上 下
28 / 51

第28話:マリアナのリュカ様は仲が悪いです

しおりを挟む
お昼休み。
いつもの様に、マリアナと一緒にテラスに行こうとした時だった。

「ジュリア、今日は僕と一緒に食べよう。マリアナ嬢、兄上が教室の外で待っているよ。早く行った方がいい」

「あら?今日は生徒会の集まりがあると言っていたけれど…ちょっと確認してくるわ。ジュリア、待っていて」

そう言って教室の外に出て行ったマリアナ。

「今のうちだ。さあ、行こう」

私の手を取り、走り出したリュカ様。

「リュカ様、マリアナは…」

「嫉妬深い兄上の事だ。そのままマリアナ嬢を連れていくだろう。せっかく僕たちは婚約をしたんだ。今日は2人でゆっくり食べよう」

確かに王太子殿下ならきっと、マリアナを離さないだろう。リュカ様のいう事に納得し、そのまま2人でお弁当を食べる事になった。

今日の私のお弁当も、もちろん日本食がたっぷり入っている。今日は鮭のおにぎりと、卵焼き、生姜焼きに煮物、さらにお新香だ。お味噌汁も持ってきている。

「ジュリアのお弁当、とても美味しそうだね。これも君が考えたのかい?」

「はい、もしよろしければ、リュカ様もどうぞ」

この前私の料理を絶賛してくれたリュカ様に、せっかくなら食べてもらいたい。そう思い、お弁当を進める。

「いいのかい?嬉しいな。早速頂くよ」

嬉しそうにおにぎりを頬張っている。

「これ、冷めているのにとても美味しいね。このお肉とおにぎりが、よく合う。お味噌汁も相変わらず美味しいし。この黄色いの、甘くていける。ジュリアは本当に天才だ。こんなおいしい料理が作れるなんて」

私のお弁当を大絶賛され、つい頬がゆるむ。

「そんなに喜んでいただけるのでしたら、明日も作って来ますわ」

「本当かい?それは嬉しいな。こんなおいしい料理が明日も食べられるなんて」

リュカ様が私のお弁当を食べてしまったので、私は王宮のお弁当を頂いた。うん、こっちもとても美味しいわ。

その後、私が持ってきたデザートの、あんこの入ったお饅頭を食べている時だった。

「ジュリア、こんなところにいたのね。随分探したのよ。もう、待っていてと言ったでしょう!」

やって来たのは、マリアナだ。後ろには王太子殿下もいる。

「ごめんね。きっとマリアナは王太子殿下と一緒に食事をすると思ったから…」

「どうせリュカ殿下が連れ出したのでしょう?て、それ。お饅頭じゃない!どうしてリュカ殿下が食べているのですか。そのお饅頭は、私のなのに!」

そういえば今日のお饅頭は、マリアナからのリクエストを受けて作って来たのだった。

「マリアナ、大丈夫よ。まだお饅頭は残っているから」

「そういう問題じゃないのよ。もしかして、お弁当もリュカ殿下が食べてしまったの?今日は生姜焼きを作って来るって言っていたから、楽しみにしていたのに」

「ああ、僕が美味しく頂いたよ。そもそも、どうしてマリアナ嬢がジュリアのお弁当を当てにしているんだい?いくら親友だからって、少し図々しいんじゃないか?」

「ちょっと、誰が図々しいですって!私とジュリアは親友なのですよ。それにジュリアは私の為に作ってきてくれたのに。それをバクバク食べるあなたの方が図々しいのではなくって。ねえ、リューゴ様」

珍しく空気になっていた王太子殿下に話しを振ったマリアナ。

「えっ?僕?えっと…マリアナもリュカも図々しくはないよ。そもそもスリーティス嬢がたくさん作ってこない方が問題だ。大体、訳のわからない料理を僕の可愛いマリアナや王族のリュカに食べさせるなんて、どういう了見だ。変なものでも入っているのではないのか?」

なぜか私に文句を言う王太子殿下。さすがに言いがかりだろう…他の2人も同じことを思ったのか

「リューゴ様、ジュリアは全く悪くありませんわ。そもそも、ジュリアの料理は世界一美味しいのです。それをけなすのはお止めください」

「マリアナ嬢の言う通りですよ、兄上!そもそもジュリアを呼び出して、文句まで言ったそうじゃないですか?ジュリアに付きまとっているのは、マリアナ嬢の方です。文句ならマリアナ嬢に言うのが筋でしょう。それから、ジュリアは僕の大切な婚約者なのです。今後ジュリアに暴言を吐くようなら、僕が許しませんからね」

すぐさま王太子殿下に抗議をしている。

「ぼ…僕はそんなつもりじゃなかったんだ。とにかく、2人とも落ち着いてくれ」

珍しくアタフタしている王太子殿下。なにこのおかしな光景は…

「とにかくジュリアは私の親友なのです。その事はお忘れなく。さあ、ジュリア。お弁当はリュカ殿下が食べてしまった様だから、お饅頭を頂くわ」

すかさず私の隣に座ると、リュカ様をギロリと睨んだマリアナ。リュカ様も、マリアナを睨んでいる。そんなマリアナの横に、遠慮しがちに座るのは王太子殿下だ。

「リューゴ様、ジュリアの作ったお饅頭、とても美味しいのですよ。さあ、あなた様もお一つどうぞ。リュカ殿下も、食べてもよろしくてよ」

「なんでジュリアが作ったお饅頭を食べるのに、君が許可を出しているんだ。このお饅頭は、ジュリアのものだぞ」

「あら、ジュリアは私の為に作ってきてくれたのだから、私の物でしょう。それをリュカ殿下にも差し上げると言っているのです。それなのに、文句を言うなんて」

再び喧嘩が始まった。

「いい加減にしないか!とにかく、この饅頭と呼ばれるものは、スリーティス嬢が作ったのだろう?それなら、スリーティス嬢に許可を得て食べるのが普通だろう。スリーティス嬢、僕も一つ貰ってもいいだろうか?」

「はい、もちろんです」

我に返った王太子殿下が、珍しくまともな事を言っている。そういえばこの人、マリアナの事以外では、非常に優秀で冷静に物事を判断できるって、お兄様が言っていた。

そんな王太子殿下が、早速お饅頭を一口。

「外はしっとりした生地に、中はあまい粒粒が入っているんだね。おせんべいも美味しかったが、これも美味しいな…」

どうやら王太子殿下も、おせんべいを食べていた様だ。さっき訳の分からない料理とか言っていなかったかしら?

「そうでしょう、リューゴ様。ジュリアの作るお料理は、本当に美味しいのです。このお饅頭も美味しいわ。ねえ、ジュリア、今度はこしあんで作って欲しいわ」

こしあんか…確かに滑らかな舌触りのあんこも美味しいわよね。

「おい、マリアナ嬢。ジュリアを何だと思っているんだい?次から次へとリクエストして。そんなに食べたいなら、自分で作ってみたらいいじゃないか」

「私は料理が出来ないのです。そもそもジュリアは、こういったお料理を作るのが好きなのだから、別にいいでしょう。本当に、ケチな男は嫌ですわ」

「人聞きの悪い事を言わないでくれ!僕はジュリアが君にこき使われている事を心配しているんだ」

「誰がこき使っているですって!」

再び喧嘩が始まった。この2人、かなり仲が悪い様だ。さすがの王太子殿下も、頭を抱えてしまった。

「あの、2人とも落ち着いて下さい。リュカ様、私を気遣ってくださり、ありがとうございます。でも、私は料理が好きなので大丈夫ですわ。そうだ、リュカ様も何かリクエストがあれば、作りますよ」

「リクエストか…それなら、果物を使ったお菓子が食べたいな。実は僕、果物が好きなんだ」

果物か…そうだわ!

「分かりました、それでしたら、イチゴ大福を作って来ますわ。みずみずしいイチゴを柔らかいお餅と白あんで包んだ大福です」

「まあ、イチゴ大福ですって。私も大好きなの。楽しみだわ」

なぜかマリアナが嬉しそうに笑った。それが気に入らないリュカ様が、マリアナを睨んでいる。

「それじゃあ、イチゴ大福と言う奴を、今度は作って来てくれ。リュカもマリアナも、それでいいな?」

「「はい、もちろんです(わ)」」

最後は何だかんだで息があった2人。私を目の敵にしていた王太子殿下も、今日の出来事がきっかけで、少し柔軟になった気がする。ただ…

まだ睨み合っているマリアナとリュカ様を見て、複雑な感情を抱くのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」  わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。  ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。  なんということでしょう。  このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。  せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。 ◇8000字程度の短編です ◇小説家になろうでも公開予定です

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

処理中です...