8 / 27
第8話:エディソン様は何を考えているのだろう
しおりを挟む
「アンリ、行くぞ」
私の手を握り、来た道をスタスタと引き返すグレイズ。
「ねえ、ネリア様の事、放っておいていいの?いつものあなたなら、間違いなく声を掛けるのに」
こう見えてグレイズはとても優しい。傷つき涙を流す令嬢をそのまま放置して戻るなんて。それに私も、ネリア様の事が気になる。
「俺はそんなにお人よしじゃない。そもそも痴話げんかに他人が口出しするのは良くない。第一、スカーディス侯爵令嬢も、俺たちなんかに慰められたくはないだろう」
確かにそうよね…
それにしても、いつもお優しいエディソン様が、令嬢にあんな酷い態度を取るなんて…それに、あの冷たい眼差し…
「ねえ、グレイズ。私はてっきりエディソン様とネリア様は愛し合っていて、卒業したら婚約するものとばかり思っていたわ。でも、まさかお優しいエディソン様が、あんな風にネリア様を傷つけるなんて…あんなにも冷酷な顔のエディソン様、初めて見たわ。さすがにちょっと…」
いつも優しい微笑を浮かべているエディソン様。貴族学院で迷子になった私を助けてくれるような人が、まさかあんなに冷たい目をするなんて。
「人間には表の顔と裏の顔がある奴もいるからな。そもそも、マッキーノ侯爵令息って優しいか?本当に優しい人なら、興味のない令嬢に笑顔を振りまいたりしないんじゃないか?変に期待を持たせること程、残酷な事はないぞ。それに、無駄な争いも生むし…」
確かにエディソン様の周りには、いつも令嬢たちがいた。もちろん今日も令嬢たちに囲まれていて、楽しそうにしていた。
「自分に好意を抱いてくれる令嬢を振りほどけないんだから、ただの優柔不断か、女好きなんだろ」
今日のグレイズは随分と、エディソン様の事を悪く言うわね。でも、あながち間違っていないのかも…
「でも、エディソン様の周りの令嬢たちも、結局はエディソン様の美しさと優しさしか見ていないのではなくって。だから、どっちもどっちなのかも…もちろん、私も…」
今考えてみれば、私もずっとエディソン様に付きまとっていた。それにエディソン様の事、何にも知らなかったわ。あの様な一面を持っている事すら知らず、ただ大好きという身勝手な思いだけで、彼の周りをうろついていた…
そして今度は、グレイズに好意を抱いている…
私も結局、自分勝手で自己中心的な人間なんだわ。
「そんなに落ち込むなよ。お前はもう、マッキーノ侯爵令息の取り巻きから足を洗っただろう。確かにあの時のお前は、本当にどうしようもなかったけれど、今は大分マシになったぞ」
「大分マシとは、どういう事よ!でも…ありがとう、グレイズ。これからは、もっと相手の中身をよく知って、さらに相手の事を考えて行動する事にするわ」
「そうだな、お前は少し周りを見てから行動した方がいいかもな。でも、俺はそんなお前の事、嫌いじゃないぞ…」
そう言うと、なぜか頬を赤らめたグレイズ。それって、私の事が好きって事?て、そんな訳ないか。嫌いじゃないという事は、きっと普通という事なのだろう。
「ありがとう、グレイズ。私も貴族学院を卒業するまでに、もっと自分を磨くわ」
そしていつか、グレイズに振り向いてもらえる様に…
その時だった。
「アンリ嬢、ここにいたんだね。探していたんだよ。もう食事はいいのかい?」
何と話しかけてきたのは、さっきネリア様と修羅場を繰り広げていたエディソン様だ。さっき見た冷たい目つきとは打って変わって、いつものスマイルに戻っている。ただ、そのギャップに付いて行けず、一気に顔が引きつる。
「え…ええ。お料理が美味しすぎて、つい食べ過ぎてしまって…それで中庭を散歩しておりましたの。ねえ、グレイズ」
「はい、アンリは後先考えずに行動するところがありますので、目が離せないのです。それでは私たちはこれで」
完全に動揺する私に気が付いたのか、グレイズが私の腕を引っ張り、そのままホールの中に戻ろうとした。
「待って、アンリ嬢。せっかくだから、僕と一緒に踊らない?ほら、去年は一緒に踊っただろう?」
何を思ったのか、ここに来てダンスに誘って来たのだ。あの修羅場を目の当たりにしたのだ。エディソン様とはダンスなんて踊れない。それに先日の夜会では、私からのダンスの誘いを皆の前で断ったくせに…でも、年上で爵位も上のエディソン様の誘いを断るだなんて出来ないし…
