彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi

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第17話:エディソン様がグイグイ来ます

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翌日、気が重い中貴族学院へと向かう。

「アンリ、そんなに露骨に嫌そうな顔をするな。大丈夫だ、お前はいつも通り過ごせばいいから」

隣に座っているグレイズが、そう言って私を慰めてくれる。

「ありがとう、そうよね。いつも通り過ごせばいいのよね。それにエディソン様は3年だし、会う事もほとんどないわよね」

学年ごとに棟が違うため、違う学年の生徒と会う事はほとんどない。ただ、私の様に押しかけて来たら話は別だが…

しばらく進むと、学院に着いた。

「アンリ、校門は全学年共通エリアだからな。念のため、急いで教室に向かおう」

「ええ、わかったわ」

グレイズの手をしっかり握り、馬車から降りる。すると

「おはよう、アンリ。待っていたんだよ」

満面の笑みを浮かべたエディソン様が待っていた。そして、グレイズは存在しないものと言わんばかりに私の手を握り、そのまま歩き出そうとする。

「お待ちください、エディソン様。どうか手を放してください。私はグレイズの婚約者です。ですので…」

「ああ…まだグレイズの婚約者だったね。でも、君たちの婚約が解消され、僕と婚約を結び直すのは時間の問題だよ。グレイズ、昨日も言ったと思うが、アンリに近づかないでくれるかい?アンリ、君も僕と婚約を結び直す予定なのだから、あまり他の男と仲良くしないで欲しい。僕は嫉妬深いと言ったよね…」

ニヤリと笑うエディソン様の瞳が、なんだか無性に怖くて、無意識にグレイズにしがみついてしまった。

「アンリ、君は僕の言っている意味が分かっているのかい?まあ、僕も君を1年半も放置したのだから、あまり責められないか。でも僕は、決して君が嫌いで放置していたわけでないんだよ。ほら、君から貰った刺しゅう入りのハンカチもちゃんととってあるし、ダンスだって踊っていただろう?だから機嫌を直して欲しい」

この人は何を言っているのだろう。私は別に、冷遇されていたことを根に持っている訳ではないのに…

「マッキーノ侯爵令息様、そろそろ行かないと授業に遅れますので。失礼いたします。ほら、アンリ、行くぞ」

私の手を引き、グレイズが速足で歩き始めた。

「待って、アンリは僕が送るよ。グレイズと2人きりに何てしたくないからね。それから、これからは行きと帰りは、僕もが送り迎えをする。だから、グレイズはもうアンリと2人きりにならないでくれ!」

そう言いながら、私たちについてくるエディソン様。この人、こんな強引な人だったかしら?

「お言葉ですが、私たちは婚約者同士ですので。それに、スリーフェイル伯爵は、まだ正式に私との婚約を解消し、あなた様との婚約を結び直すとは決めておりませんので」

「グレイズ、君の気持ちもわかる。でもきっと、スリーフェイル伯爵は、僕と婚約を結ばせると思うよ。とにかく、これ以上君たちを2人きりには出来ないから!」

声を荒げるエディソン様。かなりイラついている様だ。近くでそんな風に怒鳴られると、さすがに怖い。

歩きながら、怖くて俯いてしまう。ただありがたい事に、すぐに教室に着いたのだ。

「あぁ、もう教室についてしまったね。それじゃあ、またお昼休みに来るから。それじゃあね」

そう言うと、エディソン様が去って行った。お願い、もう来ないで…

「アンリ」

「グレイズ、大丈夫か?一体何があったんだ?」

クラスメートたちがエディソン様と3人でやって来た私たちを見て、心配そうな顔で飛んできてくれた。

「実は…」

「君たち、席に着きなさい。授業を始めますよ」

話をしようとしたタイミングで、先生が来てしまった。急いで席に着く。そして休憩時間、仲の良いクラスメートたちに話をした。

「何だよ、それは…そんな滅茶苦茶な話ってあるのか?それも、もう既に2人は婚約を結んでいるんだぞ…」

「酷いわ、アンリはずっと、エディソン様に冷遇されていたじゃない。それなのに、今更そんな事を言うなんて…」

友人たちが、一斉に声をあげてくれた。

「ありがとう、皆。でも、まだ正式に婚約破棄が決まった訳でないから…」

そう言って力なく笑った。

「アンリ…可哀そうに。私達で何とか出来たらいいのだけれど…」

「大丈夫よ、こうやって話を聞いてくれる友達がいると言うだけで、心強いわ」

仲良しのクラスメートの大半が、家と同じ伯爵かそれより爵位が低い家の子供たちだ。さすがに侯爵家のエディソン様に逆らう事なんてできないのだ。でも、私たちの為に何とかしてくれようとしてくれる友人たちの気持ちが、嬉しくてたまらない。

そういえば友人が出来たのも、グレイズのお陰なのよね…本当にグレイズには感謝しかない。それと同時に、グレイズには幸せになって欲しいとも思うのだ。


そしてお昼休み、エディソン様は言葉通り、私たちの元にやって来た。そして

「アンリ、君の為に家の料理長に沢山美味しい料理を作らせたんだ。せっかくだから、一緒に食べよう」

と、私に自分のお弁当を勧めてきたのだ。結局断り切れずに、少しだけエディソン様のお弁当を頂く事になった。

さらに放課後、急いで家に帰ろうとしたところ、エディソン様に捕まり、お茶をする事になった。さらに周りの貴族たちに

「僕たちは婚約を結ぶ予定なんだ!」

と吹き込む始末…

ただ、どんなにエディソン様から邪険にされても、グレイズがずっと少し離れたところで見守っていてくれたのが、せめてもの救いだ。グレイズが近くにいてくれるだけで、安心する。

でもグレイズには、随分と負担をかけている。それがどうしても、心に引っかかるのだった。
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