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第8話:エディソン様は何を考えているのだろう
しおりを挟む「アンリ、行くぞ」
私の手を握り、来た道をスタスタと引き返すグレイズ。
「ねえ、ネリア様の事、放っておいていいの?いつものあなたなら、間違いなく声を掛けるのに」
こう見えてグレイズはとても優しい。傷つき涙を流す令嬢をそのまま放置して戻るなんて。それに私も、ネリア様の事が気になる。
「俺はそんなにお人よしじゃない。そもそも痴話げんかに他人が口出しするのは良くない。第一、スカーディス侯爵令嬢も、俺たちなんかに慰められたくはないだろう」
確かにそうよね…
それにしても、いつもお優しいエディソン様が、令嬢にあんな酷い態度を取るなんて…それに、あの冷たい眼差し…
「ねえ、グレイズ。私はてっきりエディソン様とネリア様は愛し合っていて、卒業したら婚約するものとばかり思っていたわ。でも、まさかお優しいエディソン様が、あんな風にネリア様を傷つけるなんて…あんなにも冷酷な顔のエディソン様、初めて見たわ。さすがにちょっと…」
いつも優しい微笑を浮かべているエディソン様。貴族学院で迷子になった私を助けてくれるような人が、まさかあんなに冷たい目をするなんて。
「人間には表の顔と裏の顔がある奴もいるからな。そもそも、マッキーノ侯爵令息って優しいか?本当に優しい人なら、興味のない令嬢に笑顔を振りまいたりしないんじゃないか?変に期待を持たせること程、残酷な事はないぞ。それに、無駄な争いも生むし…」
確かにエディソン様の周りには、いつも令嬢たちがいた。もちろん今日も令嬢たちに囲まれていて、楽しそうにしていた。
「自分に好意を抱いてくれる令嬢を振りほどけないんだから、ただの優柔不断か、女好きなんだろ」
今日のグレイズは随分と、エディソン様の事を悪く言うわね。でも、あながち間違っていないのかも…
「でも、エディソン様の周りの令嬢たちも、結局はエディソン様の美しさと優しさしか見ていないのではなくって。だから、どっちもどっちなのかも…もちろん、私も…」
今考えてみれば、私もずっとエディソン様に付きまとっていた。それにエディソン様の事、何にも知らなかったわ。あの様な一面を持っている事すら知らず、ただ大好きという身勝手な思いだけで、彼の周りをうろついていた…
そして今度は、グレイズに好意を抱いている…
私も結局、自分勝手で自己中心的な人間なんだわ。
「そんなに落ち込むなよ。お前はもう、マッキーノ侯爵令息の取り巻きから足を洗っただろう。確かにあの時のお前は、本当にどうしようもなかったけれど、今は大分マシになったぞ」
「大分マシとは、どういう事よ!でも…ありがとう、グレイズ。これからは、もっと相手の中身をよく知って、さらに相手の事を考えて行動する事にするわ」
「そうだな、お前は少し周りを見てから行動した方がいいかもな。でも、俺はそんなお前の事、嫌いじゃないぞ…」
そう言うと、なぜか頬を赤らめたグレイズ。それって、私の事が好きって事?て、そんな訳ないか。嫌いじゃないという事は、きっと普通という事なのだろう。
「ありがとう、グレイズ。私も貴族学院を卒業するまでに、もっと自分を磨くわ」
そしていつか、グレイズに振り向いてもらえる様に…
その時だった。
「アンリ嬢、ここにいたんだね。探していたんだよ。もう食事はいいのかい?」
何と話しかけてきたのは、さっきネリア様と修羅場を繰り広げていたエディソン様だ。さっき見た冷たい目つきとは打って変わって、いつものスマイルに戻っている。ただ、そのギャップに付いて行けず、一気に顔が引きつる。
「え…ええ。お料理が美味しすぎて、つい食べ過ぎてしまって…それで中庭を散歩しておりましたの。ねえ、グレイズ」
「はい、アンリは後先考えずに行動するところがありますので、目が離せないのです。それでは私たちはこれで」
完全に動揺する私に気が付いたのか、グレイズが私の腕を引っ張り、そのままホールの中に戻ろうとした。
「待って、アンリ嬢。せっかくだから、僕と一緒に踊らない?ほら、去年は一緒に踊っただろう?」
何を思ったのか、ここに来てダンスに誘って来たのだ。あの修羅場を目の当たりにしたのだ。エディソン様とはダンスなんて踊れない。それに先日の夜会では、私からのダンスの誘いを皆の前で断ったくせに…でも、年上で爵位も上のエディソン様の誘いを断るだなんて出来ないし…
「あ…あの…私…」
「マッキーノ侯爵令息様、実は先ほどアンリは中庭で足をひねってしまって。ちょうど医務室に向かうところなのです。ダンスは踊れないかと」
そう言うと、私を抱きかかえたグレイズ。そのままエディソン様に一礼して、スタスタと歩き出した。そしてホールを出ると、医務室へと向かう。もちろん、怪我なんてしていない。
医務室に着くと、先生はいなかった。どうやら先生も今日の夜会に参加している様だ。
「グレイズ、ありがとう。あなたのお陰で助かったわ。それよりも、重かったでしょう?大丈夫だった?」
少し運動したとはいえ、散々お料理を食べたのだ。いつも以上に、体重が増えているはずだ。
「別にお前を抱くくらいどうってことなはい。それよりも、なんでマッキーノ侯爵令息は、お前をダンスに誘ったんだ?」
「そんなの、私にだって分からないわ。そもそも私は、エディソン様に嫌われていたのよ。去年だって、私が強引に誘って、1曲だけ踊ってもらったのだから…それに先日の夜会の時は、私だけ断られたし…」
なぜエディソン様が私を誘ったのかなんて、聞かれてもわかる訳がない。彼は一体何を考えているのだろう…
「とにかくもうすぐ夜会も終わる。しばらくここにいて、終わった頃にホールに戻ろう」
「そうね、その方がいいわ…」
結局しばらく医務室で時間を潰した後、そっとホールに戻り、家路に着いたのであった。
私の手を握り、来た道をスタスタと引き返すグレイズ。
「ねえ、ネリア様の事、放っておいていいの?いつものあなたなら、間違いなく声を掛けるのに」
こう見えてグレイズはとても優しい。傷つき涙を流す令嬢をそのまま放置して戻るなんて。それに私も、ネリア様の事が気になる。
「俺はそんなにお人よしじゃない。そもそも痴話げんかに他人が口出しするのは良くない。第一、スカーディス侯爵令嬢も、俺たちなんかに慰められたくはないだろう」
確かにそうよね…
それにしても、いつもお優しいエディソン様が、令嬢にあんな酷い態度を取るなんて…それに、あの冷たい眼差し…
「ねえ、グレイズ。私はてっきりエディソン様とネリア様は愛し合っていて、卒業したら婚約するものとばかり思っていたわ。でも、まさかお優しいエディソン様が、あんな風にネリア様を傷つけるなんて…あんなにも冷酷な顔のエディソン様、初めて見たわ。さすがにちょっと…」
いつも優しい微笑を浮かべているエディソン様。貴族学院で迷子になった私を助けてくれるような人が、まさかあんなに冷たい目をするなんて。
「人間には表の顔と裏の顔がある奴もいるからな。そもそも、マッキーノ侯爵令息って優しいか?本当に優しい人なら、興味のない令嬢に笑顔を振りまいたりしないんじゃないか?変に期待を持たせること程、残酷な事はないぞ。それに、無駄な争いも生むし…」
確かにエディソン様の周りには、いつも令嬢たちがいた。もちろん今日も令嬢たちに囲まれていて、楽しそうにしていた。
「自分に好意を抱いてくれる令嬢を振りほどけないんだから、ただの優柔不断か、女好きなんだろ」
今日のグレイズは随分と、エディソン様の事を悪く言うわね。でも、あながち間違っていないのかも…
「でも、エディソン様の周りの令嬢たちも、結局はエディソン様の美しさと優しさしか見ていないのではなくって。だから、どっちもどっちなのかも…もちろん、私も…」
今考えてみれば、私もずっとエディソン様に付きまとっていた。それにエディソン様の事、何にも知らなかったわ。あの様な一面を持っている事すら知らず、ただ大好きという身勝手な思いだけで、彼の周りをうろついていた…
そして今度は、グレイズに好意を抱いている…
私も結局、自分勝手で自己中心的な人間なんだわ。
「そんなに落ち込むなよ。お前はもう、マッキーノ侯爵令息の取り巻きから足を洗っただろう。確かにあの時のお前は、本当にどうしようもなかったけれど、今は大分マシになったぞ」
「大分マシとは、どういう事よ!でも…ありがとう、グレイズ。これからは、もっと相手の中身をよく知って、さらに相手の事を考えて行動する事にするわ」
「そうだな、お前は少し周りを見てから行動した方がいいかもな。でも、俺はそんなお前の事、嫌いじゃないぞ…」
そう言うと、なぜか頬を赤らめたグレイズ。それって、私の事が好きって事?て、そんな訳ないか。嫌いじゃないという事は、きっと普通という事なのだろう。
「ありがとう、グレイズ。私も貴族学院を卒業するまでに、もっと自分を磨くわ」
そしていつか、グレイズに振り向いてもらえる様に…
その時だった。
「アンリ嬢、ここにいたんだね。探していたんだよ。もう食事はいいのかい?」
何と話しかけてきたのは、さっきネリア様と修羅場を繰り広げていたエディソン様だ。さっき見た冷たい目つきとは打って変わって、いつものスマイルに戻っている。ただ、そのギャップに付いて行けず、一気に顔が引きつる。
「え…ええ。お料理が美味しすぎて、つい食べ過ぎてしまって…それで中庭を散歩しておりましたの。ねえ、グレイズ」
「はい、アンリは後先考えずに行動するところがありますので、目が離せないのです。それでは私たちはこれで」
完全に動揺する私に気が付いたのか、グレイズが私の腕を引っ張り、そのままホールの中に戻ろうとした。
「待って、アンリ嬢。せっかくだから、僕と一緒に踊らない?ほら、去年は一緒に踊っただろう?」
何を思ったのか、ここに来てダンスに誘って来たのだ。あの修羅場を目の当たりにしたのだ。エディソン様とはダンスなんて踊れない。それに先日の夜会では、私からのダンスの誘いを皆の前で断ったくせに…でも、年上で爵位も上のエディソン様の誘いを断るだなんて出来ないし…
「あ…あの…私…」
「マッキーノ侯爵令息様、実は先ほどアンリは中庭で足をひねってしまって。ちょうど医務室に向かうところなのです。ダンスは踊れないかと」
そう言うと、私を抱きかかえたグレイズ。そのままエディソン様に一礼して、スタスタと歩き出した。そしてホールを出ると、医務室へと向かう。もちろん、怪我なんてしていない。
医務室に着くと、先生はいなかった。どうやら先生も今日の夜会に参加している様だ。
「グレイズ、ありがとう。あなたのお陰で助かったわ。それよりも、重かったでしょう?大丈夫だった?」
少し運動したとはいえ、散々お料理を食べたのだ。いつも以上に、体重が増えているはずだ。
「別にお前を抱くくらいどうってことなはい。それよりも、なんでマッキーノ侯爵令息は、お前をダンスに誘ったんだ?」
「そんなの、私にだって分からないわ。そもそも私は、エディソン様に嫌われていたのよ。去年だって、私が強引に誘って、1曲だけ踊ってもらったのだから…それに先日の夜会の時は、私だけ断られたし…」
なぜエディソン様が私を誘ったのかなんて、聞かれてもわかる訳がない。彼は一体何を考えているのだろう…
「とにかくもうすぐ夜会も終わる。しばらくここにいて、終わった頃にホールに戻ろう」
「そうね、その方がいいわ…」
結局しばらく医務室で時間を潰した後、そっとホールに戻り、家路に着いたのであった。
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