「あ…あの…私…」
「マッキーノ侯爵令息様、実は先ほどアンリは中庭で足をひねってしまって。ちょうど医務室に向かうところなのです。ダンスは踊れないかと」
そう言うと、私を抱きかかえたグレイズ。そのままエディソン様に一礼して、スタスタと歩き出した。そしてホールを出ると、医務室へと向かう。もちろん、怪我なんてしていない。
医務室に着くと、先生はいなかった。どうやら先生も今日の夜会に参加している様だ。
「グレイズ、ありがとう。あなたのお陰で助かったわ。それよりも、重かったでしょう?大丈夫だった?」
少し運動したとはいえ、散々お料理を食べたのだ。いつも以上に、体重が増えているはずだ。
「別にお前を抱くくらいどうってことなはい。それよりも、なんでマッキーノ侯爵令息は、お前をダンスに誘ったんだ?」
「そんなの、私にだって分からないわ。そもそも私は、エディソン様に嫌われていたのよ。去年だって、私が強引に誘って、1曲だけ踊ってもらったのだから…それに先日の夜会の時は、私だけ断られたし…」
なぜエディソン様が私を誘ったのかなんて、聞かれてもわかる訳がない。彼は一体何を考えているのだろう…
「とにかくもうすぐ夜会も終わる。しばらくここにいて、終わった頃にホールに戻ろう」
「そうね、その方がいいわ…」
結局しばらく医務室で時間を潰した後、そっとホールに戻り、家路に着いたのであった。
私の手を握り、来た道をスタスタと引き返すグレイズ。
「ねえ、ネリア様の事、放っておいていいの?いつものあなたなら、間違いなく声を掛けるのに」
こう見えてグレイズはとても優しい。傷つき涙を流す令嬢をそのまま放置して戻るなんて。それに私も、ネリア様の事が気になる。
「俺はそんなにお人よしじゃない。そもそも痴話げんかに他人が口出しするのは良くない。第一、スカーディス侯爵令嬢も、俺たちなんかに慰められたくはないだろう」
確かにそうよね…
それにしても、いつもお優しいエディソン様が、令嬢にあんな酷い態度を取るなんて…それに、あの冷たい眼差し…
「ねえ、グレイズ。私はてっきりエディソン様とネリア様は愛し合っていて、卒業したら婚約するものとばかり思っていたわ。でも、まさかお優しいエディソン様が、あんな風にネリア様を傷つけるなんて…あんなにも冷酷な顔のエディソン様、初めて見たわ。さすがにちょっと…」
いつも優しい微笑を浮かべているエディソン様。貴族学院で迷子になった私を助けてくれるような人が、まさかあんなに冷たい目をするなんて。
「人間には表の顔と裏の顔がある奴もいるからな。そもそも、マッキーノ侯爵令息って優しいか?本当に優しい人なら、興味のない令嬢に笑顔を振りまいたりしないんじゃないか?変に期待を持たせること程、残酷な事はないぞ。それに、無駄な争いも生むし…」
確かにエディソン様の周りには、いつも令嬢たちがいた。もちろん今日も令嬢たちに囲まれていて、楽しそうにしていた。
「自分に好意を抱いてくれる令嬢を振りほどけないんだから、ただの優柔不断か、女好きなんだろ」
今日のグレイズは随分と、エディソン様の事を悪く言うわね。でも、あながち間違っていないのかも…
「でも、エディソン様の周りの令嬢たちも、結局はエディソン様の美しさと優しさしか見ていないのではなくって。だから、どっちもどっちなのかも…もちろん、私も…」
今考えてみれば、私もずっとエディソン様に付きまとっていた。それにエディソン様の事、何にも知らなかったわ。あの様な一面を持っている事すら知らず、ただ大好きという身勝手な思いだけで、彼の周りをうろついていた…
そして今度は、グレイズに好意を抱いている…
私も結局、自分勝手で自己中心的な人間なんだわ。
「そんなに落ち込むなよ。お前はもう、マッキーノ侯爵令息の取り巻きから足を洗っただろう。確かにあの時のお前は、本当にどうしようもなかったけれど、今は大分マシになったぞ」
「大分マシとは、どういう事よ!でも…ありがとう、グレイズ。これからは、もっと相手の中身をよく知って、さらに相手の事を考えて行動する事にするわ」
「そうだな、お前は少し周りを見てから行動した方がいいかもな。でも、俺はそんなお前の事、嫌いじゃないぞ…」
そう言うと、なぜか頬を赤らめたグレイズ。それって、私の事が好きって事?て、そんな訳ないか。嫌いじゃないという事は、きっと普通という事なのだろう。
