陛下。

「もう二度との私に近づさせないという話で、あの時不問にしましたよね?それなのに、昨日はずっとベッタリだったうえ、私の大切な婚約者、ルミタ…ルミナスに激しく嫉妬し、怪我までさせたのですよ。騎士団でも迷惑を掛けるし、私にスパイまで付けて。そうそう、殿下が私に付けたスパイは、お返ししますね」

「昨日騎士団長からも激しく抗議をされたよ。たとえ王女であっても、今後一切騎士団の敷居は跨がせない!と言われてね。ルミナス嬢にまで怪我をさせただなんて。それで、ルミナス嬢の怪我の具合はどうなんだ?」

「怪我自体は大したことはありません。ただ、一歩間違えれば大けがを負っていたでしょう。とにかく、これ以上アナリス殿下が何かをするようでしたら、さすがに黙ってはいられません!私を誘拐しようとした事も、今から問題にしてもいいのですよ!証拠はそろっているのですから」

強い口調で王族に迫る。その時だった。

「カルロス様、見つけましたわ」

ノックもせずにズカズカと入って来るのは、アナリス殿下だ。

「アナリス、貴族学院に行ったのではないのかい?」

「ええ、行きましたわ。でも、カルロス様がいなかったので、急いでカルロス様の家に行きましたの。そうしたら、王宮にいると使用人が教えてくれて。それにしても、私が付けたスパイは一体どうしたのかしら?通信機をいくら鳴らしても繋がらないし。本当に役に立たない人たちで嫌になりますわ」

「スパイたちなら、俺が捕まえましたよ。通信機とはこれですか?」

スパイたちから巻き上げた通信機を、目の前に出してやった。

「そうです、これですわ。まさかカルロス様が持っているだなんて知りませんでしたわ」

「アナリス、お前は何を考えているのだ。公爵令息でもあるカルロス殿にスパイを付けるだなんて!それに、二度とカルロス殿には近づくなと言っただろう」

陛下が顔を真っ赤にして怒っている。

「あら、そんな約束しましたかしら?そうそう、お父様、カルロス様とルミナス様の婚約を破棄する様頼んでください。私、やっぱりカルロス様と結婚がしたいのです」

この女、一体何を言っているのだ。ふざけているのか?体中から怒りが沸き上がる。

「そんな事、出来る訳がないだろう。とにかくもう、カルロス殿の事は諦めなさい」

「嫌よ、私は王女なのよ。それよりもカルロス様、せっかく王宮にいらしたなら、一緒にお茶をしましょう。さあ、行きましょう」

全く話を聞かないアナリス殿下。そもそも陛下が甘すぎるんだ。さすがに俺の怒りが最高潮に達しようとした時だった。

「いい加減にしろ!アナリス」

声を荒げたのは、今まで沈黙を守っていた王太子殿下だ。

「君は一体何を考えているのだ!カルロス殿は既に、ルミナス嬢と婚約を結んでいるのだよ。それなのに、2人を引き裂こうとするだなんて。そんな事、王族がしていい訳がないだろう。カルロス殿、本当に申し訳なかった。アナリスにはもう二度と貴族学院へは行かせないから」

そう言って俺に頭を下げる王太子殿下。

「ちょっとお兄様、貴族や王族は貴族学院に通う義務があるのですよ」

「それは15歳~18歳になる歳の貴族や王族たちの話だ。アナリスは今年19歳になる年齢で、本来なら貴族学院を卒院しているため、貴族学院に通う権利はない。それなのに、父上が学院に頼み込んで入れてもらったそうだね。そもそも王族がそんな我が儘を言うだなんて、親子そろって恥ずかしくないのかい?権力の乱用を王族自ら行うなんて、僕は恥ずかしくて顔から火が出そうだ」

王太子殿下の言葉に、陛下が俯いている。

「父上自ら権力を乱用するのだったら、即刻国王の座を僕に移す様手配を進めさせてもらってもいいのですよ!とにかく、アナリスを甘やかすような事はもうやめてくれ。アナリス、君には隣国の王太子殿下の元に嫁いでもらう事にするよ。相手方はまだ君の事を諦めていない様だからね」

「そんな…イヤよ。あんな男の元に、私は嫁ぎたくはないわ」

「そうだ、いくら何でも、アナリスを好きでもない男の元に嫁がせるだなんて…」

「王族は好き嫌いで嫁ぐものではない!実際姉上たちだって、父上が決めた相手に嫁いだではないか?とにかく、これ以上アナリスの自由にはさせないから!しばらくアナリスが暴走しない様に、部屋に閉じ込めておけ」

「お兄様、酷いわ。私はただ、カルロス様の傍にいたいだけなのに…」

泣きながら連れて行かれるアナリス殿下。

さすが王太子殿下だ、情に流されず妥当な判断をしてくれた。これでやっと、ルミタンと今まで通り過ごせる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。

櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。 ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。 気付けば豪華な広間。 着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。 どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。 え?この状況って、シュール過ぎない? 戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。 現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。 そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!? 実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。 完結しました。

義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます

富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。 5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。 15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。 初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。 よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!

冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~

平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。 ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。 ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。 保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。 周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。 そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。 そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。

転生した女性騎士は隣国の王太子に愛される!?

恋愛
仕事帰りの夜道で交通事故で死亡。転生先で家族に愛されながらも武術を極めながら育って行った。ある日突然の出会いから隣国の王太子に見染められ、溺愛されることに……

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...