27 / 27
第27話:グレイズと幸せな未来に向かって
しおりを挟む
王宮主催の夜会から、早3ヶ月半。あの後マッキーノ侯爵から、改めて謝罪と慰謝料を頂いた。慰謝料はお断りしようとしたのだが
“君には本当に迷惑を掛けたから、どうか受け取って欲しい”
と言われたので、有難く頂く事にしたが、なんだか申し訳ない。
そしてエディソン様だが、どうやら体調が思わしくない様で、領地で療養しているとの事。ただ、まだ私を諦めていないらしい。それでも侯爵様がしっかり監視しているとの事なので、今後私に絡んでくることはないだろうと、なぜかマリーゴールド様が教えてくれた。
侯爵様は今回の件をかなり重く受け止めてくれている様で、二度とエディソン様が私に近づかない様に動いてくれている様だ。さらにエディソン様のお母様でもある、マッキーノ侯爵夫人は、今回私に暴言を吐き、醜態を晒したとの事で、かなり落ち込んでいるらしい。
大好きだったお茶会もほとんど参加していない様で、お母様が“快適だ”と喜んでいた。本当にお母様は…
そもそも今回の事件は、元はと言えば私がエディソン様に恋をし、追い掛け回した事が原因でもあるのだろう。あれほどまでに好意を露わにしていたのだから、エディソン様が私が未だに彼を好きだと誤解しても、おかしくはなかっただろう。だからと言って、無理やり婚約を破棄させるのは、間違っていると思うが…
そんな思いから、しばらくは悩む事もあった。でも、マリーゴールド様始め、友人たちが
“いつまでも過ぎた事を悩んでいても仕方がないわ。だって過去は変えられないのだもの。だから、未来を見ましょう。せっかく大好きなグレイズ様との婚約が継続したのだから、これからは自分たちの幸せを考えないと勿体ないわ”
そう慰めてくれたのだ。彼女たちのお陰で、少し心が軽くなった。過去は変えられない、だからこそ、よりよい未来にするため、今を頑張ろう、そう決めたのだ。
「アンリ、窓の外を見上げてどうしたんだ?」
私に話しけて来たのは、グレイズだ。
「何でもないわ。ただ、毎日こうやって平和に過ごせる日々って、本当に有難いなって思って」
「そうだな…一時は本当にどうなる事かと思ったけれどな。まあ、俺はどっちにしろお前と離れるつもりはなかったけれど」
そう言って笑ったグレイズ。そういえば、夜会の時もそんな事を言っていた。
「ねえ、それってどういう意味?」
「実は俺、お前と国を出る準備をしていたんだ。夜会が終わって送っていく帰りに、2人で事故にあったふりをして、そのまま国を出るつもりだったんだ。だからお前のドレスには裏にも表にも、沢山の宝石がくっ付いていただろう?それを売って、少しでも金にしようと思っていたんだよ」
何ですと!確かにドレスにたくさんの宝石が散りばめられた、かなり豪華な物だったけれど。そんな意図があったなんて…
「何をそんなに驚いているんだよ!俺がお前の言う事なんて聞くと思ったのか?本当に変なところで頑固だからな。お前は」
そう言って笑ったグレイズ。
「グレイズ様の事だから、そんな事だろうと思ったけれど、やっぱり国を出ようとしていたのね」
この声は…
「マリーゴールド様も知っていらしたのですか?」
「ええ、何となくね。私だけじゃないわ。皆知っていたのよ」
何ですと!