「ありがとう、グレイズ。私も貴族学院を卒業するまでに、もっと自分を磨くわ」
そしていつか、グレイズに振り向いてもらえる様に…
その時だった。
「アンリ嬢、ここにいたんだね。探していたんだよ。もう食事はいいのかい?」
何と話しかけてきたのは、さっきネリア様と修羅場を繰り広げていたエディソン様だ。さっき見た冷たい目つきとは打って変わって、いつものスマイルに戻っている。ただ、そのギャップに付いて行けず、一気に顔が引きつる。
「え…ええ。お料理が美味しすぎて、つい食べ過ぎてしまって…それで中庭を散歩しておりましたの。ねえ、グレイズ」
「はい、アンリは後先考えずに行動するところがありますので、目が離せないのです。それでは私たちはこれで」
完全に動揺する私に気が付いたのか、グレイズが私の腕を引っ張り、そのままホールの中に戻ろうとした。
「待って、アンリ嬢。せっかくだから、僕と一緒に踊らない?ほら、去年は一緒に踊っただろう?」
何を思ったのか、ここに来てダンスに誘って来たのだ。あの修羅場を目の当たりにしたのだ。エディソン様とはダンスなんて踊れない。それに先日の夜会では、私からのダンスの誘いを皆の前で断ったくせに…でも、年上で爵位も上のエディソン様の誘いを断るだなんて出来ないし…
「あ…あの…私…」
「マッキーノ侯爵令息様、実は先ほどアンリは中庭で足をひねってしまって。ちょうど医務室に向かうところなのです。ダンスは踊れないかと」
そう言うと、私を抱きかかえたグレイズ。そのままエディソン様に一礼して、スタスタと歩き出した。そしてホールを出ると、医務室へと向かう。もちろん、怪我なんてしていない。
医務室に着くと、先生はいなかった。どうやら先生も今日の夜会に参加している様だ。
「グレイズ、ありがとう。あなたのお陰で助かったわ。それよりも、重かったでしょう?大丈夫だった?」
少し運動したとはいえ、散々お料理を食べたのだ。いつも以上に、体重が増えているはずだ。
「別にお前を抱くくらいどうってことなはい。それよりも、なんでマッキーノ侯爵令息は、お前をダンスに誘ったんだ?」
「そんなの、私にだって分からないわ。そもそも私は、エディソン様に嫌われていたのよ。去年だって、私が強引に誘って、1曲だけ踊ってもらったのだから…それに先日の夜会の時は、私だけ断られたし…」
なぜエディソン様が私を誘ったのかなんて、聞かれてもわかる訳がない。彼は一体何を考えているのだろう…
「とにかくもうすぐ夜会も終わる。しばらくここにいて、終わった頃にホールに戻ろう」
「そうね、その方がいいわ…」
結局しばらく医務室で時間を潰した後、そっとホールに戻り、家路に着いたのであった。
371
お気に入りに追加
4,749
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。
ふまさ
恋愛
「……ごめん。ぼくは、きみではない人を愛してしまったんだ」
幼馴染みであり、婚約者でもあるミッチェルにそう告げられたエノーラは「はい」と返答した。その声色からは、悲しみとか、驚きとか、そういったものは一切感じられなかった。
──どころか。
「ミッチェルが愛する方と結婚できるよう、おじさまとお父様に、わたしからもお願いしてみます」
決意を宿した双眸で、エノーラはそう言った。
この作品は、小説家になろう様でも掲載しています。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。
ふまさ
恋愛
「いや、それはいいのです。貴族の結婚に、愛など必要ないですから。問題は、僕が、エリカに対してなんの魅力も感じられないことなんです」
はじめて語られる婚約者の本音に、エリカの中にあるなにかが、音をたてて崩れていく。
「……僕は、エリカとの将来のために、正直に、自分の気持ちを晒しただけです……僕だって、エリカのことを愛したい。その気持ちはあるんです。でも、エリカは僕に甘えてばかりで……女性としての魅力が、なにもなくて」
──ああ。そんな風に思われていたのか。
エリカは胸中で、そっと呟いた。
どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる