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第20話:頭が混乱しています

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「カロリーナ、実はとても素敵な場所があるんだ。少し歩くけれど、いいかな?」

「ええ、大丈夫ですわ。ぜひ行きましょう」

食後、サフィール様と一緒に、湖の奥へと向かった。

「サフィール様、クマが出たりしませんか?」

森の奥にはクマがいると言っていた。さすがに食べられたくはない。

「この辺りは大丈夫だよ。ほら、あそこだよ」

目の前には、綺麗なお花畑が広がっていた。

「まあ、何て綺麗なのかしら。こんな綺麗なお花畑、初めて見ましたわ」

嬉しくてお花畑に入って行く。

「サフィール様、見て下さい。このお花、初めて見ましたわ。光の加減によって、見える色が違っている様です。こっちのお花は、虹色をしておりますわ。なんて綺麗なのかしら?」

「ここにしか咲かない花たちだからね。とても綺麗なんだが、栽培が難しいうえ、王都の土ではすぐに枯れてしまうからね。あまり流通していないんだよ」

なるほど、そんな花があるだなんて。あら?あの生き物はなにかしら?

「サフィール様、あの細長い生き物は何ですか?こちらを睨んでいる様ですが…」

顔を持ち上げ、渦巻きの様になっている。なんだか怖いわ。すっとサフィール様にしがみつく。

「あぁ、あれは蛇だよ。近づくと噛まれることもあるから、触ろうとしたり捕まえようとしてはいけないよ」

「あの生き物が蛇なのですね。私は生まれも育ちも王都なので、あまり動物を見た事がないのです。それにしても、サフィール様は物知りなのですね」

「僕は自然豊かな領地で生活をしていたからね。大体の生き物を見て来たよ。クマにも会った事があるよ」

「まあ、クマにですか?食べられなかったですか?」

「近くにいた護衛たちがすぐに対処したから、大丈夫だったよ。ただやはりちょっと怖かったけれどね」

「サフィール様でも怖いと感じる事があるのですね」

そう言って笑った。

「せっかくだから、花冠を作ろう」

「サフィール様は花冠が作れるのですか?凄いですわ」

「よくミールにせがまれて作っていたからね」

そう言うと、手際よく花冠を作り始め、あっという間に完成した。そして私の頭に乗せてくれたのだ。

「ありがとうございます。サフィール様は器用なのですね。私も作りたいですわ」

「それじゃあ、作り方を教えてあげるよ」

そこからは時間が許す限り、2人で花冠を作った。

「サフィール様、見て下さい。ここに四葉のクローバーがありますわ」

ふと花冠を作っている時、四葉のクローバーを見つけたのだ。私の国では、四葉のクローバーは1つだけ願い事を叶えてくれると言われている。

「これ、サフィール様に差し上げますわ。今日ピクニックに連れてきてくれたお礼です」

「いいのかい?でも、四葉のクローバーは願いを叶えてくれると言われているものだよ」

「私は特に願い事はありませんので、サフィール様に持っていて欲しいのです」

今サフィール様と過ごせているだけで、十分だ。これ以上欲を出そうとは思わない。

「ありがとう。この四つ葉のクローバーは、僕の宝物にするよ」

そう言ってほほ笑んでくれたサフィール様。彼が笑ってくれると、私も嬉しい。

「ちなみにサフィール様は、何をお願いするのですか?」

「僕かい、そんなの決まっているさ。カロリーナが僕の事を好きになってくれて、ずっと2人で幸せに暮らせますように!と、お願いするよ」

「えっ?」

それって、私がサフィール様の事を好きになって欲しいと言っている様に聞こえるのだが…

「カロリーナ、君はとても鈍いから全く気が付いていないと思うが、僕は7年前のお茶会で、君の事が好きになった。すぐにでも婚約を申し込もうとしていたのだが、色々とあって…そうしている間に、君は別の男性と婚約してしまった。それでも僕は君の事が諦められずに、7年間ずっと思っていたんだ。カロリーナ、僕は君が好きだ。もちろん、異性として」

真っすぐ私を見つめ、そう言ったサフィール様。彼が私を好き?

「そんなに驚かなくてもいいだろう?僕はこの3ヶ月、随分アプローチしてきたと思うのだが…でも、君は僕の気持ちに全然気が付かないから、今日気持ちを伝えようと思ったんだよ。少しでも意識して欲しくてね」

「あの…私は…」

「今すぐに返事は不要だよ。カロリーナはまだ、あの男と婚約破棄してから半年しか経っていない。きっとまだ、心の整理が付いていない部分もあるだろうし、令息に不信感を抱いているところもあるだろう。だから僕は、カロリーナが僕を受け入れてくれるまで待とうと思っている。僕は7年も君を思い続けたんだ。申し訳ないが、そう簡単にあきらめる事は出来ない」

サフィール様の真っすぐな思いが、私の心に響き渡る。私もサフィール様が好きだ、一緒にいて楽しいし、何より心が穏やかになる。でも…もしまた裏切られたら…

怖い…信じて裏切られるのが…

「そんな顔をしないで。僕は君に今すぐ答えを出して欲しいと思っていないから。さあ、そろそろ帰ろう」

私の手を握り、歩き出したサフィール様。温かくて大きな手…手から伝わる温もりが、やっぱり心地いい。でもお互い何を話していいのか分からず、結局家まで無言で帰って来てしまった。

「サフィール様、今日はありがとうございました。その…あの…」

「こっちこそありがとう。それから今日話した事、僕は本気だからね。明日また来るから」

そう言うと、笑顔で馬車に乗り込んでいったサフィール様。サフィール様の後ろ姿を、ただじっと見つめ続けたのだった。
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