私たちの周りに集まっていたクラスメートの方を見つめる。
「ごめんね、アンリ。だって私達、どうしても2人に幸せになって欲しかったのだもの」
「グレイズとアンリ嬢を見ていたら、俺たちも何とかしたいと思って。でも、結局マリーゴールド嬢のお陰で、実行しなくてもよかったけれどな」
「皆…ありがとう…私たちの為に、そこまで動いてくれていただなんて…」
嬉しくてつい涙が溢れる。
「本当にアンリは泣き虫だな。でも、本当に俺たちの為に、色々とありがとう。もし皆が困ったら、俺たちが必ず助けるから。もちろん、出来る範囲でだけれど。な、アンリ」
「もちろんよ…私たちに出来る事があったら、何でも言って!私、突っ走るのだけは得意だから」
「アンリ、頼むから後先考えずに突っ走るのだけは止めてくれ!」
すかさずグレイズが突っ込みを入れる。そんな私たちのやり取りを見たクラスメートたちが、お腹を抱えて笑っている。
これからもこうやって、クラスの皆に支えられて、私たちは過ごしていくのだろう。もちろん、誰かが困ったり苦しんでいたりしたら、迷わずに手を差し伸べたい。皆を見て、強くそう思った。
~1年後~
「アンリ、準備できたか?」
「ええ、もちろんよ」
真っ白なウエディングドレスに身を包み、ゆっくりとグレイズの元へと向かう。そう、今日は私たちの結婚式なのだ。
「いいか、アンリ。今日はたくさんの人間が参列する。万が一マッキーノ侯爵令息が紛れ込んでいるかもしれないから、十分気を付けるんだぞ。俺から絶対に離れるなよ」
「ええ、分かっているわ」
実は1ヶ月ほど前、エディソン様が私を誘拐しようとする騒ぎがあった。ただ、事前に情報を得ていたマッキーノ侯爵から連絡を受けていた為、家の屋敷に侵入しようとしたところで、警備を強化していた家の護衛騎士に捕まったらしい。
護衛たちの話では、ずっと私の名前を叫んでいたとの事。どうやらまだ私を諦めていなかったエディソン様は、すぐに領地に連れて行かれたらしい。そして、もう二度と王都には戻ってこないそうだ。
あの事件以降、さらに警戒を強めているグレイズ。片時も私から離れないどころか、私に居場所を特定する機械を付けさせたり、通信機を持たせたりとかなり過保護になってしまった。
でも、それだけ私の事を大切にしてくれているのだろうと思うと、私としては嬉しい限りなのだ。
グレイズと腕を組み、執事に案内されながら教会の入口へとやって来た。
「グレイズ、今日という日を迎えられた事、本当に嬉しく思うわ。私を好きになってくれてありがとう。色々あったけれど、私は今幸せよ」
グレイズに向かって、改めて感謝の言葉を伝えた。
「俺の方こそ、俺の事を好きになってくれてありがとう。アンリ、これからもずっとずっと一緒だ。愛しているよ、アンリ」
優しい眼差しで、私を見つめるグレイズ。一時はグレイズを諦めた事もあった。でも…マリーゴールド様始め、皆のお陰で今日という日を迎える事が出来た。それが嬉しくてたまらないのだ。
「坊ちゃま、アンリ様、そろそろお時間です」
執事の合図で、ゆっくりと扉が開く。
「アンリ、行くぞ」
「ええ」
沢山の参列者に見守られながら、ゆっくりとバージンロードを歩く2人。幸せそうに微笑む2人は、まだ見ぬ未来に胸弾ませている事だろう。
おしまい
~あとがき~
これにて完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m
“君には本当に迷惑を掛けたから、どうか受け取って欲しい”
と言われたので、有難く頂く事にしたが、なんだか申し訳ない。
そしてエディソン様だが、どうやら体調が思わしくない様で、領地で療養しているとの事。ただ、まだ私を諦めていないらしい。それでも侯爵様がしっかり監視しているとの事なので、今後私に絡んでくることはないだろうと、なぜかマリーゴールド様が教えてくれた。
侯爵様は今回の件をかなり重く受け止めてくれている様で、二度とエディソン様が私に近づかない様に動いてくれている様だ。さらにエディソン様のお母様でもある、マッキーノ侯爵夫人は、今回私に暴言を吐き、醜態を晒したとの事で、かなり落ち込んでいるらしい。
大好きだったお茶会もほとんど参加していない様で、お母様が“快適だ”と喜んでいた。本当にお母様は…
そもそも今回の事件は、元はと言えば私がエディソン様に恋をし、追い掛け回した事が原因でもあるのだろう。あれほどまでに好意を露わにしていたのだから、エディソン様が私が未だに彼を好きだと誤解しても、おかしくはなかっただろう。だからと言って、無理やり婚約を破棄させるのは、間違っていると思うが…
そんな思いから、しばらくは悩む事もあった。でも、マリーゴールド様始め、友人たちが
“いつまでも過ぎた事を悩んでいても仕方がないわ。だって過去は変えられないのだもの。だから、未来を見ましょう。せっかく大好きなグレイズ様との婚約が継続したのだから、これからは自分たちの幸せを考えないと勿体ないわ”
そう慰めてくれたのだ。彼女たちのお陰で、少し心が軽くなった。過去は変えられない、だからこそ、よりよい未来にするため、今を頑張ろう、そう決めたのだ。
「アンリ、窓の外を見上げてどうしたんだ?」
私に話しけて来たのは、グレイズだ。
「何でもないわ。ただ、毎日こうやって平和に過ごせる日々って、本当に有難いなって思って」
「そうだな…一時は本当にどうなる事かと思ったけれどな。まあ、俺はどっちにしろお前と離れるつもりはなかったけれど」
そう言って笑ったグレイズ。そういえば、夜会の時もそんな事を言っていた。
「ねえ、それってどういう意味?」
「実は俺、お前と国を出る準備をしていたんだ。夜会が終わって送っていく帰りに、2人で事故にあったふりをして、そのまま国を出るつもりだったんだ。だからお前のドレスには裏にも表にも、沢山の宝石がくっ付いていただろう?それを売って、少しでも金にしようと思っていたんだよ」
何ですと!確かにドレスにたくさんの宝石が散りばめられた、かなり豪華な物だったけれど。そんな意図があったなんて…
「何をそんなに驚いているんだよ!俺がお前の言う事なんて聞くと思ったのか?本当に変なところで頑固だからな。お前は」
そう言って笑ったグレイズ。
「グレイズ様の事だから、そんな事だろうと思ったけれど、やっぱり国を出ようとしていたのね」
この声は…
「マリーゴールド様も知っていらしたのですか?」
「ええ、何となくね。私だけじゃないわ。皆知っていたのよ」
何ですと!
私たちの周りに集まっていたクラスメートの方を見つめる。
「ごめんね、アンリ。だって私達、どうしても2人に幸せになって欲しかったのだもの」
「グレイズとアンリ嬢を見ていたら、俺たちも何とかしたいと思って。でも、結局マリーゴールド嬢のお陰で、実行しなくてもよかったけれどな」
「皆…ありがとう…私たちの為に、そこまで動いてくれていただなんて…」
嬉しくてつい涙が溢れる。
「本当にアンリは泣き虫だな。でも、本当に俺たちの為に、色々とありがとう。もし皆が困ったら、俺たちが必ず助けるから。もちろん、出来る範囲でだけれど。な、アンリ」
「もちろんよ…私たちに出来る事があったら、何でも言って!私、突っ走るのだけは得意だから」
「アンリ、頼むから後先考えずに突っ走るのだけは止めてくれ!」
すかさずグレイズが突っ込みを入れる。そんな私たちのやり取りを見たクラスメートたちが、お腹を抱えて笑っている。
これからもこうやって、クラスの皆に支えられて、私たちは過ごしていくのだろう。もちろん、誰かが困ったり苦しんでいたりしたら、迷わずに手を差し伸べたい。皆を見て、強くそう思った。
~1年後~
「アンリ、準備できたか?」
「ええ、もちろんよ」
真っ白なウエディングドレスに身を包み、ゆっくりとグレイズの元へと向かう。そう、今日は私たちの結婚式なのだ。
「いいか、アンリ。今日はたくさんの人間が参列する。万が一マッキーノ侯爵令息が紛れ込んでいるかもしれないから、十分気を付けるんだぞ。俺から絶対に離れるなよ」
「ええ、分かっているわ」
実は1ヶ月ほど前、エディソン様が私を誘拐しようとする騒ぎがあった。ただ、事前に情報を得ていたマッキーノ侯爵から連絡を受けていた為、家の屋敷に侵入しようとしたところで、警備を強化していた家の護衛騎士に捕まったらしい。
護衛たちの話では、ずっと私の名前を叫んでいたとの事。どうやらまだ私を諦めていなかったエディソン様は、すぐに領地に連れて行かれたらしい。そして、もう二度と王都には戻ってこないそうだ。
あの事件以降、さらに警戒を強めているグレイズ。片時も私から離れないどころか、私に居場所を特定する機械を付けさせたり、通信機を持たせたりとかなり過保護になってしまった。
でも、それだけ私の事を大切にしてくれているのだろうと思うと、私としては嬉しい限りなのだ。
グレイズと腕を組み、執事に案内されながら教会の入口へとやって来た。
「グレイズ、今日という日を迎えられた事、本当に嬉しく思うわ。私を好きになってくれてありがとう。色々あったけれど、私は今幸せよ」
グレイズに向かって、改めて感謝の言葉を伝えた。
「俺の方こそ、俺の事を好きになってくれてありがとう。アンリ、これからもずっとずっと一緒だ。愛しているよ、アンリ」
優しい眼差しで、私を見つめるグレイズ。一時はグレイズを諦めた事もあった。でも…マリーゴールド様始め、皆のお陰で今日という日を迎える事が出来た。それが嬉しくてたまらないのだ。
「坊ちゃま、アンリ様、そろそろお時間です」
執事の合図で、ゆっくりと扉が開く。
「アンリ、行くぞ」
「ええ」
沢山の参列者に見守られながら、ゆっくりとバージンロードを歩く2人。幸せそうに微笑む2人は、まだ見ぬ未来に胸弾ませている事だろう。
おしまい
~あとがき~
これにて完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m
201
お気に入りに追加
4,530
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。
ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。
実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
わたしの婚約者の好きな人
風見ゆうみ
恋愛
わたし、アザレア・ミノン伯爵令嬢には、2つ年上のビトイ・ノーマン伯爵令息という婚約者がいる。
彼は、昔からわたしのお姉様が好きだった。
お姉様が既婚者になった今でも…。
そんなある日、仕事の出張先で義兄が事故にあい、その地で入院する為、邸にしばらく帰れなくなってしまった。
その間、実家に帰ってきたお姉様を目当てに、ビトイはやって来た。
拒んでいるふりをしながらも、まんざらでもない、お姉様。
そして、わたしは見たくもないものを見てしまう――
※史実とは関係なく、設定もゆるく、ご都合主義です。ご了承ください。
【完結】愛していないと王子が言った
miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。
「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」
ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。
※合わない場合はそっ閉じお願いします。
※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる